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早過ぎた天才・詩人歌手『螢』さん

20数年前、音楽雑誌『音楽と人』に、
ひとりの少女の記事が掲載された。


『螢』と名乗る、その少女は、14歳。

インディーズデビューライブを、
終えたタイミングだった。

モデルをしていたという、整った顔立ち、
透き通った瞳。

彼女を見た私は、ひと目で、
彼女の虜になった。

螢さんの曲は、

囁くような歌+詩の朗読

で、構成されている。

(歌)ねむりの底でユメみてた 消したい文字でも
けせないでいて 夜にも…酔ってました

(朗読)鏡に映るカタチは 血と炎とクモの巣
…わたしはじぶんの底で ないてる

(歌)ちいさなひめい なみだめたどる
イミのない コトバさがす
ハリガネ/螢

という感じだ。

インタビューの言葉遣いも、独特で、
感性の鋭さを思わせた。

彼女が、歌手デビューするきっかけは、
学校での酷いいじめや、家庭で問題を抱えており、
その痛みを、ノートに書いた物を、
プロデューサーのiori(伊織)氏に見せたことだという。

彼女は、インタビューで、

好奇心や、お金目当てで近づいてきた人は、目を見れば分かる

と、言っていた。

実際に曲を聴くと、
この小さな体に、
どれだけの悲しみや、苦しみを抱えて
生きているのだろう、と、
思わずにはいられなかった。

自身の、いじめ体験を基に
作られた曲は、
静かな怒りと、悲しみに満ち、

同じく、酷いいじめに遭っていた私は、
まるで、中学生の時の自分を見ているようだった。

彼女は自身を『螢』と名付けたのは、

小さな光を届けたかったから

と、語っている。

その小さな光は、確実に、
彼女に変化をもたらし、

学校でのいじめは、次第に下火になり、
ついには、サインを求められるようになったという。

メジャーシーンで活動したのは、
2年程だろうか。

16歳で、またインディーズに戻り、
螢舎、という、小さな会社を設立し、
活動を続けていた。

その間にリリースされた作品を、
私は持っていない。

流通に乗らない作品を入手するのは、
今ほど簡単ではなく、
郵便振込や、為替などを、
発売元に送る必要があった。

仕事が忙しかった私は、
なかなかそれが出来なかった。

そうこうする内に、突如、

自身の名前を冠したアルバム、
『螢』をリリースする、という
アナウンスがあった。

実は、本人が、ある雑誌の連載で、
海外留学するかもしれないことを
伝えていた。

もしかしたら、これが、ラストアルバムになるかもしれない。

そう思えば良かったのだが、
私は、何故かそう思わなかった。

そして、随分後になって、
この『螢』をリリース後、
海外留学したことを知った。

事実上の、引退だ。

私は、色々な中古販売店に行っては、
このアルバムを探したが、
どうしても、見つからなかった。

ところが、昨年、
何気なく覗いた、某通販サイトで、
このアルバムを見つけた。

黒く、肩で揃えられていた髪は、
茶色く、長く伸び、
眉も細く整えた、17歳の螢さんがいた。

どうしても欲しい。

定価より、かなり高かったが、
私は迷わず買った。

そこで見えたのは、
それまで多く使っていた、カタカナや、
造語は減り、

前を向いて歩く、自分らしい生き方をする、

と、堂々と歌う彼女だった。

彼女は、17歳の時点で、海外8ヵ国に
行っていた。

その中で、自分の怒りや悲しみは、
自分だけではなく、
世界中の誰かも感じていることだ、
と、気付けた、
人間は、完璧じゃない、と、
曲中で語っている(インタビューの音声)。

それに気付いたからこそ、
音楽をやめ、留学出来たのだろう。

一瞬の煌めきのように、
音楽シーンを駆け抜けた、螢さん。

今が幸せであることを、
切に願う。

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