皇太子はいても皇太弟がいない理由

 現在の天皇陛下には男児がいない。したがって現在の男系継承の制度に則れば次期天皇は秋篠宮文仁親王である。令和への代替わりに伴って秋篠宮殿下は今まで存在しなかった皇嗣という称号を得た。

 私はこれが少し不思議だった。兄から弟への王位継承は古今東西いくらでもあったからである。皇太弟という称号がなぜ存在しなかったのが不思議でならなかったのだ。皇室典範に皇太弟という概念はなぜ作られなかったのであろうか。

 理由は簡単なことだった。皇嗣を作るということは次期天皇が弟に決定するということである。するとどうだろう。天皇に新たな子供ができたら当然そちらに継承権が移るから皇嗣は「内定取り消し」となる。これはまずい。
 昔は側室制度があったので、還暦を過ぎても子供ができる可能性はあった。したがって皇嗣という制度は存在できなかった。

 皇太弟を作るということは、天皇にもう子供ができないと決めつけているようなもので、君主に対して大変失礼な行為なのだ。

 具体例を挙げよう。王家ではないが、似たような立場の足利将軍家だ。
 足利義政はなかなか跡継ぎができず、次の将軍職を弟の足利義視に譲ることに決めた。「皇嗣」と同じ状況である。しかし義政には息子が生まれ、足利義視の将軍就任の話はなくなった。これが原因で発生したのが応仁の乱である。皇太弟を作るとトラブルが起こる可能性が出てくるのだ。

 現在の皇室に皇嗣が存在するのは側室制度がなく、現在の皇后が子供を産めない年齢になったからである。史上初めて天皇に子供ができないことが公式に確定されたということになる。
 
 
 王弟という立場はしんどい。何年もの間、自分が王になるのかならないのかが確定しないからである。王子と違って「次期国王」という立場になることができないのだ。お騒がせのヘンリー王子が「スペア」という題の本を出版するらしいが、実に本質をついたタイトルであろう。

 

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