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南イタリアの田舎に日本人が行くと


ルカの生まれ故郷は、イタリア半島のかかと側。

日本語では『プーリア州』と表記されることが多い。
(イタリア語の発音では『プッリャ』)

海好きの私にとっては残念なことに
〈アドリア海を臨む海沿いの町〉ではなくて、
若干内陸の、小さな可愛い田舎町。

初めてルカの故郷に二人で行ったとき、
夏で
二人とも時間が取れる状態だったので
4週間ほど滞在することにした。


ルカの実家に着いて 
ルカのお姉さんから聞かされたのは、
親戚一同が、私に会いたくて大興奮している
という話だった。

ルカが故郷を出て
フィレンツェに住み始めて以来、
彼は毎年、夏休みやNataleナターレ(クリスマス)に
里帰りはするものの、
恋人を連れ帰ったことはおろか、
話を聞いても、女っ気がまるでなさそうなので

「実はゲイなんじゃないか」
「いやたしか高校生のときに付き合ってた女の子いたぞ」
「待て。ルネサンスの頃からゲイで有名なフィレンツェだぞ、
まさかあいつそこで覚えたんじゃ…」
などと、
従兄弟たちに陰で噂されてたんだそうだ(笑)


だから
「〈あの〉ルカが、
とうとう女の子を連れて帰って来るらしいぞ!」 と 
事前に親戚じゅうに連絡が回りまくり、

到着した日からもう
あっちの親戚や、こっちの親戚が会いに来てくれたり、
少し遠い町に住む親戚の家へ 
こちらから会いに連れて行かれたり、

私は誰が誰だかぜんぜん覚えられなくて
でもとりあえず

「はじめましてー」

となるべく積極的に輪のなかに入って行って、
繰り出される質問にはすべて
一人一人、丁寧に答えることに集中していた。
(「親戚」バージョンに加えて
「ルカの地元の友達たち」バージョン
の集まりもあった)


私が外国人だってことも、
フィレンツェと違って
〈あまり外国人と接する機会のない田舎〉
に住むイタリア人たちにとって、
話題性が高かったらしい。

夏のヴァカンツァの時期には このエリアにも
EU内の外国人たちが観光客として
他の州のイタリア人たちと同様に来るけれど、
アジア人はこの町にも数人いる、出稼ぎの中国人くらいしかいないから

『本物の日本人』を実見したことは、
各親戚のご近所でも
それなりの話題になっていたのだそうだ。 
(パンダ状態…)


そんな状況だから
日伊友好のため、私は頑張った。

私が彼らにとって 
『人生で初めて身近に接する日本人』
だという責任が、重くおごそかに、のしかかる。


何を頑張ったかって、
おもてなしで出してくださる食べ物は、
すべて美味しそうにいただくわけですよ…


向こうはこちらが外国人だから、
「これ知ってる?」
「これ食べたことある?」
「これ美味しいわよ」
「日本にこんなのはある?」と

楽しそうにいろいろと、
しかもたくさん、 
どんどん食べてね♪ と出してきてくれる。


しかも不味まずいことには、
美味しいものばっかりなの……
(この対義語のフレーズは矛盾なく成立します😓)


とくにBurrataブッラータなんて、
フィレンツェじゃ見たことも聞いたこともなかったから
ブッラータとの出会いは、強烈だった。

(後からフィレンツェでも売ってると知って買ってみたけど、
やっぱり「コレジャナイ感」が)

なにしろそこは本場なので、
初めて「ここの特産品のチーズだよ」 
と出されて食べたときは

「ナニコレー!!!」

と、あまりの美味しさに感動。

しかも自家製の
フレッシュなブッラータを買えるお店が
ルカの実家の近くにもあって、
私がブッラータを気に入ってしまったせいで
家族の誰かがお散歩ついでに 
毎日のように
買ってきてくれちゃったりして

これもここの特産品のTaralliタラッリと 
まるでおやつのように出されたり、

ルカのお母さんをはじめ
親戚のおばさまたちも皆、お料理がとても上手で

特にルカのお母さんがつくる、
ナスのラザーニャの『Parmigianaパルミジャーナ』が
美味しくて美味しくて、
大好物になってしまうし…


このあたりの住人は
夏のあいだの数ヵ月は、
実家のある町から車で15分くらいの
Casa di campagnaカーザ ディ カンパーニャ(直訳で「田舎の家」)という
緑に囲まれた丘の上のセカンドハウスのほうへ
避暑を兼ねて移り住む習慣があり、

たいていお庭つきの一軒家で、
ルカの家族の〈田舎の家〉も
広い庭に 
オリーブやアーモンドの木が いくつもあり、
普段食べるサラダなどの野菜用に
お父さんが、小さな畑もつくっていて

私たちもプーリアに滞在中はほぼずっと、
一緒にそこに居た。


〈田舎の家〉に居るあいだの食事は 
朝 昼 晩とも
庭先の、屋根のある広いテラス部分にテーブルを出して
雨が降らないかぎり 
いつも外でとる。

外でする食事はなぜか、
いつもよりもっと美味しく感じる。 
あれは何でなんだろう?


さて 食べ物の話に戻りますが
こちらで受けた南の『洗礼』。


家族だけの普段の夕食は 
いつもたいてい、カフェだけか 
デザートといっても 
スーパーで買ったジェラートや果物で終わるんだけど

親戚やお客さんと一緒の夕食のときは
「夕食後」が、なかなか終わらない…

こんな感じ↓

食事が終わるとメインのお皿を片付けて、
デザートの用意を始める。

その日のお客さんたちが、
小さなケーキの詰め合わせや、
夏の定番のGelatoジェラートや、
Zuccottoズッコット(ジェラートケーキみたいなの)などのデザートを
持ってきてくれることが多いから、
先ずはそれからサーブする。

みんなで わいわいと包みを開け、 
それを持って来た人のセンスを褒めたりしながら

味の感想を言い合ったり、
どこのお店のなの? 
といった質問をしたりして
美味しくいただく。 

念のため言うと 
お客さん(家族やカップル単位)が
それぞれみんな、何かしら持ってくるから、
その日のデザートは 
1種類だけじゃないことが多い。

ひとしきり食べ終わると、
「フルーツ食べる~?」と言って
マンマがフルーツを何種類か、
切ったり、
そのまま持ってきたり、
で出てくる。

夏だとスイカ、メロン、
メロンときゅうりの合いの子らしい
Barattiereバラッティエーレという果物(*)、
ぶどうやプラム系、
珍しいところでは 
サボテンの実なんかもあった。
(↑南イタリアだったので。フィレンツェでは見ないです。
(*)は、和訳検索したら「メロンキュウリ」「カロセッロ」ですって)

そのあとに 
「はい、コレもどうぞ~♪」と
Mandorle マンドルレ(アーモンド)や 
Noci ノーチ(くるみ)など
ナッツ類がたくさん入った小鉢が、テーブルに現れる。

これもみんな各々おのおの 手を伸ばして
皮をむいて、ぽりぽり食べる。
その間、おしゃべりの口も止まっていない。

しばらくポリポリしてるうちに
またマンマか、
おばさんか、
時には男性の誰かが立ち上がり、

「カッフェれるよー 飲むひと~?」 
と声がかかる。

オレいらね。 
私もいらない。 
って人もけっこういる。

この時間にカフェインを摂りたくない、と
Caffe d’orzoカフェ ドルツォという、
麦茶ならぬ 
麦珈琲を飲む人もいた。

やがて淹れたての香り高いカッフェが配られ
暖かい飲み物でまったりしていると、
またもおもむろに

「誰か食後酒欲しい?」と
新たな展開。

食後酒のボトルが何種類か運ばれて来て、
ささ、好きなの飲んで♪ と
小さな、ショットグラスくらいの大きさの、
イタリアではよく見る
〈度数の高いお酒用グラス〉も配られる。
(↑ヴェネツィアで見つけるのがオススメ)

食後酒は主に 
甘みとアルコール度数の強い
リキュールが多くて、
イタリアには何種類もあるんだけど

さまざまな修道院の 
中世からの伝統品やら、

その土地々の特産品やら、

北イタリアのGrappaグラッパは有名で
イタリア中で飲まれてて、
これは甘みがなく、ドライな味だからか 
特に男性たちが好んで飲んでた。

私がイタリアで一目惚れ(一口惚れ)したのは
Limoncelloリモンチェッロ という、
カプリ島やソレント半島の大きなレモンを使った
カンパーニア州特産品のリキュールだけど

イタリアには他にも
Passitoパッシート とか、
Moscatoモスカート とか、
甘いんだけど、甘ったるい甘さじゃない、
美味しい甘さのお酒が、たくさんあるんだよね…
(誘惑多すぎ★)


そこまで「食後」がまったりと 
長―く続いているのに、
更にそこで

「ところで誰かジェラートもっといる?」
という声が聞こえた時には、

に、2周目ですかっ?! 
と気が遠くなりかけた……


順番はべつに決まってるわけじゃなくて 
多少前後するけど、
内容としてはこれが「食後」のフルコース。

フィレンツェでも
イタリア家庭のディナーに招かれたことはあるけど、
デザートとカフェだけで
わりとシンプルに終わるのが普通で、
(時々食後酒が加わることもありますが)
こんなに長々とは続かなかった。


恐るべし、南イタリアの食習慣……


そんな食生活で、
私はいっぺんに4キロ(!) 体重が増えました😰
田舎に到着して 
わずか3週間足らずで…


日伊友好のために断るわけにいかない (使命感✨)
と思い、
何でも笑顔で「美味しいです♪」と言いながら
出されるままに食べていたら、

人生で、こんなペースで体重増えたことない……
という体験をしてしまった……


さすがにこれはだめでしょう
と思って
ひとしきり全ての味は一度は戴いたわけだし、と
その後は 
丁重にお断りするようになりました。


4キロ増は落ち込んだ…
ルカは何も気にならないと言っていたけど。


私が気になるんです!


パンダって、大変なんだね!



『南の肥満問題』というのが
イタリア国内で言われているんだけど、
どう考えても原因が見えてるんですが💧


リモンチェッロとヴェネツィアで見つけたグラスたち


上から撮ってみた♪



書いたものに対するみなさまからの評価として、謹んで拝受致します。 わりと真面目に日々の食事とワイン代・・・ 美味しいワイン、どうもありがとうございます♡