見出し画像

中国は2050年までに先進国入りしているのか?

 2000年代に数多く存在した新興国の中でもひときわ高い成長を見せているのが中国だ。中国の成長はいずれストップするとか、中国国家が遠からず崩壊するといった見方も多かったが、現在に至るまで中国は成長を続けている。これはなかなか見事なものだ。ラテンアメリカやロシアのような多くの新興国は10年程度で成長率がしぼんでしまう。40年に渡って高度経済成長を続けている中国はまさに多くの発展途上国がうらやむエースなのである。

しかし、近年その成長率の維持が危ぶまれている。この手の観測は20年以上も存在しているため杞憂である可能性も高い。しかし、中国経済の危険要素はあちこちに見られている。今回はそんな中国の将来性について論じよう。

国家間の序列はほとんど変化しない

 新興国の経済成長を論じる上で大切なのは、国家間の序列がほとんど変化しないという事実である。100年前の1923年に先進国だったメンツを思い浮かべてみると、イギリス・アメリカ・ドイツ・フランス・オーストラリアと現在とほとんど変わらない。この100年の入れ替わりは東アジアの数カ国が入り、アルゼンチンが没落した程度だ。20世紀初頭、いや19世紀から先進国と途上国の大まかな構図は何一つ変化していない。

 先進国は概ね年に2%程度の安定成長を続けている。これに対して途上国は年に5%や10%といった先進国ではあり得ないペースの経済成長率を叩き出す。これをもって途上国がいずれ先進国に追いつくという希望的観測が生まれる。

 しかし、殆どの国はそううまくいかない。途上国はマイナス成長を叩き出すことが多い。10%成長したと思いきや、次の年にはー5%の成長となるのである。長期で平均値を取ってみると、結局先進国と同じ年2%成長であることがほとんどだ。途上国の高成長は単なる不安定性の現れということになる。

東アジアの奇跡

 しかし、こうした難しい状況の中でも高成長を遂げて先進国の仲間入りをした国が存在する。それが東アジアの日本・韓国・台湾だ。これらの国は貧しい状態から高い成長率をキープし続け、数世代のうちに先進国に追いついた。特に韓国は1950年代まで最貧国だった。一人あたりGDPはスーダンやソマリアと何ら変わらない。それがわずか60年の間に世界に名だたる富裕国へと成長したのだ。

 経済成長は地理的・文化的・政治的に近い国々の間で広がる傾向がある。イギリスに産業革命起きた時、後に続いたのは近隣のフランス・ドイツとイギリスの入植植民地であるアメリカ・オーストラリアだった。日本の高度経済成長に続いたのも韓国と台湾で、インドやエジプトではなかった。第二次世界大戦後の南欧諸国や冷戦終結後の東欧諸国も同じだ。

 中国にとって朗報なのはこの国と地理的・文化的に類縁関係のある国がことごとく成長していることだ。近隣の日本・韓国はもちろん、台湾・香港・シンガポールは民族的にも完全に同一だ。マレーシアの成長も華僑の貢献が大きい。東アジアの例に漏れず漢民族はかなり経済に強い民族のようだ。

 もし中国が韓国と同様のペースで成長すると、どうなるだろうか。韓国の経済成長は1950年代に始まり、2010年代に完了した。中国の成長が始まったのは30年遅れの1980年代だ。中国の方がスタートの位置は低かったが、猛烈に追い上げており、韓国とのラグは30年だ。このままのペースが維持できれば2050年までに中国のキャッチアップは成功し、先進国となる計算だ。

 しかし、中国が果たして韓国や台湾と同様に高度成長を成し遂げて先進国へと仲間入りするのかは疑問が残る。確かに中国は若い世代の意識は近代化されているし、社会動向も日々韓国に近づいている。しかし、中国は韓国と違いがあり、それらが先進国への飛躍を妨げる可能性も十分にあるのだ。

成長率が低下している?

 2010年の中国の一人あたりGDPはアメリカの20%だ。韓国がこの水準に達したのは1980年だ。中国が韓国に30年遅れて経済成長を成し遂げているという説は確かに立証されている。

 しかし、1990年頃に韓国の一人あたりGDPはアメリカの30%を突破したのに対し、中国の一人あたりGDPは未だにアメリカの30%を越していない。ここに来て成長がわずかに鈍化している兆候が見られる。

 1990前後の韓国の成長率は9%前後という極めて高い水準を維持していたが、ここ数年の中国の成長率は5%や6%という水準が多く、韓国に比べると一回り低い。他の中進国に比べれば遥かに数字は良いものの、経済成長率の金メダリストは中国ではなく韓国に授与されるだろう。

政治体制

 先程経済成長は先進国と地理的・文化的・政治的に似通った国に広がると述べた。この内中国が唯一近隣諸国と異なるのが政治面だ。

 日本は西側諸国の一員として戦後に自由民主主義体制を確立した。韓国と台湾は権威主義体制だった期間も長いが、それでも1980年代に民主化を果たし、西側先進国と政治的にも同列に並べるようになった。

 この点で中国は大きく異なる。中国は共産党による極めて厳格な独裁体制が行われており、社会に対する統制は国民党時代の台湾よりも遥かに激しい。韓国と台湾は中進国に差し掛かった辺りで民主化が進んだが、中国にそのような兆候は全く見られない。それどころか権威主義体制は強化されるきらいがある。習近平は任期制限を撤廃し、自身への権力集中を進めている。これは2010年代後半に経済成長がわずかに鈍化した時期と一致している。政治体制がその国の経済成長に影響を与えるという学説によれば、中国が西側先進国にキャッチアップを果たす可能性は極めて低いことになる。

中国は国が大きすぎる?

 世界史的考察としばしば登場するのが「中国はなぜ統一国家として生き延びているのか」という問いだ。中国は非常に広く、イギリスやフランスよりもヨーロッパ総体に近い。これほど広大な領域を支配する帝国が果たして普通の国と同様に成長できるのか定かでない。

 ヨーロッパを見てみよう。確かに北西部のイギリス・フランス・ドイツ・北欧は産業革命で飛躍的な成長を果たした。しかし南欧のイタリア・スペインは立ち遅れた状態が長く続いたし、ウクライナやバルカン半島に至っては中進国と言えるのかも怪しい。ヨーロッパと言っても経済状況は地域によってかなり格差があり、もし統一帝国だったら持ちこたえていないだろう。

 東アジアをヨーロッパと対比するなら、日本はイギリスに、韓国はフランスに対応するだろう。問題は中国だ。中国はドイツから中央アジアに至るまでの一帯が全て統一帝国になっている状態だ。モスクワのツァーリによって大陸ヨーロッパの大半が征服された国が中国と言える。中国の沿岸部はドイツ並みに成長するかもしれないが、内陸部の多くはロシアのように後進的な状態が続く可能性がある。

 ここまでの広範な地域を支配する帝国が日韓のような自由民主主義体制を行うことは難しいのではないか。豊かな沿岸部は貧しい内陸部によって足を引っ張られ、民主主義体制の元で生活することは難しくなる。かつての東ドイツのような状況になるかもしれない。

中国はどこで着地するのか

 中国の一人あたりGDPはメキシコを抜き、タイと同程度だ。今後の中国の経済水準はタイと韓国の間のどこかで安定するだろう。問題はその位置がどこかだ。韓国並みの成長を成し遂げて2050年までに先進国の仲間入りする可能性がある一方で、政情不安等により今の状態で成長がストップする可能性もある。

 中国は普通の新興国とは違う。BRICSの他の国の停滞を尻目にどんどん経済を成長させていったし、工業力は圧倒的だ。現在世界の鉄鋼やスマホは半分以上が中国で生産されている。ファーウェイのような世界的なメーカーも誕生している。これはメキシコやブラジルよりも日本や韓国に似た道のりだ。政情不安でもない限り中国の成長が現時点で停滞する可能性は低いだろう。一人あたりGDPがアメリカの45%付近で停滞する可能性が最も高いかもしれない。これは現在のロシアやマレーシアの水準だ。沿岸部の江蘇省や福建省は日韓と近いかもしれないが、内陸部の四川省や雲南省はバルカン半島並みの水準だろう。

 一人あたりGDPがアメリカの45%となった中国の経済力はちょうどアメリカと同じくらいだ。2050年の米中はほぼ互角ということになる。アメリカを経済力でここまで追い詰めた国は他に存在しない。全盛期のソ連ですらアメリカの3分の1だった。

 ただし、この段階でも有利なのはアメリカだ。というのもアメリカの方が中国よりも遥かに先進的な国だからだ。遅れた国が進んだ国を尊敬して従うことがあっても、逆はあり得ない。世界の多くの国はアメリカと同盟を組みたがるし、日本・韓国・オーストラリア等が進んで中国の傘下に入ることはない。中国は同盟国のネットワーク作りにかなり難航するだろう。中国はアメリカと国力で並ぶことができても、第二次世界大戦後にアメリカが構築した世界帝国に匹敵するものを作るのは不可能だ。中国はパキスタンや北朝鮮のといった頼りない同盟国と共に新冷戦を戦うことになるだろう。

第二の中国となるのは・・・

 日本で始まった経済成長は韓国と台湾に飛び火し、さらに中国へと移った。中国に続いて急速な経済成長を遂げる国はあるだろうか。

 その可能性が高いのはベトナムだ。ベトナムは伝統的に儒教・漢字文化圏の国であり、東南アジアの中では一番東アジアに文化が近い。政治体制は共産党の一党独裁で、中国と全く同じだ。ベトナムは中国に30年遅れて高度成長を成し遂げようとしている。ベトナム人は非常に勤勉で努力家だ。華僑頼みの他の東南アジアの国とは一線を画す。中国の動向次第でベトナムがどこまで成長できるかも決定されるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?