時薬の効果

今日久しぶりに以前働いていた場所の近くで仕事をした。

駅からすぐの路地に入ると、いつも前を通り過ぎた一度も入ったことがない見慣れたお洒落なバルやバーがある。

彼が仕事帰りに毎回迎えに来てくれた職場近くのコンビニの前。

帰りにデートの約束をした日、駅から歩いて迎えに来てくれて、てっきり車で来るかと思っていてそのコンビニの前に止まっていた車に近づいて行ったら

「車で来るって言ってないじゃん!」

と知らない人の車に近寄っていく
私を見つけて慌てた彼に手を引かれた。

その後一緒に食べた夜ご飯はハンバーグで、胸がいっぱいで半分しか食べられなかったそれを彼が食べてくれた。

「この後どうする?帰る?」って聞いた彼に

『うち来る?』って言ったんだ。

初めて乗せてもらった愛車はすごく綺麗にしててかっこよくて、運転する彼の横顔にどきどきした。

「あ、今日満月か」

そう言われて見上げた月はまん丸で

『ほんとだ!』

って彼を見たら目が合って、信号待ちでキスされたのだって今でもよく覚えている。




彼とは職場で知り合った。

もう2年半も前になる。

最近は時が経つのが早すぎて悲しくなるの。

12月は毎年そう感じるけどね。

彼が私のそばからいなくなってもうすぐ1年。

時薬が効いて、忘れたみたいに、むしろ出会ってすらなかったかのように笑って過ごしているときだってあるのに。

仕事を変えたのだって、
楽しいことをするのだって、

誰かとデートをするのだって、

本当はきっと彼のことを忘れたいから。

思い出してまた会いたいと思ったりしたくないから。

だって、もう彼は私のそばにはいないから。

そんな風に自分の気持ちを取り繕っているから
急に全部辞めたくなる。

明日の仕事だって本当はもう行きたくない。



私はさ、この1年で変わったと思ってたの、
自分のこと。
もうあの頃の私じゃないって思いたかった。

あんな風に胸が苦しくて泣くことも、
ただ一緒にいて幸せすぎてしまう事も、
その幸せをいつか失うことに怯えることも、

本当にこのままずっと一緒にいられるのかもしれないって期待してしまうことも

全てを、昨日のことのように思い出してしまう事も、全部ダメだと思ってた。


だから、いつものようにただ季節が通り過ぎただけなんだって思いたかった。

でもそれは多分、ただ時間っていうお薬が効いていただけで。

こんな事言っちゃいけないのかもしれないけど

なんかもう生きていたくないと思った。

忘れる為に何かをするのが面倒くさくなってきた。




時薬の効果は、こうやって時々急に切れちゃうんだ。

なんで忘れられないんだろう。

なんでまだ思い出して胸が苦しくなるんだろう。

なんでまだ、こんなにいつまでも泣いてしまうんだろう。



本当に本当に大好きだった。

あなたもそうだったらいいのにな。







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