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思えば遠くへきた…もんだ?

「思えば遠くへ来たもんだ」は「海援隊」の名作。
故郷を離れて都会に出て、様々な経験を経ながら、人生を歩む。
妻も子供も授かって、ふと自分の人生を振り返り、嗚呼、遠くまで来たものだなぁ、と独り言ちるのだ。

実は私は生まれてこの方、他の市(まち)に住んだ事が無い。
六回ほど転居はしているが、みな近所だ。
理由は色々だが、まあ、しょうもない理由であるのは共通だ。

だから「思えば…」のような出来事は無かった。
都会に憧れて家を出たとか、二十歳に大恋愛をして、死んでしまおうと泣いたとか…テレビドラマのありふれたエピソードのような経験を、私はしたことがない。
女房も子供も持っていないし。

つらつらと流されるように生きてきたと思う。
ただ、その流れ自体は穏やかなものじゃなく、山の渓流のように激しくて、組んだ筏が壊れては直して下るような、そんな感じの人生だった。

常々振り返る度に
「どうしてこれほど馬鹿げているんだろう?」と思う。
生まれた時が悪いのか…それとも俺が悪いのか…などと口ずさんでもどうにも解らぬ。

あと二年ほどで「還暦」を迎えることになるのか?と知ったとき、心底吃驚した。
それと同時に「ああ、こういう運命だったんだな」と悟った。
まあ、それもいい。
抗うことも出来るが、私は「思えば…」の青年のように、棄てることを選択することができなかった。

勇気が無かったわけじゃない。
路傍の石に、思いきり蹴躓いただけだ。
痛みにもがく中で、優しい人たちに頼らざるを得なかった。
生きていくために。

ただ、心の端々に、旅への飢えがへばりついている。
それは多分、生まれられない運命を負ってしまった、水子のような存在かも知れない。

旅や、それに付随する写真撮影は、供養代わりなのだろうか?。
それとも、来るべき来世への陰徳なのであろうか?。
そこまではまだ、わからない。
まだ、わからなくてもいい。


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