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ハタチの恋愛

昨日、最寄駅のホームにオリオンビールの空き缶が転がっていた。それを見て思い出すのは先週行った沖縄料理の居酒屋のことではなくて、好きな人に貸していたお金を返してもらった日「今から部屋で飲もうよ」って近所のスーパーに寄って買ったオリオンビール。もう6年くらい前のことなのに、鮮明に思い出せる。2人ともオリオンビールが好きだった。というか、あの人がオリオンビールが好きで、好きな人の好きなものは好きでいたかったからわたしもオリオンビールが好きになったのか。テレビを流しながらくだらない話をたくさんした。宇多田ヒカルのtravelingをモノマネ芸人が歌っていて、あの人は宇多田ヒカルの曲なんて知らなくて、ちょっと寂しかったけどわたしだけが知っていてあの人は知らないとか、逆にあの人だけが知っていてわたしは知らないとかたくさんあったから慣れっこではあった。4歳差ってこういうことなんだなって諦めていたし、そんな埋まらない距離さえも好きだった。だらしがなくて、どうしようもない人だったけれど、大好きだった。「美ら」って名前の沖縄料理の居酒屋によく一緒に飲みに行った。ハタチの誕生日もそこでお祝いしてくれたな。いつか沖縄で一緒にオリオンビール、飲みたいねって言ったら別に沖縄には行かなくてここでいいやと言われて、この人と一緒にいる将来はないんだなってわかってしまった。悲しいよりもすっと腑に落ちて、この人とは今だけの恋なんだなって思ったのを覚えている。余談だけれど、わたしの家系は第六感みたいなのがあって、あの時はっきりとあの人の将来が視えたのをずっと覚えている。その通りになっているといいな、と思う。わたしと一緒じゃないけれど、幸せでいてくれたらそれでいい。あの人とたくさん行った美らも、この前調べたら閉店してしまっていた。こうやって思い出は、ひとつ、またひとつと消えていっちゃうんだ。いつか、オリオンビールの空き缶を見てもあの人のことを思い出さなくなる日が来るのかな。6年ぶりにオリオンビールを飲んで涙が出そうになったけれど、それもいつか平気になっちゃうのかな。おばあちゃんになっても、ふと思い出して泣いちゃいたいよ。俺なんかと一緒になったら親が泣くぞって言われたけど、正直、親とかどうでもよかったよ。借金まみれのギャンブル依存症だったけど、好きって気持ちだけでどうにでもなるって、何の根拠も無く信じていた。若いって恐ろしい。結局、喧嘩別れしてしまったけれど、お出かけは飲みに行くしかなかったけれど、それでも楽しかったな。もうこの先、あんなにワガママ言ったり、思ったからってすぐ大好きって言ったり、困らせたいからって無茶言ったりとか、ないんだろうな。あれは確かに、ハタチの恋愛だった。もう子どもじゃないけれど、ちゃんとした大人でもなかった。あれから6年、わたしはちゃんと、大人になれているのかな。

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