アラキくんの言うことには〜さみ、ちゃん〜
アラキくんは頭がいい。背も高い。目も鼻もすっとしていて肌が透き通るように美しいメガネ男子。いいところしかない。
そして私のことを、「さみ、ちゃん」と独特のテンポで発音する声もナーバスで音程が良い。ボリュームも良い。
「君、ボクのこと好きだよね。お付き合いしてもいいけど、程よい距離感は守ろう。それが心地よい間柄を保つ秘訣なんだよ。で、何て呼んでほしい?」
こうして、教室の窓際でいつも本を読んでいるアラキくん(ボクのことはアラキでと言われたので)と、放課後は友人ゆもちゃんとダラダラ話しているだけが学校生活の彩りであった私が、晴れて付き合うことになったのだった。
「アラキのどこがいいのか、私には全然わからんよ。さみちゃん」
ゆもちゃんはアラキくんが苦手だ。「なんかスンてしてるのが気に入らん」ということだけれど、ゆもちゃんのスンの感覚はいまだに掴めない。
「女は惚れるんじゃなくて惚れさせなきゃね」
ちっちっと指をメトロノームのようにして、ゆもちゃんは言うけれどそんなこと通用しないんだよなぁ、アラキくんには。
「第一、惚れるって老いてぼんやりした頭のことを指すときもあるんだ。ボクはそんな風にはまだなりたくないよ。いずれなるにしてもね」
アラキくんがボケて私に抱きついてくれないかなぁ、そんな想像をすると自然と顔がニヤけてくるから困る。「ヨダレ出てるぞ、恋する乙女」とゆもちゃんに笑われる。
「ただボクがいずれそうなった時に、さみ、ちゃんが近くにいたらあるいは」
あるいは、何?いやいや、アラキくんには多くは望まない。それが惚れた弱味。
「君はボクのことをただ好きなのだと思っていたのだけれど、まさかもうその好きが今や大きく、とか強く、とかあるいは」
あるいは、いやいやその先はダメ。アラキくん!
「大きくも強くもしなやかでもあるんだよ、あるいは」
「あるいは、の使い方が少々おかしいようだけれど、しなやか、とはへぇ」
へぇと言いながらちょっと歪んだアラキくんの唇が薄くて儚くて。
「そんなに短期間にしなやかにまで行き着くのは少々困るな。段階的に進まなければならないらしいんだよ、そうしないと、長くは続かない」
「続けたいの?長く?私と?一緒にいたい?」
「顔が近いよ。さらに今のセリフはハテナが多すぎる。けど、あるいは」
やっぱり大好き!アラキくん。私はアラキくんの首筋にぎゅうっと抱きつく。
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