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ゴミ箱


色々なものを受け止めてきた。
無造作に突っ込まれるゴミ、ゴミ、ゴミ。
飲み込んで、回収されるのを待った。

涙、怒り、苦痛、時には喜びや、幸せもあった。
捨てられたものたちは、みな、悲しげで、諦めていた。

ある時、一体のぬいぐるみが、乱暴に放り込まれた。
落ちていたものを、適当に放り込んだらしい。

「ここはどこ?」
ぬいぐるみの声に返事をすべきか、迷った。
「アタシ、ゆいちゃんのところに帰らなきゃいけないのに」
―多分…帰れないな。
仕方ない。ため息混じりにわたしは返答した。
「ここはゴミ箱。捨てられたのよ。不運だったわね、あなた」一旦、言葉を切る
「たぶん、ゆいちゃんのところには戻れないわ」
それを聞き、ぬいぐるみが泣き出した。
―うるさい。
わたしは沈黙を決め込んだ。

やがて、ゴミ収集の時間が来た。いつものおじさんがゴミ袋を持って、やって来た。
彼はふと、ぬいぐるみに目をとめた。
「可愛いぬいぐるみだ…もしかして、忘れ物が間違えられたのかな?」

泣いていたぬいぐるみは、ゴミ収集のおじさんにより、救出された。

あの子が帰れたのかは、わからないけど、今日もまたわたしはゴミを―あるいはゴミと決めつけられたものを受け止めている。

ある時、小さな女の子がジュースの空き缶を捨てに来た。
回収されたばかりだったので、カララン、という音が響いた。
その女の子の手にあるぬいぐるみ―あれは―
「ねぇ、空き缶さん」
わたしは声をかけた。
空き缶は大層驚いたようで「なんだい?ボクに答えられることかな…」と言った。
「もしも、わかるなら、教えて。いまの女の子が持ってたぬいぐるみ…あれ、ずっとあの女の子と一緒?」
「んー、そういえば、お母さんが『もう失くしちゃ、ダメよ』とか言ってたなぁ…」
その答えにわたしは確信した。あの時、泣いていたぬいぐるみだ。戻れたのだ。
「たまには、奇跡って起きるのね」
わたしはぼそりと言った。

「えっ?なんですって?」と空き缶が聞き返してきたけど、無視した。

わたしはゴミ箱。
毎日、人々が投げるゴミを受け止めている…。

#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

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