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永井みみ「ミシンと金魚」を読んで

書店で見かけてからずっと気になりつつ「いつか読もう」と思いながらも読めていなかったプラチナ本に選ばれたらしい永井みみ氏の「ミシンと金魚」を読んだ。すばる文学賞受賞作品であり、本の帯に審査員である川上未映子氏や金原ひとみ氏の絶賛コメントが記載されていたので、正直期待して読んだ。
結果、期待を裏切らなかった。私は近所のイオンのフードコートの片隅にて人目を気にしつつも涙をこらえる事が出来ず、机においた鞄とマスクを駆使し顔を隠しながら読むことになった。それくらい、素晴らしかった。

後にご本人のインタビューでも宇佐美りん氏の「かか」にも影響を受けていると言っていたのを見たが、読み始めた時に私も「かか」を思い出した。
認知症の高齢者女性である「カケイさん」のちょっと独特な言い回しの一人称で語られる小説だったからだ。介護職として働いている著者にしか書けない(というか働いていたとしても書けないよこんなの)カケイさんの怒涛の人生が語られていく。ヘルパーの女性たちの事を皆「みっちゃん」と呼んでいて「今日のみっちゃんは」「このみっちゃんは小柄で」みたいに呼んでいるんだけど、なぜ「みっちゃん」なのかも物語の後半で明かされていく。この後半部分がもう凄まじかった。表現としてはわりに淡々と綴られるんだけど、読んでいるうちに「あ、やばい吞み込まれる」となってくる。そして、ラスト、泣かずにはいられない。焦って顔を隠したよ。
長いこと書き続けてきてはいたらしいけれど、ブランクもあってのこれがデビュー作とは恐ろしいなという印象。金原ひとみ氏との対談にて金原氏が「すばる文学賞の選考会でもここがよかった、ここがすごかったと盛り上がった。他社の関係者からもあの作品すごかったねと声をかけられる。非のうちどころがない作品」と絶賛していたけれど、本当にそうだと思う。

注意:ここからは本当に個人的な不満、疑問なんだけど、なぜこれ芥川賞にノミネートされなかったんだろう。というか、この作品と同時に「佳作」として受賞した「我が友、スミス」の方がノミネートされていたんだよね。私はこの「我が友、スミス」も面白く読ませてもらって良い作品だとは思ったんだけど、え、でもでも、え、「芥川賞」ノミネートなら、「ミシンと金魚」じゃない?なんなら私はノミネートだけでなく受賞してもおかしくないと思ってしまった。芥川賞受賞作品として読んだとしても、めちゃくちゃ納得できる作品だと、個人的には、あくまで個人的には思っております。

なんにせよ、これからもたくさん書いてほしい作家さんです。(とかいいつつまだ次作の「ジョニ黒」は読めてないので、早く読まなきゃな)

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