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idea#4 Solar Battery LED Panel System

防災照明モジュール 仕組みの普及まで考える

災害のための照明とは、非常時に必要な照明である。キャンプ用の照明が一般的なように、家庭用の非常時用照明器具は多くの技術者によって開発されてきている。90%以上の世帯では自宅に懐中電灯を常備してあるという調査結果もあり、法規制によって屋内の防災照明は充分な安全を確保できる体制が整っている。しかし屋外防災照明となると、非常電源付き街路灯など様々な照明器具が開発はされているものの、規制がないため屋外の防災照明を整備している自治体は少ない。


幸運にもというと語弊があるが、今回の大震災は昼間に起こった。これが夜間に起こっていたとすると犠牲者はさらに増えていたのことは想像に難くない。阪神大震災も夜明けの少し前だったので、屋外の防災照明の重要性はあまり議論されてこなかった。しかし約50%の確立で災害は夜間に起こる。そして大きな災害時に生死を分けるのは屋外における迅速な避難行動である。


照明デザイナーである我々にできることは、防災照明器具をどう普及させる、どのように活用するかというソフト面を考えることではないか。そのためには、普及しやすい器具の開発と、屋外照明の重要性の啓蒙することが我々の役割なのではないかと考えた。

非常時用照明に関する日本の規制・規格等
照明学会      非常時用照明の基準 (2005.03)
国土交通省     建築基準法施工例および告示(非常灯)
総務省消防庁    誘導灯及び誘導標識にかかる設置・維持ガイドライン(1999)
日本工業規格    JIS Z 9101 安全色及び安全標識―産業環境及び案内用安全標識のデザイン通則
日本照明器具工業会 JIL5501 非常用照明器具技術指針
                                 JIL5502 誘導灯器具及び避難誘導システム用装置技術基準

避難照明の分類                                                               法的規制 /規格基準
避難照明        屋内避難照明    誘導灯                             あり                                                                              非常灯        あり    

                      屋外避難照明     避難経路の照明    なし
                                                 広域避難場所の照明  なし


普及しやすい器具の開発
器具は停電や電力不足を前提として、ソーラーパネルと蓄電池を併設した屋外用LEDパネルを提案する。日進月歩で改良改善されていゆくソーラーパネルと、光源の点灯に必要な電力が最小限であるLEDは災害時の照明としては理想的な材料である。そもそもLEDは直流で点灯する光源なのでソーラーパネル発電とは相性がいい。このLEDパネルは300x300mmのフラットでシンプルなモデュールに一本化することで、
 1. 大量生産が可能→できるだけ価格を抑える
 2. ポータブル・省スペース→緊急時の効率的な輸送、運搬
 3. 直感的なインターフェース、用途のフレキシビリティー
を目指している。

また、太陽エネルギーによって蓄電されていない状態でも、自動車のバッテリー、風力エネルギーなどのあらゆる直流電源につなぐ事で蓄電、点灯が可能である。


屋外照明の重要性の啓蒙
夜間の災害直後の避難から、避難所で長期にわたり余儀なくされる生活まで、一連の流れの中で必要とされる照明は異なる。
下には提案するソーラーLEDパネルがどのように使われるかの一例を示している。電力、物資、輸送力が不足する中で、一つのものが多様に使われることは、「ふろしき」に通ずるアイデアである。
また防災だけではなく、防犯としての機能も期待できる。
パネルの様々な使い方を示したしおりや、地域コミュニティーに根ざしたワークショップなどを通してパネルをユーザーフレンドリーなものにしていく運動も我々の役目である。

避難経路                              災害直後の停電は不安を助長する。照明として最優先されるのは避難者を避難所まで安全に導くことである。道路標識やポール灯、樹木などに取り付けられたソーラーLEDは避難者が障害物を避けられるための最低照度0.2Lux程度で避難経路を照らす。

一時避難地                             一時的な避難が終わると、避難路を照らしていたソーラーLEDを取り外し組み合わせて明るくする。こういった状況ではおそらく明るければ明るいほど安心を感じる。また避難地では応急手当や身元確認などの機能的な明るさも要求される。

避難所                               避難所生活が長期に渡ると避難所の昼夜を問わない照明が不眠障害や心理的・生理的障害を増幅する。夜間は各々が必要なときに照明を使えると良い。昼間に充電したソーラーLEDは工夫次第で読書灯になるしランタンにもなる。

最後に
自然災害や人的災害の非常時に照明デザイナーができることは何か。これは今回の東北における大震災が発生した直後から常に頭の片隅に置かれた自分自身への問いかけであった。映像や写真で見る地震や津波の脅威は想像を絶するものである。実際に被災地に出向いて照明の現状を把握することが照明デザイナーとして踏むべき第一歩なのではないかと思う。社内で、被災地や避難所の現状をリサーチする委員会を設置することも考えられると思う。

参考文献
土井正 「防災・非常時用照明のこれから」 『照明学会誌』 弟90巻 第4号 P198-202
土井正 「照明設備の避難行動に及ぼす影響 -阪神淡路大震災-」 『日本建築学会学術講演梗概集』 1996年9月 P331-332
大野治代 「非常用照明の所有状況と設置場所」 『日本建築学会学術講演梗概集』 1997年9月 P339-340

‐ May 2011   by Yusuke HATTORI -

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