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花の匂い

2023年2月4日、時刻は朝の6:43。
人生で最も恐れていた瞬間は、何の前触れもなくやってきた。


1/12、平日ど真ん中、朝7時のこと。出勤日の私を起こしたのは、スマホのアラームではなかった。長々と鳴ったバイブレーションが切れ、あとどれくらい眠れるかな…と画面に目をやると、父からの不在を知らせていた。


(こんな朝早くに?どうしたのかな)

すぐに折り返そうとした時、父から二回目の着信があった。



「ーおばあちゃんが、亡くなった。
 仕事大変だと思うけど、なるべく早く帰ってきてほしい」





そのあと、自分がどう返事をしたのか覚えていない。
寝起きの頭で処理できるレベルは優に超えていて、ほとんど夢の中の出来事のようだった。その感覚はこれを書いている今も、捨て切ることができていない。

後から聞いた話、弟は電話口で号泣していたようだけど、私は全く事実を受け止めることができず、ただ全身が冷たく、異様なまでに震えていた。

何とか正気を保って上司へ一報入れ、移動中の新幹線で引き継ぎをし、11時過ぎには実家に着いていた。こんな突然の休暇にも関わらず、快く送り出してくれた同僚の皆様には、本当に感謝しかない。



私にとって祖母は育ての母、もう一人の母だった。
何も複雑な家庭環境ということではなく、実の母は小学校の教員として毎日忙しく仕事をしていた為、隣の家に住んでいた祖母に面倒を見てもらっていた。
無償の愛や慈悲の心、のようなものは全部、祖母から教わった。
グランマコンプレックスなどという言葉があれば、間違いなく自分はそれなのだろうなと思うほど、おばあちゃんっ子として今日まで生きてきた。


今年90歳を迎えようとしていた祖母は、体が小さくなり年相応といった感じではあったものの、病気ひとつせず、自分の足でしっかりと歩いていた。この間お正月に会った時も、まだまだ元気な姿を見せてくれていた。
ゆえに家族・親戚中もご近所の方々も、誰も予想できなかった突然の別れになってしまった

届けたい、届けたい
届くはずのない声だとしても
あなたに届けたい
ありがとう さようなら
言葉では言い尽くせないけど
この胸に溢れてる

Mr.Children 花の匂い


「さよならも言わずに行っちゃってひどいわね」

まるで生き写しのようなおばあちゃんの妹が、そんな風に冗談混じりに声をかけていて、本当にその通りだと思った。

さよならなんて言ったら、みんなが寂しがると思ったの?
私が泣くと思ったの?
ありがとう、たった5文字で伝えられる訳が無いのに、その一言すら言わせてくれないの?

もし伝えられたとしても、言い尽くせなかっただろう、たくさんの言葉が自分の中から絶えず溢れていて、いまだにうまく息ができない日々を過ごしている。



コロナウィルスが流行り出した2020年の元旦、「もう生きていたくない」と言った祖母。移動の制限が世間的に緩和された2022年は、月1回ペースで実家に帰った。自分の健康よりも、祖母に会うためだけにワクチンは全て接種した。今思えば、こうしておいて本当によかった。これがなかったら私は今後、一生後悔しながら生きていたに違いなかった。


でもね、来月もいつ帰ろうかなって思っていたんだよ、おばあちゃん。



もう少し落ち着いたら、いろんなことを振り返ってまた日記を書きたいです。





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