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好きなアルバムその3 『おやすみなさい。歌唄い』

 今回選んだのは、2009年発売の踊ってばかりの国の1stミニアルバム、『おやすみなさい。歌唄い』。はっきり言って、自分は踊ってばかりの国の熱心なファンではない。好きな曲はいくつかあるし、アルバムも一通り聴いてるけど、(まだ)そこまでピンときていない。高3の時同じクラスだった女子が好きなバンド、カネコアヤノの相棒が前にいたバンド、そんな感じの印象。
 でも、このミニアルバムだけは特別で、唯一といっていいほど繰り返し繰り返し聴いている。揺蕩うような優しさも感じるし、ぬちょっとした醜さも感じる。優しくて醜いおいらが惹かれるわけだ。歌詞がSpotifyにも歌詞サイトにも載っていないけど、一曲一曲空耳しながら感想を書いていきたい。


M1. 僕はラジオ ★★★★★

 一曲目、イントロからすごい。ぼやけたサイケデリックなギター。でもメロディーが美しいんだな。 疲れてる時に聴いたら涙がポロっと出ちゃいそうな気もする。自虐っぽさがキュートでかなしいけど、“ダイナモ”なんです。最初、ダイナモが何か分からなくて調べたら、発電機のことだった。ダイナモのラジオというと、手回しのレバーがついているあれ。うちの実家にもあったなあ。自分(たち)を音楽を発する、そしてエネルギーも生み出すダイナモのラジオに例えるというところに、デビューアルバムらしい瑞々しい決意を感じる。


M2. 死ぬな! ★★★★☆

 いいタイトル。踊ってばかりの国には政治的なイメージが何となくあるけれど、思想の根本には「死ぬな!」という気持ちがあるんだろうなあ。「死ね」みたいな言葉が氾濫してるから安心する。変態的なリフが響く中「みすぼらしいのは僕だけさ~」のところでギターがジャーンと鳴るのが気持ちいい。Youtubeに初期のライブ映像があって、それ見たら下津さんがベース弾いてた。青葉市子、マヒトゥと一緒にやってた時はドラム叩いてたし、やっぱ何でもできるのかー。カッコいい。


M3. 写陰邪陰 ★★★☆☆

 謎の言葉・写陰邪陰。このアルバムの中では個人的に一番印象が薄いけど、サイケデリック濃度は高い高い。別にサイケというジャンルに明るい訳ではないが、このサイケは日本でしか生まれないサイケだな、という気がする。湿度が高いし、ひゅーどろどろ感も強いし。間奏がむっちゃこわくて、得体の知れないものに出くわしたような感覚が得られる。


M4.君が嫌い… ★★★☆☆

 …ソングの系譜(DA PUMPの『If…』、高橋真梨子の『for you…』など)。「きれいな君」と「汚い僕」みたいな、よくある対比ではあるけど、下津光史が歌う悲しさは並大抵のそれじゃない。この泣いているような歌声はなんなんだろう…。忌野清志郎とか佐藤伸治とか、そのラインだよな。おまけにサイケデリックなゆらゆらしたサウンドを聴いていると、目元がウルウルしてくる。


M5. 意地悪 ★★★★☆

 Built to Spillの『Center of the Universe』とかラブリーサマーちゃんの『I Told You A Lie』とか、ひょうきんなリフが大好物なので、漏れなくこの曲のリフも大好き。歌詞も“カマキリ”や“お魚さん”が出てきて可愛い。


M6. 緑の汽車に乗って ★★★★★

 ここにきて超爽やかな曲。結構こってりしたサウンドが続いていた流れでこの曲が挟まるからほっとする。サイケデリックな音も聴こえるけど、シンプルなメロディーとシンプルなボーカルで、ちゃんといい曲。カラオケで歌いたいけど、やっぱり入ってないのよなあ。


M7. 四色パノラマ ★★★☆☆

 大好きな二曲に挟まれて少し影が薄いけど、アップテンポで非常にカッコいい。この曲でも"生きよう"という歌詞が出てくる。下津さんには正直暴力的なイメージがあるし(例の一件で)、音楽性が音楽性なだけに、おどろおどろしいというか、退廃的な香りがするけど、歌詞のメッセージは基本的に前向きなのが素晴らしい。


M8. 毛が生えて騒いでいる ★★★★★

 はい、大名曲。このアルバムが輝くのはこの曲があるからだと断言しても構わないほどのクオリティだと思う。
 まず最初の「アン、アッアン」の連呼で、それまでの楽曲のこわさとはまた別種のこわさが訪れる。喘ぎ声にしては無機質すぎるけど、それ以外の解釈が見当たらない音の並びなので、既に厭さがある。そこから暫くは静かにじめっとした音が続くけど、二分ほど経ったところでジャカジャーンとギターが鳴ってカタルシス到来!からのサビで、さらに快感。ロックのダイナミズムを存分に感じられる、非常に気持ちのいい曲なのです、、、、、が、歌詞を見るとすごく不穏なのです。「母さんは痛いから僕にすがってる」「父さんの暴力が一番偉大さ」など、虐待やDVを思わせる歌詞。暴力を受けながら自身の身体に毛が生えてくることを歌っていて、そこにあくまで個人的だけど、思うところがある。
 "毛が生える"ってのは、男にとっては第二次性徴、子供から大人になる成長の現れで、それはポジティブな部分もあればネガティブな部分もある。大人になりたくない、みたいなモラトリアムが一般的なネガティブな側面だろうけど、この曲に関して言えば、大人=父さんで、妻や息子に暴力を振るう父親のように僕もなってしまうんだ、という意味での嘆きが含まれているんだと思う。
 自分はもう22歳なので、既に第二次性徴を終え毛は生えきっているけど、自分のすね毛や髭を見るたびに男性性を強く感じられて、その度に少しいやーな気持ちになる。心が女性で、という話ではなくて、未だに男性が特権的な社会のシステムだとか、性的な部分で女性を害する事件や諸問題などの、その男性という括りに自分が含まれていること、或いはその男性的な汚れた部分が自分の中にあることがしんどい。その苦悩や葛藤に似たものをこの曲から感じる。違うかもしれないけど、少なくとも自分にはそう感じられる。その悩みを「一人ぼっちゴミ箱の中で叫んでる」と歌ってくれるのが、代弁してくれているようでスカッとするのだ。



 ふぅ~。最後ずらーっと書いてたら、急にぷちっと集中力が切れてしまったのでこれで終わりにしよう。まだ深く聴けていないけど、踊ってばかりの国だと他には、セシウムが入っている『FLOWER』とか、いいねしてる曲がいっぱい入っている『光の中に』とか、あと去年のEPも良かったのでもっと聴いていきたい。

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