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【夫婦善哉(めおとぜんざい)】織田作之助が描くダメンズ養成女とクズ男の行末

「だめんずうぉ〜か〜」という漫画がありましたね。他人から見て「なぜ別れないのか?」と不思議でしかないけれど、当人たちからすると離れられない関係に陥っている。そんな物語です。

wikipedia

ド貧乏家庭から芸者になった蝶子。根が明るくてしっかり者の蝶子の元に通うようになった化粧品問屋の若旦那(惟康柳吉)と駆け落ちする。

この柳吉という男がとんでもないクズ…
・金遣いが荒い
・働く気がない
・浮気性
・酒癖が悪い
・責任感がない
とまあ、ザッと挙げただけでも即ダメンズ認定できてしまうレベル。

更に柳吉には妻子がいるんで、そもそも不倫なんですよね。はい普通はここで無理!

柳吉は放蕩の末に芸者と駆け落ちしたということで、父親から勘当されるが、蝶子は密かに快感を覚える。

私の力で柳吉を一人前にしてみせまっさかい、心配しなはんなとひそかに柳吉の父親に向って呟く気持を持った。自身にも言い聴かせて「私は何も前の奥さんの後釜に坐るつもりやあらへん、維康を一人前の男に出世させたら本望や」そう思うことは涙をそそる快感だった

いつの時代もこんな風にダメンズを更生させようと誓う女が存在するようで、面倒見が良く優しい女は、喜んでダメンズのお世話係を引き受けてしまう。そこに惚れた弱みが加わって泥沼にハマる。ダメンズ養成女になっていくのだ。

この二人には喧嘩も絶えなかったが、一度かなり大きな別れのチャンス?があった。
柳吉が実家の遺産をもらうためには蝶子と別れるしかなく、柳吉は蝶子に「形だけでも別れたことにしてほしい」と頼む。私的にはこのタイミングでの別れは十分ありえたと思う。

しかし依存、いや執着しているのは蝶子の方だったのだ。「別れるという芝居を打つ」「手切れ金をもらう」ことがどうしてもできない。そして蝶子は極端な手段に出てしまう。

読みながらずーっと思ってた。
この話、女の方もかなり問題ない?


ダメンズを真人間にするという目標よりも「一緒にいたい」「世間から立派な夫婦と認められたい」思いが勝ってしまい、相手を過剰に甘やかしてしまう。何でもやってあげてしまう。我慢しすぎてしまう。
男は本能的にわかるんだろうね。
「この女は絶対俺を見捨てない」と。こうなったら共依存の状態ですね。

柳吉は、実家と実家に残してきた娘にかなり後ろ髪引かれているように見受けられた。そのことについては蝶子も一番気にしていたと思う。更に柳吉自身も蝶子にスポイルされる自分に嫌悪感や罪悪感もあって離れたかったと思う。

離れたいのに離れられない男女の機微の難しさ。そして人間臭さと愛おしさを感じた。
めちゃくちゃ大変なのに蝶子は甲斐性があって明るく、怒りながらも柳吉をいつも恋しく思い頑張る姿に泣けるなぁーかわいいなぁーと思った。
柳吉もクズなんだけどヒモ特有の愛嬌があり、実家と蝶子との天秤でグラグラする気持ちは痛いほどにわかった。

最後に織田作之助の文体について。
ドライで飄々としているのが良かった。ウェットな物語を大阪弁のほどよいユーモアと軽さで緩和し、深刻な場面でも苦笑させられてしまう。また大阪の庶民の生活が生き生きと描かれていて楽しい。特に大阪B級グルメに詳しい柳吉が蝶子を連れ出して二人でおいしそうに食べるシーンは素朴な温かみがあって素敵だった。

※夫婦善哉(めおとぜんざい)とは東京で言うところの「お汁粉」で、法善寺の名物グルメとなっている。
一人分で二碗出てくるところが珍しく、「二人で一人」を暗示している。



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