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カズテラモリの絵

絵を描くことは、突然やってきた。

2022年8月、夏休みを取り、私の森近くにあるゲストハウスに滞在した時のこと。アート活動もされているオーナー夫妻の作品を拝見して、素敵なご近所さんがいることを喜び、美味しい食事と会話を楽しんだ。翌朝、朝食をいただき、さてチェックアウトという時、奥さまからハガキ大の紙と画材を渡された。

ウチは宿帳がわりに必ず絵を描いてもらうの。という彼女に、

絵?絵なんて描けません!と、私は咄嗟に小さく叫んだ。本気でそう、思っていた。

子供の頃は絵を描くのが大好きで、新聞広告の裏によく女の子の絵を描いていた。本や漫画を読みはじめたら、呼ばれても気付かないくらいお話に没入する子だった。今でも好きなことへの集中力が高いのは、描くことを止めず、好きなだけ本に触れさせてくれた両親のおかげかもしれない。

ティーンになると、興味はファッションやアイドルや恋愛に移っていったけど、まだ片足は物語の世界にあったと思う。

看護学校に入り、病院実習がはじまると、絵や本に向ける時間も余裕も無くなり、次第に就職のこと、国家試験のこと、友人達と遊ぶことに頭も身体もいっぱい。看護師として働くようになってからは、夜のクラブ活動や海外旅行など、外からの刺激に夢中になり、絵を描くことから遠ざかってしまった。

働きはじめると、私の興味はファッションとメイクアップを占めるようになり、化粧気のない美しい同僚たちの服をコーディネートをし、メイクをしてみんなで出かけるのが大好きだった。

3年働いた大学病院を辞めると父に報告した時、「お前の人生、何がやりたいんだ」と父から言われた言葉が悔しかったのか、素直だったのか、毎日毎日「私は何がしたい?何が好きなこと?」と自問自答した。ある時ふと、子供の頃に女の子の絵を描いて、色を塗るのが好きだったこと、母のメイクボックスを母に内緒で開き、見よう見まねでメイクする1人遊びが大好きだったことを思い出し、ファッション系のメイクスクールの道へ進んだ。

お絵描きを忘れた訳ではなく、紙がリアルな女性たちへのメイクに変わったのだ。

メイク学校では、ヘア・メイク・スタイリングで一枚の写真の中で世界観を作り上げていく課題に夢中になり、卒業後、表現者だらけのファッションの世界へ飛び込んだ。

アーティストばかりの世界に身を置いてみると、絵を描くという行為は、然るべき機関で研鑽を積み、技術と情熱がある限られた人だけに許された行為だと、口には出さないけど、感じていたと思う。  

勝手に感じていた畏れ多さが、私をさらに描くことから遠ざけた。技術の無いものが描くのは、格好悪いとさえ、思っていた。

カッコ良いか、カッコ悪いか。

人を判断すること、されることに、20代の私はがんじがらめになっていた。

辛かった、と思う。

2022年の夏、紙と画材を渡された私には、自分で掛けた呪縛が、まだ続いていたようだ。それを断ち切ったのは、宿帳に残された、子供たちの自由な絵だった。とことん自由な表現の中に、「オレがカッコいいと思ったクレヨン!」「私が可愛いと思った色!」どう思われるか、どう見られるかなんて全く関係ない、その人だけの「私の世界」がそこに広がっていたのだ。

ジャッジされることを恐れない、自由な表現に触れ、私は恐る恐る、前日に訪れたハーブ農園で出会った犬と、雨が降ってきてしだいに大きくなった雨粒、緑も花も私も犬も濡れたこと、その情景を描いてみようと思った。水も絵の具も思うように動いてはくれない。紙もふやけてグニャグニャだ。けれど、完成した絵は、記念すべき私の絵日記の一枚目となった。

その日から毎日絵を描くようになり、絵日記は数ヶ月続いた。今は毎日描いてないけれど、思い立ったら気持ちを止めずに描いている。

描いたものがまとまってきた時、Instagramに絵専用のアカウントを開設し、服部福太郎さんに名付けられた「カズテラモリ」という名前を当ててみたら、バシッと嵌る感触があって、いや、カズテラモリってなんやねんて話しなんだけど。

絵を描き始める1ヶ月前、縁あって服部みれいさんの「声のメルマガ」に出演した時のこと。人の呼び名を付ける才能があるという福ちゃんに、私に新しい名前を付けて欲しいとお願いした。

カズテラモリ!

その場に居た、みれいさんも私も鈴木杏ちゃんも、なんじゃそりゃ?と笑ってしまったんだけど、収録後に字画を調べてみたら、どの流派でも最大吉!今では私の絵の世界と切り離せないものになっている。

KAZ=私
TERRA=大地・土・地球 
MoRI=森

意味は後付けだけれど、福ちゃんを通して「降りてきてくれた」この名前を、私はとても気に入っている。この名前が来たから、絵の世界が開けたのでは、と思うほどだ。

カズテラモリで絵を発表すると、不思議なことが起こった。

絵に言葉を付けたい
展覧会を開きたい
商品のラベルにしたい
オラクルカードを作りたい

一度も営業した事がないカズテラモリの絵に、いろんな人から声を掛けてもらえるようになったのだ。

メイクアップアーティストとして20代半ばに独立した頃は、何者かになりたくて、誰かに認められたくて、その欲でヒリヒリしていた。今は絵を描きたいという欲はあるが、絵でどうにかなりたいなんて、考えもしなかった。

描くことが、描けることが、私の喜びだから。

その純粋な気持ちだけが、絵の世界で、私の頼りになっている。

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