新たな鬼平 スタート

池波正太郎先生生誕100周年記念企画の制作発表から3年。

当時、前職を辞し、現職に就く間の暫しの休止期間で自宅でリアルタイムでスカパー!での制作発表を視聴していた。

昨年公開の映画『仕掛人・藤枝梅安』二部作と新たな『鬼平犯科帳』の制作が発表された。

梅安も鬼平も池波正太郎先生の代表作中の代表作なので、期待が膨らむ一方で不安もあった。

依頼を受けて標的を始末する仕掛人を描いた『仕掛人・藤枝梅安』はテレビシリーズやテレビスペシャルや映画で幾度も映像化されているが、意外と長期シリーズが無く(テレビシリーズ『必殺仕掛人』全33話が最長だけど、結構なアレンジで池波正太郎先生を激怒させた事があるので、池波作品に含めるのは少々気が引ける面もあったりする)今回はどんな梅安になるのかな?と期待していた。

火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の活躍を描いた『鬼平犯科帳』は、昭和にテレビ朝日系で初代松本白鸚さん(当時、8代目松本幸四郎)、丹波哲郎さん、萬屋錦之介さんと3人の役者によりテレビシリーズが制作され、平成にフジテレビ系で2代目中村吉右衛門さんを主役に迎えて新シリーズが制作された。

中でも吉右衛門版はテレビシリーズが9作、舞台版や映画も制作、テレビシリーズ終了後も2時間枠のスペシャル版として制作され、足掛け28年の長期シリーズとなり、過去の作品以上にキャストにハマり役の役者が多く(密偵・小房の粂八役の故・蟹江敬三さんは粂八を演じるために生まれてきたとまで絶賛され、密偵・相模の彦十を演じた3代目江戸家猫八師匠には池波正太郎先生から今度の彦十はいかにも彦十らしいと記された葉書が届いたという)、エンディングテーマに選ばれたジプシー・キングスの「インスピレイション」は洋楽なのに日本の四季の風景を撮影したエンディング画面に見事なまでにマッチしており、池波正太郎先生が鬼平役に熱望した吉右衛門さん(池波正太郎先生は『鬼平犯科帳』を執筆する際、初代松本白鸚さんを長谷川平蔵にイメージしており、白鸚版終了時に、次に『鬼平犯科帳』の映像化する際は白鸚さんの実子である吉右衛門さんで・・・と希望されていた)の見事な演技も相まって、これを上回る鬼平を制作するのは無理じゃないの?と思った程の名作であった。

なので、新しい鬼平の制作発表は嬉しい半面、大丈夫かな・・・という気持ちがあった。

制作コストが莫大かかることを筆頭に様々な要因で民放からテレビ時代劇が消えた事もあり、新作の時代劇が制作される事は時代劇ファンとしては望外の喜び。

ましてや鬼平の新シリーズとなると期待しない訳にはいかない。

が、吉右衛門版鬼平の完成度の高さを考えると、比較されるのは必定。

悪い事(?)に、吉右衛門版鬼平は最終作『鬼平犯科帳FINAL 後編 雲竜剣』のフジテレビ系地上波放送後も、時代劇専門チャンネルやホームドラマチャンネル(共にスカパー!)やBSフジで途絶える事なく放送され続けている(テレビ東京系列局の地上波局テレビせとうちでも放送してたりする)し、制作元の松竹からDVDが発売されている(デアゴスティーニからDVDマガジンも発売済)ので、視聴機会には恐ろしい位にめちゃくちゃ恵まれ過ぎているから、容易に比べられるだろ・・・な懸念もある。

にもかかわらず、新シリーズの制作に乗り出した時代劇専門チャンネルには敬意を表さない訳にはいかない。


時代劇は衣装にしろ小道具にしろ撮影場所にしろ、通常のドラマや映画等に比べ用意するものが非常に多いし、制作が無くなると、小道具の作成や結髪や着付けや殺陣など様々な時代劇撮影に必要な技術が途絶える恐れもある。

小道具も、身の回りにあるもので手軽に用意出来る物ばかりではない。

所作一つとっても、現代劇と同じ訳にはいかない(歩き方も、侍と町人では違う)。

そんなハードルの高い時代劇の中でも、ある意味失敗が許されない作品(かもしれない)『鬼平犯科帳』。

制作するは吉右衛門版鬼平を手掛けた松竹撮影所。

今もNHKのBS時代劇やテレビスペシャルや映画でコンスタントに時代劇撮影が続いている松竹撮影所ならば、スタッフ的には心配無い。

気になるのはキャスト。

制作発表では、松本幸四郎さんと発表された。

へ?松本幸四郎って初代鬼平だろ?と思ったが、此度演じるは初代鬼平の8代目松本幸四郎さんではなく、当代の10代目松本幸四郎さん(ややこしや)。

まだ若いだろと思ったが、年齢的には実在の長谷川平蔵と同じ位。

祖父と叔父が演じた大役(萬屋錦之介さんも親戚筋になるんだったかな?)を引き継ぐプレッシャーは想像に難くない。

また、父の2代目松本白鸚(9代目松本幸四郎)さんも長谷川平蔵は演じていないものの、6代目市川染五郎時代に『騎馬奉行』で盗賊改方長官・黛内蔵助を演じられたので火付盗賊改方長官によくよく縁のある一族である。

昨年追加発表されたキャストは、筆頭与力・佐島忠助に本宮泰風さん、筆頭同心・酒井祐助に山田純大さん、同心・木村忠吾に浅利陽介さん、密偵・相模の彦十に火野正平さん(これはちょっと意外だった)、同心・小野十蔵に柄本時生さん(吉右衛門版鬼平で小野十蔵を演じたのは父の柄本明さん)となかなかの顔ぶれ。

これは、なかなかの配役とうなった。

そして迎えた放送日。

新たな鬼平第一作は「本所・桜屋敷」

100分近い放送時間はあっという間。

フィルム撮影からデジタル撮影に移行したあたりから、夜の室内の照明が抑え気味になった気がする(フィルム撮影時代は、大きな蝋燭一本のわりに明るい部屋だなと思う事が結構あった)が、これが昼の画面と夜の画面のメリハリとなり良い。

殺陣もかなり練習したらしく、ムムム・・・となることも無かった。

火野正平さんの彦十、猫八師匠の彦十とは一味違う良さがある!。

皆、しっかりと鬼平の世界に生きる者になりきっていてよかった。

次作は映画『血闘』。

期待は高まる。

新たな鬼平、動き始めました。



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