人生のポテンシャル理論で考える、幸福な人生のルート

 以前の記事で人生に活用できる資源をフロー・ストック・ポテンシャルの三類型の分類して論じた。これはなかなか便利な概念で、人生論の多くをこの枠組みで分析することができる。

 幸福な人生とは基本的にフロー・ストック・ポテンシャルの総和で決定されると考えてよいだろう。20歳を過ぎるとポテンシャルは減少するが、その代わりにフローが増加する。45歳を過ぎるとフローは減少するが、その代わりにストックが増加する。こうして失った要素を別の要素で置き換えることによって人生は安定していくだろう。

 なんというか、これは三相交流みたいだなと思った。

三相交流
フロー・ストック・ポテンシャルの関係もこれに近い

 さて、人生のポテンシャルが頂点に達するのは20歳、フローが頂点に達するのは45歳、ストックが頂点に達するのは70歳だ。一つの値が下がっても別の値が上がれば幸福度は下がらない。ただ、何も努力をしなければ変換はできない。あくまで三相交流のような人生は理想形と考えた方がいいだろう。

 不幸を招くパターンは二つ考えられる。一つは積み上げに失敗したパターン、もう一つは価値観の切り替えに失敗したパターンだ。

 例えばポテンシャルはどうだろう。厳密には新生児が一番ポテンシャルが高いと言えなくもないのだが、さすがに形になっていないので、除く。基本的には子供は勉強していい大学に行くほど将来の選択肢は増えると考えられる。習い事も交友関係もこの延長である。20歳までは上り坂だ。ただし、これは適切な積み上げをした場合に限られる。勉強がうまくいかずに進学できなかった場合はポテンシャルは広がらない。精神的に結構しんどいと思う。

 また、20代からはポテンシャルをフローに変換する必要があるのだが、これも簡単とは言えない。例えば高学歴難民の問題がそうだ。20歳時点では将来を嘱望されていた人物が、30歳になるとフリーターになっていたりする。ポテンシャルをフローに変換できずに沈んでしまった例だろう。

 最後にフローからストックへの変換の問題がある。結婚しなかったり、家族をおろそかにした場合は老後に孤独になるケースが多い。もちろんそれに代わる趣味やパートナーがいればよいのだが、これらも全てストック形成の努力と言えるだろう。老後の貯金や持ち家といったものもフローからストックへの変換である。

 もう一つのパターンは価値観の転換ができないケースである。例えば「内定ブルー」がそうだ。不本意就職した人間が多いが、就職活動に成功した人間であっても陥る罠だ。これはポテンシャルがフローに変換されていくにも拘わらず、人生の効用をポテンシャルに見出し続けていることが原因である。総合商社に内定すれば将来の期待年収は跳ね上がるので、喜ぶべきことなのだが、総合商社に進めば官僚にはなれないし、デベロッパーにもなれないだろう。ポテンシャル自体は減少するので、ここに意義を見出しているときつい。

 「中年の危機」も似たような理由である。中年の危機に陥っている人物は社会的には高い地位についていることが多い。それにもかかわらず危機に陥るのは、45歳でフローがピークに達するからだ。ここから先にフローが下降するだけと考えると、うつ状態になる人がいる。出世の天井が見えることで、ポテンシャルがゼロになる時期でもある。

 なお、三相交流で幸福度が求まるとすれば、20歳未満の幸福度はポテンシャルが少なく、フローとストックが全くないため、著しく低いことになる。これはもちろんウソだ。その理由は20歳未満の子供が親の保護下にあることと、ポテンシャルが増加していくので「上がっていく感覚」を味わえることだ。肉体面の成長もあるだろう。ただし、これは言い換えると何らかの事情でこうした要素が手に入らなかった場合、深刻な問題を抱えるケースがあるということだ。孤児あるいは育児放棄の家庭で育った場合、ポテンシャルが低い状態で何も得られないため、幸福度は深刻に低いだろう。小児がんになった場合もやはり悲惨かもしれない。80歳の老人がガンになっても、それまで豊かな人生を送ってきた場合は不幸な人生とは言えないだろう。一方、小児がんの場合はそうしたストックが何もないため、ただただ悲惨である。

 70歳以降はおそらくストック面も下がっていく可能性が高い。これは加齢で長年の知恵が失われるだけではなく、貯金を残しておいても仕方がないので使ってしまうという事情もあるだろう。この段階の幸福度についてはわからない。ただ、子供が親に頼るように、老人が子孫に何らかの幸福度を求めても不思議ではない。なぜかはわからないが、幸福度は老人になると上がる傾向があるようである。

 なお、人間は下がっていくことに対して著しく不幸を感じる生き物だ。これもまた人生の罠である。20歳時点のポテンシャルが高すぎた人間はある意味で不幸になるリスクも高い。東大卒不幸論争がいい例だろう。同様に、フローが高すぎて不幸になる人もいる。大金を手にしたが、浪費癖がやめられず、破綻してしまう人がいい例だ。また、60代になるとフローが激減するので、ストックを増やすのが難しくなる。この場合、限りある資産を死に物狂いで守る形になり、幸福度が高いとは言えないだろう。

 幸福度の高い人生を送るにはどうすればいいか。まず親ガチャに成功して20歳までポテンシャルを上げ続ける。次にポテンシャルを適切な時期にフローに変換して出遅れないようにする。この時、ポテンシャルを切る勇気が大切だ。最後にフローが安定したらストックの形成にエネルギーを割くようにする。体力の低下と同時に充実感を感じることは減るかもしれないが、その代わりに過去の遺産に対する満足感を感じられるようになれば満点だろう。

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