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複数人との同時会話はASDじゃなくても難しい

 筆者のフォロワーに「一対一の会話は得意なのに、複数人での会話は極端に苦手」という方がいた。その方はASD傾向を自覚しているとのことだ。

 しかし、筆者の見解では複数人の会話は苦手とする人間が多く、ASDに限らず、日本人の半分くらいは苦手なのではないかと思う。複数人の会話は一対一の会話とはルールも原理も異なるし、苦手な人はとことんできないからだ。かく言う筆者も複数人の会話を極端に苦手とする人間の1人である。今回はその理由と対処法について考えていこうと思う。

同時に会話できる上限

 一対一の会話を前提とする時に、同様の会話スタイルが持ち込める上限は何人だろうか。おそらく3人だと思う。3人よれば文殊の知恵というように、何かを掘り下げるような会話が可能なのはここまでだろう。かろうじて3人とも発言の機会が回ってくるし、話題の共通性も担保しやすい。

 4人になると、同時に会話をするのは難しくなってくる。4人で会話が成立する時は良く見ると誰か1人が黙っていることが多い。4人に1人くらいは寡黙な人間がいるので、4人の会話は何とか成り立っているように見える。

 これが5人になると、基本的に同時に会話をすることは難しいと思う。5人が同時に話題を共有しているケースは少ないし、そもそも発言の機会が少なくなってしまう。5人で飲み会に行くときは、基本的に誰かが地蔵になっているか、会話が2人と3人に分裂していることがほとんどだ。

 これらを踏まえると、5人以上の会で同時に会話を盛り上げるには一対一の会話とは異なるアプローチが必要だ。そしてそこで繰り広げられる会話はある種独特なものとなりうるのである。筆者はこれをリズムゲーム型会話と呼んでいる。

リズムゲーム的会話

 飲み会の定番のゲームといえば何だろうか。山手線ゲームとか良くわからん有象無象のゲームなどが挙げられる。いずれもテンポ良く色々な人間にバトンを渡していき、失敗した人が一気飲みをする等の動作を伴う。

 実は5人以上で会話をする時の内容はこの飲み会のゲームに近い。人数が多すぎてなにかの内容を掘り下げたり、重要情報を伝達するような会話は困難だ。一方でみんなで大声を上げて笑ったり叫んだりすることは可能である。複数人の会話が得意な人間は全てこれらのリズム感覚が優れている人間であり、陽キャや体育会系はこの手の会話を得意とすることが多い。一対一の会話とは異なる独特のものである。まるでリズムゲームのようなものなのである。

 リズムゲーム型会話では一にも二にもテンポが大事である。面白さは大切だが、ハイコンテクストなネタや、ひねったような冗談はあまり適さない。どちらかと言うと下ネタを連呼したり、構成員をいじったりといったローコンテクストな会話を好む。なんというか、サッカーやバスケのパス回しに近い。

 体育会系文化でありがちな慣習はこのリズムゲーム型会話に根本的な性質が似ている。例えば練習中に先輩が前を通ったら大声で「お疲れ様でした!!」と叫ぶといったものだ。これは会話の内容に意味があるのではなく、先輩に対してリアクションを取ることと、大声を上げることに意味がある。テンポ良く、元気良く、一連の動作をすること自体に意味があるのである。

 リズムゲーム的会話はその場でこそ盛り上がるのだが、後から思い返してみると、そこまで情報量が多くないことが分かる。会話の内容を思い返しても、第三者に伝えられるような話題がほとんど存在しないのだ。

リズムゲーム型会話で役に立たない能力

 リズムゲーム型の会話を苦手とする人物は大勢いる。致命的なコミュ障は置いておくとしても、言語能力がそれなりに高い人物であっても、リズムゲーム型会話を苦手とする人間は多い。

 例えばリズムゲーム型会話は言語性IQをあまり必要としない。言語性IQの高い人間が持っている高度な修辞能力や理路整然とした説明能力を使う機会は全くないのだ。むしろ必要なのは動作性IQと思われる。

 知識教養も必要がない。そもそもこうした分野は人によって知る知らないが大きく別れてしまい、大勢で同時に会話するには不向きだ。リズムゲーム型会話の場合は日常生活で必要とする単語で十分であり、知識量でカバーするという作戦は取れない。

 発想力や想像力もそこまで使う機会がない。リズムゲーム型の会話にとって大事なのは一にも二にもテンポである。一つの項目をじっくり掘り下げたり、項目の謎を解き明かして別のなにかにつなげるような会話は好まれない。それよりも単語の強烈さとか、ノリツッコミとか、動作のひょうきんさなどのほうが重要だ。

 また、MBTIで言うところのNF型が得意な人間を深く洞察するような力も不必要だ。この手のスキルは一対一の会話であれば大いに役に立つのだが、大勢の会話は1人1人の個性に深く食い込むことは無いため、使う機会はないだろう。

複数人の会話を苦手とする人

 複数人の会話はこのような特殊スキルを要求されるので、苦手とする人間はかなり多い。頭の良い人、厳密には頭の良さを生かして会話を運んでいる人物はかなり苦手である。一対一の会話と複数人の会話で、著しく得意不得意が分かれることが多い。

 ASD傾向の強い人間はこのような会話は苦手とする。というより、可能な人間を見たことがない。ただ、苦手とする人間は他にも大勢おり、人口の半分くらいは該当するのではないかと思う。

 ただ、幸いこのようなリズムゲーム的な会話は学生時代は強く求められるが、社会人以降は合コン等を除き、あまり必要とされない印象だ。もちろん飲み会等のメンツにもよるが、学生時代と異なり、それなりにやることをやっていれば人権はあるので、無理にリズムゲーム的会話に参加する必要はない。モテを追求するにも一対一の機会を狙ったほうがベターだ。人間関係というのは突き詰めれば全て一対一なので、リズムゲーム的会話が面白い人よりも一対一の会話が面白い人の方が人間関係は長持ちする。

もしリズムゲーム的会話に参加することになったら

 とはいえ、リズムゲーム的会話に参加することを余儀なくされるケースもあるだろう。この場合は苦手な人は苦手と割り切るべきである。陽キャが話している時に手を叩いて笑う等、リアクションに徹すれば最低限ミスは犯さない。苦手な人間が無理して会話を仕切ろうとすると、リズムが混乱し、悪目立ちすることになるだろう。幸い、複数人の会話は参加しているだけで意味があるので、発言機会が少なかったと言って、邪険にされるわけではない。

 もし複数人の同時会話に参加することになったら、無理せず振られた反応をテンポ良く返し、参加しただけで親交が深まったと解釈するようにしよう。面白くはないかもしれないが、人間関係の点数は稼げたということだ。

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