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なぜ、音楽好きは激減してしまったのか

 日本レコード協会の「2022年度音楽メディアユーザー実態調査報告書」の「音楽との関わり方の変化」によれば、音楽無関心層【無料ですら音楽を聴こうとしない層】は2015年頃から急激に増えています【2010年:16.2%、2015年:34.6%、2022年:43.8%】。なぜ、こうなったのか?

K-POPショック

 主にネットでのK-POPアゲ&日本の音楽サゲ・ムーブメント【ちなみに米国では、K-POPスタンと呼ばれている人々がK-POPアゲ&日本の音楽サゲをやっているようです】によって、日本における日本の音楽の世間的価値が大幅に下落したのが、音楽無関心層が激増した大きな原因の一つだと思います。そのムーブメントには日本の音楽業界関係者も一部加担しているので困ったものです。

アートの好き嫌い(個人の感性)は世間的な評価に左右され易いので、日本の音楽はK-POPに比べると世界的な人気が無いので質(レベル)が低いと多くの人々が言っていれば、本当は質が低くなくても質が低いと思えてくるものです。日本人は外的評価に対して非常に敏感ですしね。かと言ってK-POPも好きになれない人々は音楽そのものに対して関心を失うでしょう。

 このムーブメントの最大の弊害は、世界的に人気があるかどうかで「しか」音楽を評価できない人々が激増してしまった事です。音楽強国の米国でも、世界的に人気のある曲など米国内の曲全体の中のごく僅かです。なので、世界的に人気があるかどうかでしか音楽を評価できない人々が激増すれば当然、音楽の総需要は激減します。

日本の音楽業界の怠慢

 ネットの普及によって人々の趣味が多様化して音楽産業の競合相手が増えたのにも拘らず、日本の音楽業界が音楽好きを増やす努力をやってこなかった事も音楽無関心層が激増した大きな原因の一つだと思います。

 「今はグローバルな時代だ、日本の音楽業界は世界へ打って出て世界一を目指すべき」といった主張をする日本の音楽業界の人々がいらっしゃいますが、世界で受ける音楽=日本でも受ける音楽ではないので、日本国内の音楽資本や音楽的に優秀な人材を総動員して業界全体でそのような事をすれば、益々日本人の音楽離れが進んでいくだけです。

日本の音楽を世界へ積極的に売る事自体は全く否定しません【「音楽における海外市場開拓に関して」で私見を述べています】が、業界全体としては音楽好きを増やす努力をするべきだと思います。

音楽世論のファシズム化

 「良い音楽」を作れば、音楽好きが増えるといった主張をされている方々は多いです。しかし、何が良い音楽かは人によって異なります。ところが日本は同調圧力文化だからなのか、それが分からない人々があまりにも多いんですよね。

音楽の多様性を認めないファシズム的な音楽文化は音楽の発展を阻害すると思います。ヒトラーも音楽の多様性を認めませんでしたね。

近年の日本における音楽世論のファシズム的風潮、自分(達)の好み(価値基準)に合わない音楽を徹底的に貶める【注1】‥日本の音楽のサゲ合い合戦が人々を音楽から遠ざけ、音楽無関心層を増やしている大きな要因の一つにもなっていると思います。

 音楽好きを増やす上で最も重要な事は、良い音楽を作る事ではなく【もちろん、プロのアーティストが、そのアーティストにとって良い音楽を作る努力をするのはプロとして当りまえの事です】、人々が自分が好きな音楽を見つけ易くするような環境を作る事【注2】だと思います。

何が良い音楽なのかは人によって異なり、かつ良い音楽は既に沢山存在するでしょう。良い音楽が無いと思っている方々は、自分にとって良い音楽を見つけられていないだけだと思います。

音楽を好きになるポイントは音楽に関する先入観を捨て、可能な限り様々なジャンルの音楽を聴いてみる事【注3】だと思います。有名・無名、人気がある・無しに拘らなければ、誰でも自分の気に入った曲・音楽を見つけられると思います。

 The Shaggsという米国のバンドは歌唱力も演奏力もド下手で、世間的に人気があるわけでもない。しかし、フランク・ザッパはThe Shaggsを「ビートルズよりも重要なバンド」と評し、カート・コバーンはマイ・フェイバリットアルバム50の中の5位にThe Shaggsの「Philosophy of the world」をチョイスしました。音楽の良さは歌唱力や演奏力や人気度に還元できない面もあるんですよね。

恐らく音楽において最も重要なのはバイブスなんじゃないですかね。しかし、どういった要素【必ずしも純粋な音楽要素だけとは限らない】でバイブスが上がるのかは人によって、また同じ人でも時期によって異なります。

豊かな音楽文化とは

 米国の西海岸で音楽活動をされていた日本のミュージシャンの方の話だと、路上演奏でライブチケットが売れるのは日本ではレアケースですが、米国ではばかすか売れ、チップもバカみたいにくれると仰っていましたね。路上演奏者の数も日本よりもかなり多いそうですが、このような無名アーティストをサポートする文化は豊かな音楽文化だと思うし、実験的・独創的な音楽も作り易くなると思います。

無名、乃至はそれ程有名ではない日本のアーティストのYouTubeのMVのコメント欄が英語だらけになる事がよくありますが、西洋は世界的に超無名だろうが自分の好きな音楽を聴く人々が日本に比べるとかなり多いと思います【日本は専門家によって権威付けされているか否か、人気があるか無いか、だけで音楽を評価する人々が西洋に比べると非常に多い】。

 日本は理屈で音楽を聴いているような感じのコアな音楽好きが多いのに対して、西洋のコアな音楽好きの多くは音楽を楽しんでいるような感じなんですよね。日本では「Music」に相当する語として、古来から使われていた「音曲」ではなく「音楽」という語が新たに作られましたが、音を楽しむという訳語は非常に的確だったと思います。

日本の音楽が西洋に比べて劣っているとは思いませんが、音楽リスニング文化に関しては現状では日本よりも西洋の方が豊かだと思います。

【注1】‥例えば少し前に、ゴミ音楽グループをRolling Loudに出演させるんじゃねえといった感じで、Repezen Foxxが日本のヒップホップファンの人達からボコボコに叩かれていましたね。

【注2】‥例えば、複数の中小のレーベルが共同でYouTubeで【日本のアーティストが売れなければ、日本の音楽業界全体の収益は増えないし、有名アーティストは既に有名なのだから宣伝する必要があまり無いので】日本の無名アーティストの曲を紹介する【MV(短尺に編集)を番組で流して、アーティストや曲の簡単な解説をする】チャンネルを作る。

曜日ごとに異なったジャンルの曲を紹介。アーティストにインタビューも行う。必ず英語の字幕も入れる。

【注3】‥サブスクによって、それが可能になりました。サブスクは音楽文化を発展させると思います。様々なジャンルの音楽を聴く事により、以前は理解できなかった種類の音楽の良さが理解できるようになるし、サブスクが無かったら一生出会う事が無かったであろう曲にも出会えるようになりましたからね。また、サブスクに関しては「音楽におけるサブスク戦略に関して」を参照して下さい。

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