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諦めない理由

もう駄目だ。
体も心も、忍耐力もエネルギーも
もう何一つ動かない。

こうなって、わたしはかつて芝居を辞めた。
それをしみじみ思い出す。

夢と現実の狭間に挟まって
毎日、擦り潰されているうちに
守るべき体も心も小さな欠片になってしまって。

道を退いたのは30歳だった。
その後5年間、その決断を悔やみ続けた。

かつて失った職業が俳優
今やっている職業は介護職である。

世間の声なんていうものがあって
それが少し意地悪ならば
俳優を辞めるのは辛いかもしれないけれど
介護職は大丈夫じゃない?
そんな辛辣な声もあるかもしれない。

でも今の、40歳になった自分には
ちゃんとわかっている。
この仕事を辞めたら
後悔は5年ではすまないと。

俳優と比べて
介護職は私でなければならない理由なんて
ほぼない。
そして激務である。
ブラック気味の会社のほうが多い。

それなのに、である。

一言で言って。
わたしは人生でこんなに優しい人間ばかりいる集団に所属したことはなかった。
いつも誰かに嫉妬されたり、いじめられたり、裏切られたりした。
それが世界だと諦めていた。

でも、違った。
赤ちゃんの時からこの職場に来るまで
わたしは家族以外の人間に
こんなに無防備になったことはない。

いつまでも夢は続かない、のかもしれない。
変わっていく、のは仕方ないのかもしれない。

でもわたしはまだ
それに命を賭けていない。

あの時、芝居に命を賭けるべきだった。
それがわたしが本当にしたいことだった。
他の全てを失っても。

その分も、全部ブッこもう。
何もかも全てをかなぐり捨てて
背水の陣である。

あしたのジョーみたいに
真っ白になるのである。

うん。
狂っている。
でも、それでこそ
わたしは少しだけ
わたしを好きになれる。

生きていてもいいぞ。
やれやれ!
行け行け!
と思える。

ただの会社なんかルールなんか
新しい整理された組織図なんて
クソ喰らえ!

古き良き、で
こちらやっていきますので
よろしく!である。

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