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読書記録#1 「教育投資の経済学」

「教育投資の経済学」という本を読んで、教育への投資の優位性とエビデンスについて詳しく知ることができた。それについて簡潔にまとめてみようと思う。

この記事を読み終えて、少しでもこの本に興味を持ってくれれば幸いだ。


教育と経済成長

教育は個人だけではなく、社会にも恩恵をもたらす。もし前者を強調するなら個人が教育への投資へ支出するべきだが、後者を強調するなら国が支出するべきである。

ここのバランスは極めて重要であり、そう簡単に計算できるものではない。参考に、日本の教育への支出は世界的に見ても非常に低い水準にある(OECDの平均を3ポイント下回る)。下から数えたほうがはるかに早い。

引用元:https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/06/21/00003/091400129/

教育の経済価値

教育への投資は個人への生涯収支へ大きな便益をもたらす。特に大学進学は生涯収支に最も大きい影響を与える。

男性は大卒で約2億9000万円、高卒で2億6000万円、女性は大卒で2億4000万円、高卒で1億9000万円の生涯収支を得る。

まとめると、男性は、大学に行くことで生涯収支が3,000万円増え、女性は5,000万円増えるということである。すなわち、大学に行かない場合の収支がそれらを超えない場合、投資として正解だということだ。

大学に行くほうが(就職する場合)生涯収益が高くなるということは、なんとなく感じていたが、実際に数値で見るとかなり大きいことがわかる。

しかし、このように差が明らかであっても親の経済状況が悪ければ大学に進学できない子供も少なくない。特に、発展途上国はさらにそ割合が高い。

教育の社会問題

教育における社会問題は多岐に渡るが、特に深刻なのが子供の貧困だ。これは子供の教育達成と大学進学などの確立を低くする。

ひとり親家庭における子供の貧困率は48.2%、日本のひとり親世帯は135万世帯である。これは日本の世帯数(5000万世帯)の2.7%を占める。

百世帯のうち、(子供が一人と家庭すると)二人から三人の子供が貧困に苦しめられていて、まともな教育を受けられず大学進学も諦めざるを得ない状況にあるということがわかる。

備考:この本では描かれていないが、発展途上国では教育の質自体が悪いため、貧困家庭だけではなく、普通に学校に通っていても学力が向上しないといった問題がある。そう見ると日本の教育の社会問題は質ではなく経済的なことがより深刻であり、途上国が”次に”解決するべき段階のようにも見える。

教育投資と政策

教育の質をあげ、子供たちの認知能力、非認知能力の両方を上げるとこは生涯収支に強い影響を与えるとされている。

「クラスの縮小」は生徒一人当たりの先生が使える時間を増やし、能力向上に良い効果があるとされていたが、いくつかの研究によると、大した向上は見られないことが明らかになった。しかし、途上国などの貧困層では能力向上がより鮮明に見られ、クラス縮小の効果は大きいということが分かった。

「グループ学習」は強調性などの非認知能力を向上させることがいくつもの研究で明らかになっている。さまざまな形で、授業などに、グループ学習を取り入れることがさらに重要になってきている。

貧困家庭の子供に対して、救済措置となるのは「奨学金」である。大学進学に関して家計の経済状況は強く相関しており、奨学金利用者は所得の低い層で多く需要される。

海外の研究では、社会経済背景の悪さがローンの受給確率を高めること、非白人や女性は教育ローンを受給する確率が低いことが発見されている。また、教育ローンは負債であるため、負債を回避しようとする傾向も指摘されている。日本のデータを用いた研究によると、低所得な家計や親の学歴が低い場合、ローンを回避する傾向があり、さらに関連する制度を詳しく調べない可能性を発見している。

すなわち、奨学金を「最も必要としている家庭」に届けるには制度の情報提供が重要になる。負債であるのは間違いないが、前でも言及した通り、投資に対してのリターンを考えるとやらない手はない。そのような情報を子供達またはその親に届けることは奨学金の存在価値をより高めてくれる。

日本経済と教育の未来

日本が抱えている問題として、よく耳にするのは少子高齢化だ。それにより労働人口はさらに減り続け、生産性の向上が見込めなくなる。それが問題だとされている。これを解決するには、AI、労働人口の平均年齢の引き上げ、海外からの労働者の受け入れなどさまざまな対策が必要となるだろう。

さらに、日本の高齢化問題は教育に関しても深刻な影響を及ぼしうると示唆されている。高齢化が増え、子供が減ることにより、政策資金は必然的に医療支援や介護支援など高齢者に流れ込んで行き、その割合は減ることになる。

今でも低い教育投資がこれ以上に減ることになると、教育の質の向上は見込めず格差はさらに広がっていくことが考えられる。そのためには国だけでなく、民間が主体となって国に頼らずとも持続可能な土台を今のうちからでも作っておく必要がある。

日本の格差社会の深刻さがさらに増していくと仮定するならば、それに気づいてる人の「今」の行動が極めて重要になるだろう。

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