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新しい思い出の保存方法

2024.04.10

・春の嵐が通り過ぎていく、風が窓ガラスに流れあたる音で目が覚めた、アウトドア用に軽い仕様の折り畳み傘では安心して雨風を防ぎきれないなと不安を覚えつつ、ぴかぴかの制服を纏った女の子たちの間をすり抜けて、駅まで向かう、というのは昨日の話で、今朝カーテンをあけたそこには雲ひとつない空、玄関をあげれば冬よりも冷たく感じる空気、鴨川を渡る橋の上から見下ろす景色には、雑草の緑と、菜の花の黄色と、空を映した川面の青が混在して、騒がしくも心浮き立つ、暴風に耐えた桜たちはより一層美しい、混乱、矛盾、にがくてあまい、それが春。

・昨日敬愛する宇多田ヒカルさんのベストアルバムが届いた、出したお値段以上の存在感に圧倒されつつニヤニヤしてしまう、彼女との出会いは小学1年生の頃のカーステレオ、親戚に会うために訪ねた北海道で、彼女の曲を歌うわたしのために祖父は何度もかけてくれた、そこからもう、四半世紀経ったのか、特にここ数年の彼女の曲の歌詞が、わたしの煩悩に重なる、これが心から掘り出した言葉なのだろうか。

・掘り出すといえば、携帯の音楽サービスに、昔よく聴いた曲を集めて作るプレイリストがあって、わたしはたまにそれを聴き直す、そしてそこに閉じ込めた思い出を、もう味のしなくなったガムかもしれないけど、もう一度噛み締めてみる、タイトルは言えないけど、流れた曲をみて、これどうやって手に入れたんだっけ、と思い返せば、あの頃憧れていたひとの、オリジナルの曲順、わたしのリクエストとあなたのセレクトで、CDを焼いてもらったのだったと、また一つ思い出が浮かびあがる。

ドキドキしながら家に持って帰ってきて、パソコンに読み込ませて、あなたの書いたメモ通りタイトルを入れて、インターネットで拾った彼らの写真をアルバムジャケットにはめ込んで、すぐにiPodに入れて、白いイヤホンを耳に差し込んで聴いた、何度も何度も、耳悪くなるよと言われても、夜寝る前にひとり、あなたのセレクトに恋焦がれた、いったいなにを思って選んでくれたんだろう、と、そこに本当の理由はなくても、架空の理由を探そうとしていた、ただただ、曲と共に恋を楽しんでいた、あの頃。

・大人になっても、うまくいかないことがあっても、こういう思い出が積み重なっていまがあることを、忘れたくない、そう思って書いてるこれもまた、新しい思い出の保存方法なのかもしれない、あなたもありませんか、耳の記憶に心揺さぶられる瞬間。

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