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#422 契約書がどうしてだいじなのか(二段の推定)

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。

【 今日のトピック:契約書(二段の推定) 】

今日は,契約書についてお話したいと思います。

「今日のトピック」の欄↑に,「二段の推定」という,意味がわからない言葉が書いてあるので,その言葉についても説明していきます。

さて,「契約書」と書くと,なんか仰々しい感じがしますが,結構身近な存在だと僕は思っていますます。

例えば,持ち家ではなく賃貸で暮らしている方は,自宅を借りる際に,「賃貸借契約書」に署名押印したはずです。

賃貸ではなく,持ち家で暮らしている方も,その持ち家を購入する際,中古物件や建売住宅なら,土地と建物の「売買契約書」に署名押印されたでしょうし,持ち家を新築したのであれば,新築する建物の敷地を確保するための「土地売買契約書」に署名押印されたでしょうし,新築をハウスメーカーに発注する際にも,「建物建築請負契約書」に署名押印されたでしょう。

そして,このような土地の購入費用や建物の建築費用を,銀行からのローンで工面した場合であれば,銀行で「ローン契約書(金銭消費貸借契約書)」に署名押印したでしょう。

こう見ると,「契約書」って,普通に生きているだけでも,結構な頻度で目にするような感じがします。

しかし,そもそも,どうして「契約書」なんて作るのでしょうか。

素朴に考えれば,「きちんと書面として残すため」ですよね。契約書を作る理由って。

じゃあどうしても,「きちんと書面として残す」必要があるのでしょうか。

それは,「あとで争いになった場合に,証拠になるから」ということでしょう。

ここまでは,素朴に考えることができます。

でも,ここから先を,僕ら弁護士は考えています。

「僕ら弁護士」なんて書いちゃうと,「素人にはわからない」というエラそうな感じが出ちゃいますが,「素人にはわからない」なんて思っていません。

むしろ,先ほど書いた,素朴な考え(後日紛争になったときに契約書が証拠になる)が,きちんと裁判で反映されるように,仕組みが作られていると,僕は思っています。

裁判の仕組みが先にあるわけじゃないんです。

先にあるのは,素朴な考えなんです。

ここがめちゃくちゃ大事です。あとで,「二段の推定」という,プロっぽい言葉について説明しますが,この「二段の推定」も,「二段の推定」が先にあるわけじゃありません。

「契約書は後日の紛争で証拠になるよね」という素朴な考えが先にあって,その素朴な考えがきちんと裁判で反映されるようにする仕組みが「二段の推定」なんです。

ここ,勘違いしてほしくないと僕は思っています。

「法律」って,法律が先にあるわけじゃありません。

犯罪を例に出せば,このことがよくわかります。

例えば,窃盗罪という犯罪がありますが,窃盗罪は,「窃盗罪は犯罪だよ」と刑法に書かれているから,犯罪になるんじゃありません。

「他人の物を盗んじゃダメだよね」という素朴な価値観があって,それを表現したのが「窃盗罪」です。

「窃盗罪」という犯罪が先にあるわけじゃなくて,「他人の物を盗んじゃダメだよね」という素朴な考えが,先にあるんです。

だから,「他人の物を盗む」が「窃盗罪」として犯罪になっているわけです。

さて,「契約書」に話を戻します。

「契約書を作るのは,後日紛争になったときに証拠になるから」ということでした。

じゃあ,最も激しい「紛争」であり,裁判官が最終的に判決によって有無を言わさず解決に導く「訴訟」において,「契約書」って,どう扱われているのでしょうか。

ここで,「二段の推定」が登場します。

契約書というのは,ふつう,当事者が2人います。

アパートの賃貸借契約であれば,貸主と借主

土地の売買契約書であれば,売主と買主

住宅ローンの契約書であれば,貸主と借主

こんな風に,2人の当事者がいます。

で,その当事者2人が,それぞれ署名押印する。それが,契約書です。

当事者が会社であれば,自署ではなく,会社名や代表者名が書かれたゴム印を押す場合もありますが,そういった自署でない場合も契約書であることには変わりありません。

そして,日本に特有なのが,「印鑑」の文化です。

日本には「印鑑」の文化が根付いていて,特に,「契約書」は,署名だけでなく,「押印」も要求することがほとんどです。

べつに,法律上,「押印」が契約成立の要件にはなっていません。というか,契約書すらなくても,法的には,口約束だけで,契約を成立させることはできます。

でも,普通は,「契約書」を作って,それに当事者双方で署名押印します。

契約書を作ったうえで,「署名」だけでもいいのに,「押印」までするのは,どうしてか。

それは,「自分の印鑑は普通は誰にも渡さない」からです。

普通は,自分以外に自分の印鑑を使用させたりしない。だからこそ,自分の印鑑を押印したのであれば,普通は,その押印を自分が認めたはずだ。

そう考えられています。

これが,「二段の推定」の「二段」のうち,一段目です。

「自分の印鑑は自分以外に使わせないよね」という素朴な考えがあって,それを踏まえると,自分の印鑑が押してあるんだったら,その印鑑を自分で押したことは間違いない,と「推定できる」

「推定できる」とは,「一応そのように認められる」ということです。

もちろん,印鑑を誰かが勝手に持ち出して勝手に押したとか,印鑑を持ち出すこと自体は許していたけれど,その契約書に印鑑を押すことは認めてないよとか,そういった反論はあり得ます。

ただ,普通に考えれば,「自分の印鑑は自分以外に使わせない」のだから,自分の印鑑で押印されていれば,「自分の意思で押印したはずだよね」という風に考えているんです。

そして,次は「二段の推定」の「二段目」です。

・自分の印鑑で押印された→自分の意思で押印した

これが一段目の推定でした。

二段目は,

・自分の意思で押印した→その契約書全体を認めた

という推定です。

例えば,賃貸借契約書があって,その契約書に,「自分の意思で押印した」のであれば,普通は,その契約書全部を認めた,という風に考えていいですよね?

確かに,押印の箇所は1か所だけですし,押印したことと,契約書全部を了解したかどうかは,厳密には別問題です。

でも,契約書の所定の場所に押印があるのであれば,その契約書全部を認めたと考えるのが「普通」です。

これも,素朴な考えが反映されています。

契約書に押印するときは,契約書全部に目を通して,すべてを了解したから押印する。

そういう素朴な考えが反映されているのが,二段目の推定です。

先ほど書いた一段目の推定と合わせると,

・自分の印鑑で押印されている→自分の意思で押印した→契約書全部を認めた

ということになります。

これは結局,「押印」があると,「契約書全部を認めた」と「推定」(一応認められる)されることになります。

この仕組み,先ほど書いた,「契約書が後日紛争になったときに証拠になる」という素朴な考えが反映されていますよね。

「きちんと署名押印のある契約書を作成したら,その契約書が後日紛争になったときに証拠になる」

この素朴な考えを反映するために,契約書に署名押印した当事者は,その契約書全体を認めたと推定される,という仕組みが用意されているのです。

「推定(一応認められる)」といっても,その効果は絶大です。

この推定を覆したい場合,かなり頑張らなきゃいけません。

どれくらい頑張らなきゃいけないのかは,ケースバイケースなので,弁護士に相談してみてください。

繰り返しになりますが,法律が先なのではなく,素朴な考えが先です。

ここが,今日のいちばんのポイントです。

それではまた明日!・・・↓

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