頭脳の年齢的限界は50歳辺り?

 以前の記事で、アスリート33歳限界説については述べた。人間の肉体が最も良いコンディションを維持できるのは33歳頃までであり、それ以降は老化の問題でメダル獲得は難しい。もちろん34歳以降も金メダリストが代表に入ることは可能だが、その人の最も良いコンディションではないし、メダルというトップランクに到達するにはほぼ不可能だ。

 肉体は30代に衰え始めるが、頭脳の方はどうだろうか。結論から言ってしまうと、頭脳の限界年齢は50歳である可能性が高い。これはあくまでその人の最も良い状態ということであり、50歳以降に頭がボケる訳では無い。トップランクにこだわらなければ、80代になっても元気な人はたくさんいる。

マインドスポーツ

 やはり最初に思い浮かぶのはマインドスポーツだ。オリンピックとの比較もし易い。ここで選ぶのは将棋と囲碁である。

 将棋界のレジェンドの羽生善治は通算で99タイトルを獲得している。凄まじい偉業だ。羽生さんが最後にタイトルを獲得したのは47歳の時だった。それまで30年にも渡ってタイトルを保持していったことになる。20代の時のように7冠を達成するには難しかったが、それでも40代になっても最強であり続けた。

 他の将棋棋士は羽生善治ほど大量にタイトルを保持しているわけではないので、比べにくい。藤井聡太は無敵状態だがまだ若すぎる。レジェンド棋士の加藤一二三が最後にタイトルを獲得したのは44歳のときだが、羽生さんほどタイトル獲得率が高くないので、棋力が落ち始めたのはもう少し後と思われる。おそらくは50歳頃までプラトーだったはずだ。因みにタイトル獲得の最高齢記録は大山康晴の58歳である。彼は50歳を過ぎてもタイトルをしばしば獲得しており、異次元の強さを見せた。

 囲碁の方を見てみよう。歴代最多タイトルの趙治勲が最後にタイトルを獲得したのは50歳のときである。坂田英夫は52歳、小林光一は50歳が最後のタイトル獲得となった。囲碁の方が将棋よりも老化には強いらしく、トップランクでなければかなりの年齢まで棋力を維持できるようだ。史上最高齢のタイトル獲得者である藤沢秀行は67歳にしてタイトルを獲得した。

 ただし、散見される最高齢記録はあくまで外れ値だろう。一般的なトップランカーの限界年齢は50歳辺りと見たほうが良さそうである。なお、トップランクでなければさらなるレジェンドも存在する。囲碁の杉内雅夫はなんと97歳で死去するまでプロ棋士を続けていた。

大学受験

 マインドスポーツに比べれば格段にレベルは下がるが、大学受験でも似たような考察をすることができる。30代であれば東大に合格することは特に支障がない。お笑い芸人のさんきゅう倉田は38歳で東大に合格したし、現在38歳で国試浪人中のルシファーも未だに理三A判定を獲得している。

 声優の佐々木望は47歳の時に東大に合格した。彼は高卒だったので、一からの受験勉強である。40代になってもトップランクに持っていくことは可能のようだ。更に50歳辺りまでは東大合格者が存在する。随分前に50歳の主婦が東大に合格して話題になったが、この辺りが限界だろう。

 なお、これ以降になると学力をキープするのが難しくなる。よく50代で医学部に入学する人がいるが、こうした人は国試浪人することが多い。以前に70歳で研修医になった人が話題になったが、どうも国試4浪のようだ。他にも随分昔に元教師の人が54歳で京大医学部に合格し(!)、国試8浪したらしい。この間に老化が進行し、試験の突破が難しくなっていると思われる。

 やはり、頭脳面で最高の状態を維持できるのは50歳辺りが限界値と考えるのが良さそうだ。スポーツと比べるとやや幅が広い印象だが、これは当人の生活習慣やライフスタイルの問題が大きそうである。

頭脳労働

 仕事での評価となると難しい。仕事の場合は必ずしもトップランクである必要は無いからだ。ただ、金融機関ではしばしば45歳限界説が囁かれている。50歳という限界年齢から見るとやや若いが、このあたりでも保守的(会計的な意味で)な業界柄が見えてくる。

 多くの会社では40代が働き盛りとされていることが多い。最も良いパフォーマンスを引き出せると通常は考えられているからだ。肉体面では若い人に勝てないとしても、頭脳面では同程度のため、後は経験や人脈によって若い人を上回ることは容易だ。流石に50代になると一線を退き、マネジメント側に回ることが多いが、これはかなり妥当なのだと思われる。大学教授は50代が多いが、学者としての第一線からはやや退いているため、しばしば批判を受けることが多い。

 なお、頭脳と職業上の地位は別だ。フローとストックで考えると、囲碁や将棋は瞬発力的な思考回路を要するフロー的な活動だ。ストックに注目すればピークは更に遅い。人間の語彙力がピークになるのは70歳頃らしい。職業上の地位の場合はこれに過去の実績や年次というものが絡むため、50歳を遥かに超えた人物が絶大な影響を保っていることがある。大臣の大半は50代だし、総理大臣は60代ばかりか70代もいる。会社の社長も同様だ。50歳という限界年齢はあくまでマインドスポーツや大学受験を念頭に置いたものであり、職業上のピークとは必ずしも一致しない。

人生プラン

 しばしば記憶力は二十歳がピークで、それ以降は落ちる一方という人がいる。ただ、こうしたデータを見ていると、50歳まではそこまで心配する必要は無さそうだ。中年に差し掛かって能力が衰えても、それは勉強する体力が無くなったり、上昇意欲が衰えたり、単に仕事や家庭が忙しかったりすることが多い。

 一方で、新しいことに挑戦する場合は50歳までに取り組んだほうが良さそうだ。一人前になるまで10年かかると考えると、キャリアチェンジは40歳までに済ませた方が良さそうである。転職35歳限界説などはこうした事情を下敷きにしているだろう。

 ただ、実際は50歳より前に頭脳が衰えてしまう人もいる。周囲から「年齢で記憶力が衰える」と言われてしまうことが大きな要因だ。「働き蜂の法則」と同じく、こうした環境要因は個人の能力に大きな影響を与えるだろう。周囲を見ていても、40代で頭脳が衰えている人間はそこまで多くない。会社に司法試験に合格した猛者がいたが、40代後半だったと思う。

 50歳以降になると頭脳は衰えていくので、過去の遺産をいかにキープするかの戦いになるだろう。芸能人を見ていると、50歳を過ぎると大御所のポジションになり、これまでの実積を元に仕事をする傾向が見える。基本的にポジションが上がっていけるのは40代までだろう。それ以降はギャラの水準こそ落ちないものの、ストック商売になりがちだ。

 人生100年時代、頭脳の限界年齢が50歳と考えると、結構良い具合なのかもしれない。丁度人生のピークは50歳ということになるからだ。これまでの蓄積を元に頭脳のパフォーマンスが頂点に達するのが50歳である。実際にこれは多くの熟練労働に当てはまるらしい。体力勝負の狩猟採集民ですら、能力のピークは40歳辺りだったようだ。

 こう考えると、50歳まではひたすらにパフォーマンスの向上に務めるのが吉で、それ以降は過去の経験・人脈・資産を元に後進の育成や取りまとめ役を行うのがベストなのだろう。

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