天蓋が開く
どうして権力のある者だけに反抗してきたのか。ずっと考えていた。
本当はもっと問題が別のところにあると知っていても、わたしは徹底して上を追求してきた。
自分が主人公だった時は、自分の問題ではないことも自分が責められるべきだと思っていた。
いつも思っていた。わたしはそのためにここにいるのだと。
褒められる為でも、皆より目立つ為でもなく
問題が起きたとき謝る為にわたしはそこにいた。
俳優には向いていなかったのかもしれない。
でもそうしなくては気がすまなかったのだ。
汗水流している誰かよりも、沢山注目してもらえるなら、お金を沢山もらえるなら
そのことに自分は一体何を返せるだろう。
いつもそのことばかり考えていた。
金額が違えば、同じ労働ではいけない。
それもいつも考えていた。
俳優を志す若者たちは皆ひどく貧乏で
ほんの少しのギャラの違いが
彼らの心をよく傷つけたから。
わたしは偽善者と言われても
同じ夢を追っている仲間を傷つけたくはなかった。
選ばれた人間は、選ばれた理由をひとに納得させるよう尽力しなければならない。
それがわたしのルールだ。
でも最近ふと思った。わたしが「上」と言っているのは顔のある誰かではなく、システムそのものだったのではないかと。
わたしはわたし自身の未だ不満がある部分を「上」と呼んで抗っているのではないかと。
不出来でも頼りなくても
一番辛い時を乗りきった仲間だけで
船を出したい。
叶わなくても、それはやっぱり人情だ。
どうしてわたしは。
役職や状況に気を使って
本当は皆がかけてほしい言葉をかけてあげられないのか。
そのことに憤っている。
自分自身の不甲斐なさに憤っている。
「上」はわたしだ。
あなたがいなければ、潰れていた。
あなたがいたから、やろうと思えた。
目に見えないボランティアみたいな
皆の数々の努力を、献身を知っている。
それを言うべきだと知っているのなら
わたしが言うべきなのだ。
パートでも、たいした人間じゃなくても仕方ない。
見えている人間が口を開くべきなのだ。
ピラミッドではない。
天井があるわけじゃない。
外に出られないわけでもない。
閉じ込めていたのは自分だ。
戦っていた相手すら自分だ。
そう気づいた時
頭の上の天蓋が開く。
もっと自由に。
それが出来ると信じることが出来るのならば
それは現実になる。
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