見出し画像

[ドラマレビュー] ラストベルトの白人貧困層(ヒルビリー) 一家を描いた名ドラマ『シェイムレス〜俺たちに恥はない〜』(シーズン1)(アメリカ 2011)


アメリカで2011年から2021年にかけて放送された全11シーズンのホームドラマ、『シェイムレス』。元ネタはイギリスの同名ドラマで、監督は『ER 救急救命室』などを手がけたジョン・ウェルズ。ブルーカラーの貧困家庭という陳腐なテーマに地域性、時代性というエッセンスを加えて見事に表現している。

あらすじ

シカゴ南部のさびれた街に暮らすギャラガー一家は崩壊家庭。
父フランクはアル中、母モニカは出て行き、長女フィオナは家族の世話とバイトで忙しくていつもイライラ。秀才の長男リップは将来を諦めて替え玉受験のプロ、次男イアンは近所のコンビニ店長(男)と不倫、三男カールは笑顔でバットを振り回すサイコパス、次女デビーは人の家の子を盗んできちゃう問題児。唯一マトモなのがまだよちよち歩きの末っ子リアムだけという問題家族の日常はぶっ飛び事件の連続で・・・。

キャスト

フランク・ギャラガー(ウィリアム・メイシー):父。アルコール中毒で無職。
フィオナ・ギャラガー(エミー・ロッサム):長女。共依存症の世話焼き。
リップ・ギャラガー(ジェレミー・ホワイト):長男。秀才の高校生。
イアン・ギャラガー(キャメロン・モナハン):次男。ゲイ。
カール・ギャラガー(イーサン・カトスキー):三男。サイコパス傾向アリ
デビー・ギャラガー(エマ・ケニー):次女。父曰く、「天使みたいな子」
リアム・ギャラガー(ブレンドン・シムズ):四男。
モニカ・ギャラガー(クロエ・ウェブ):母。

ベロニカ:仲のいいご近所さん。元看護師。
ケビン :ベロニカの彼氏。フランクの行きつけのバーのバーテンダー。
スティーブ :フィオナの彼氏。車泥棒。
ミッキー:近所の不良。イアンの彼氏。
シーラ・ジャクソン:潔癖症で広場恐怖症のご近所さん。フランクと不倫。
カレン・ジャクソン:シーラの娘。セックス依存症。

スタッフ

原作 ポール・アボット
監督 ジョン・ウェルズ
脚本 ジョン・ウェルズ、ナンシー・ピメンタル、シンディ・カポネラ、アレックス・ボースタイン、マイク・オマリー、エイタン・フランクル

シカゴに生きるヒルビリー(白人貧困層)のリアルを描いた物語:背景について

●ラストベルトとは

本家『シェイムレス』の舞台がマンチェスターだったのに対し、アメリカリメイク版『シェイムレス』はシカゴ南部が舞台となっている。
シカゴ南部といえばギャングが幅を利かせるスラム街であり、日本大使館が観光客に注意を呼びかけるほど治安の悪い地域である。
トランプ大統領の支持層が多いとして注目を集めたラストベルト。イリノイ州シカゴはここに含まれる、斜陽産業の中心地だ。

ラストベルト、つまり錆びついた工業地帯と呼ばれる地域(ペンシルベニア州周辺からオハイオ州、ミシガン州、インディアナ州、ウィスコンシン州、そしてイリノイ州あたりまでの東部から中西部にかけての五大湖周辺の場所) は、1970年代まではアメリカの主要産業(鉄鋼、石炭、自動車などの製造業) を担う一大工業地帯であり、栄華を誇っていた。

しかし、レーガン政権以後のグローバリズムを推し進める政策によってアメリカ人の雇用を支えていた工場は次々と海外移転をし、地域は急速に貧しくなってゆく。
それに伴い治安も悪化。今のような麻薬、ギャングの抗争が日常茶飯事のスラム街と化してしまう。

●トランプ支持、アンチグローバリズム、アンチエリート主義のヒルビリーたち

安定雇用も、医療保険も、マトモな教育もない、忘れ去られた人々。それがこのような地区に住む白人貧困層、ヒルビリーである。
彼らの大半は共和党支持者であり、トランプ支持である。それは、単に彼らが低学歴で扇動されやすい差別主義者だからではない。
オバマやクリントンに代表される民主党リベラル派がエリート主義でグローバル主義で、トップ1パーセントの富裕層の味方だからである。

ヒルビリーがトランプ支持なのは、オバマもクリントンもブッシュも変えられなかったものを変えられると思っているからだ。すなわち、利潤しか頭にないウォール街、ロビイスト、巨大多国籍企業、軍産複合体に従属する政治からの脱却だ。
トランプはディープステートと戦うと明言し、アメリカ軍を撤退させ、移民就労を規制すると言った。

人種差別とメディアが騒ぎ立てたメキシコの壁の件は、言い方には問題があるが、アメリカ人の雇用を優先するという意味である。
低賃金の移民労働者によって底なしに賃金が下がり続けるアメリカ人にとって、この宣言は願ってもないことだろう。

このように、白人貧困層のトランプ支持には理由がある。彼らがユダヤ系やメキシコ系に差別的な発言をするのは、そこにアメリカ人の生活を破壊してきたディープステート(ロックフェラー系の国際金融資本) や、雇用悪化の原因となる移民労働者を見るからだ。

これに倣ってフランクもちょくちょく差別発言をする。イスラム系や、同性愛者に対してである。さらに彼は学校や警察といった公的機関も信じていない。このあたりが非常にうまくヒルビリーを活写している。


酒、麻薬、セックスに溺れるしかない未来を閉ざされた者たちの日常:それでも日は昇る

『シェイムレス』の登場人物たちはとにかくカゲキである。
ギャラガー家の父親フランクは育児放棄でアルコール依存症で傷害手当受給者。日がな一日バーで飲んだくれている。そして、手当てをもらうために自分の手にクギを打ち込む始末である。

母親代わりの長女フィオナはバイトと家事で忙殺される日々。必要とされないと幸せを感じられないいわゆる共依存症で、自分の幸せを追えずにいる。

長男リップはSATで満点をとれるほどの秀才なのに大学に行く気がなく、替え玉受験で稼いでいて、次男イアンは近所のコンビニの店長と不倫をしている。

三男カールは退学ギリギリの問題を起こし、次女デビーは近所の子を誘拐してしまう。

ご近所も問題だらけで、隣家のベロニカは病院の薬を売り捌いてクビになった元看護師で、ネットでセクシー動画を配信して稼いでいるし、少し離れた家のシーラは広場恐怖症で引きこもり生活だし、その娘カレンは性に問題を抱えているし、不良のミッキーは鉄パイプを振り回している。

誰もがタバコを吸い、酒とセックスに溺れ、ドラッグをやり、盗みや詐欺に手を染める自棄的で不遜な生き方をしている。
そこに見えるのは未来への絶望と開き直りである。
自分たちは一生この底辺から這い上がれない。アメリカン・ドリームなどとは無縁で、神もいず、救いもない。
ならばいっそ好き勝手に生きようではないか。どうせ医者にもかかれず長生きできないのだから、酒でもドラッグでもやるだけやって今を生きよう。
そういう生き方である。

貧乏は、恥でも自己責任でもない。このドラマはそう言っている。
ひとさまに迷惑をかけないようにと貧困生活を耐え忍んで生活保護も受けずにひっそり亡くなってゆく人さえいる、道徳観がしっかりしすぎの日本人には理解しにくい感覚かもしれないが、格差社会の到来に伴って貧困層が拡大する昨今の日本にあって、見るべきドラマのひとつだろう。

※シーズン2以降のレビューは未定です。

◆◆◆

こちらで視聴できます→U-NEXT

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?