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筆者が選ぶマジック:ザ・ギャザリングのフレイバーテキスト集 〜カードゲームの中の、ゲームに影響しない名文たち〜


はじめに、「フレイバーテキスト」とは

 お世話になっております、四葉静流です。

 突然ですが、あなたは「フレイバーテキスト(表記揺れ:フレーバーテキスト)」というものをご存知でしょうか? 私の記事をお読みくださる物好きなあなたはご存知かと思いますが、あえて簡単な説明をしますね。

 フレイバーテキストとは、「トレーディングカードゲームのカード上に記載された、実際のゲームではなんの意味のない、作中の世界観・ストーリーやキャラクターを表現する為の文章」です。

 トランプで例えると、「スペードのキングの絵柄」ですね。トランプを用いるゲームにおいて重要なのは、「スペードのキングを表すスペードのマークとKの文字」であって、その絵柄が何であるのかは意味を持ちません。昔ながらの絵柄のものでもいいですし、キャラクターものでもいいですし、スペードのマークとKが描かれているのなら絵柄がなくてもゲームは成立します。

 しかし、トレーディングカードゲーム(以下、「TCG」)がトランプと特徴的に異なる部分の一つが、「TCGには独自のゲーム性と、それに付随した独自のストーリーやキャラクターが存在する」という事です。それは今回紹介するマジック:ザ・ギャザリングでもそうですし、ポケモンカードゲームも電子ゲームを原作としてそれを持ちますし、あるいは遊戯王やデュエル・マスターズなどでも同様です。

各カードの下部に描かれている文章がフレイバーテキストです。

 ここで一旦、要点をまとめますね。フレイバーテキストとは、「TCGそのものやプレイヤーが行なうゲームに深みを与える、文字通り「フレイバー(風味)を付ける為の文章」です。

 今回の記事では、世界で最初のTCGにして現在でも大手TCGの位置に君臨し続けているマジック:ザ・ギャザリング(以下、「マジック」)のフレイバーテキストの中から、私が特に印象に残っているものをいくつか紹介します。TCGファンの間では、「マジックのフレイバーテキストはユーモアがあったり、心の琴線に触れるものが多い」と定評があります。

 その理由は、マジックが他のTCGと異なる点がいくつかある事によってです。マジックには、TCGそのもの以外で作中世界を描写しているものがあまり存在しないんですよ。新弾が出る度に公式サイトで小説が連載されていますが、TCGの「お決まり」と言っても過言ではないアニメが(現時点)存在してません。(日本語で描かれた)漫画もそれほど多くありません。逆に、ポケモンや遊戯王、デュエル・マスターズを想像してみてください。アニメも漫画も普通にありますよね?

それでも、ファンの間で人気を博している外部作品がいくつか存在します。

 つまり、マジックでは作中世界を表現する手法として、フレイバーテキストを積極的に活用してるという事です。私の拙文が長くなってもフレイバーテキストのフレイバーにはならないので、早速それらを見ていきましょう!


筆者が選ぶ、マジック:ザ・ギャザリングの名フレイバーテキストたち

①《悪斬の天使/Baneslayer Angel》

 弱く罪無き者を守る天使もいる。 あるいは、潜む邪悪を探し滅する天使もいる。

《悪斬の天使/Baneslayer Angel》・日本語版フレイバーテキスト

 フレイバーテキストを堪能する上で、マジックにおける「カラーパイ」という概念を最初に説明します。マジックでは白・青・黒・赤・緑(・無色)のカードあり、それら5色には「ゲーム上における得意な事・苦手な事」や「作中世界における思想の特徴」があります。カラーパイとは、それらの総称です。

 まずは、白のカードである、《悪斬の天使/Baneslayer Angel》を見ていきましょう。カラーパイにおける白は、「平和と秩序」の色です。穏やかな日常を愛し、社会とルールを築きます。時には協力し合って悪しき者へ立ち向かいます。ゆえに、白は5色の中で最も宗教的な色です。その反面、個を軽視する全体主義的かつ、仲間でない者には排他的な面を見せます。

 悪斬の天使は、そんな白の宗教性と排他性を象徴する1枚です。無辜の者を守護する天使なので、癒し(ライフ回復)をもたらし、空を飛びます。そして、「protection from Demons and from Dragons」の能力により、悪の権化たるデーモンやドラゴンは彼女にかすり傷一つ与える事もできず一方的に討ち取られてしまいます。もっとも、白が定義する悪とは全ての色に共通する概念ではなく、あくまで「白がそう決めたもの」です。つまり、このフレイバーテキストは、悪斬の天使の独善性も表現している文章です。

 ちなみに、戦場で「ランプの貴婦人」と呼ばれるほど手厚い看護を傷病者に施し、帰国後は全てを薙ぎ倒す勢いで医療改革を行なったフローレンス・ナイチンゲールは、以下の言葉を残しています。

天使とは美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である。


②《思案/Ponder》

 明日という日は、今日それを迎える準備をしている者のためにある。

 今度は青のカードである、《思案/Ponder》を見ていきましょう。

 カラーパイにおける青は、「論理と技術」の色です。思慮深く、物事の本質を見抜き、それを自らの魔力や道具の機能として転用します。青は魔道士や各分野のエキスパートが多く割り振られる色です。頭が切れる反面、個人主義者が多く他者を見下す傾向があります。また、インテリ気質な者ばかりなので、純粋な体力勝負では他の色に劣ります。

 あらためて、思案を見ていきましょう。知性を重んじる青にとって、「『考えをやめる』という考え」は絶対に持ち合わせません。熟考に熟考を重ね、現状に対する最適解を必ず見つけ出します。このフレイバーテキストは、「思案と名付けられたカード」に相応しい一文でしょう。もっとも、考え深さが裏目に出て、感情のままに殴りかかってくる輩への対処が遅れる場合があるのが青でもあります。

 ところで、あなたは「明日を迎える準備」ができていますか? それに加えて、将来や老後の計画は抜かりないですか? そうでないなら、こんな記事を読んでいる暇はありませんよ?

 ……ごめんなさい……調子に乗りました……。


③《冥府の君主/Infernal Sovereign》

 ドミナリアは彼の手中にあった。ファイレクシア人は、彼の道を塞ぐ直近の愚者に過ぎなかった。

 カラーパイにおいて黒は、「力と利己主義」の色です。自身の目的の為ならばあらゆるものを犠牲にし、それを叶える為の力も欲します。時には腐敗の魔術で死者をゾンビに変え、闇の儀式において他者を生贄に捧げます。しかし、言葉が全く通じない者たちではなく、万物に対して偏見なく(自身が利用可能な)価値を見出し、「敵の敵」と一時的に協力するといった柔軟さを見せます。

 この《冥府の君主/Infernal Sovereign》のフレイバーテキストは、そんな黒の狡猾さを表したものです。ここで語られている「ドミナリア」は、世界の全てを飲み込もうとしている機械兵団「ファイレクシア」の侵略を受けている地の一つです。そのような非常事態ならば、例え地獄の暴君であっても一肌脱ぐというわけです。

 もっとも、黒にとって協力とは、「自分の目的を達成する為の過程の一部」に過ぎません。それが仮に寝食を共にした仲でも、自身の障害となるならば一切の躊躇はしないのが黒です。また、カードを引かせる代わりにライフを失う能力からも分かるように、恩恵を与えるならば対価を要求するのを絶対に忘れません。


④《最後のチャンス/Last Chance》

 援軍なし。逃げ場なし。失うものなし。

  カラーパイにおいて、赤は黒に似ています。破壊をもたらし、自己の欲求に素直です。しかし、赤は本質は「衝動と自由」です。叶えたい願いの為に破壊するのではなく、破壊したいから破壊します。自身の欲望の障害となるからルールを破るのではなく、自由でありたいがゆえにルールを破ります。怒りっぽく、蛮勇で命知らず。しかし、感情に素直であるという事は、愛や仲間の為に動くという事でもあります。

 それを踏まえた上で、《最後のチャンス/Last Chance》を見てみましょう。TCGにおいて、追加ターンは最強の行動の一つです。将棋で例えるならば、一回の手番で駒を二つ動かすようなものです。明らかに強過ぎますよね? しかし、最強の行動であるゆえに、追加ターンには大きなデメリットやリスクが設定されます。最後のチャンスはまさに、赤の向こう見ずなギャンブル性を象徴する1枚でしょう。「オールオアナッシング」、それが赤が自身に課した唯一のルールです。

 また、カラーパイにおいて、「感情や衝動の発露」である芸術もまた、赤が司っています。「なし」で韻を踏んだこのフレイバーテキストは、赤が持ち合わせる芸術性も表現していると言えるでしょう。(原語である英語版でも、各文は頭文字がNで始まっています)


⑤《動じない大ワーム/Impervious Greatwurm》

 陰謀と巧妙さに対する究極解。

 緑はカラーパイにおいて、「自然と本能」を司っています。動植物がありのままに生きる自然を愛し、それを世界のあるべき姿として受け入れています。また、自然との繋がりが強い為、マナ(ゲーム内リソースの一つ。作中設定的には魔術を行使する為の魔力)を生み出す事に長けている色です。その反面、弱肉強食や適者生存といった自然の厳しい掟もまた、緑が敬う対象です。ゆえに、「世界のありのままの姿」に固執しているので、白の「人間社会的なルール」や青の「人為的な魔術やそこから生まれた産物」などを好ましく思っていません。

 この《動じない大ワーム/Impervious Greatwurm》で語られている「陰謀」や「巧妙さ」は、それらを得意とする青や黒の揶揄です。頭ばかり働かせてフィジカルが疎かな青を叩き潰す為の強大なパワーを持ち、他者を平気で排除する黒に対しては「破壊不能」で対策しています。「圧倒的な力を持つ生物による制圧」は、緑が最も得意とする戦法の一つです。

 もっとも、思慮深い青と手段を選ばない黒にそれがいつも通用するとは限りません。青は「そんなデカブツが飛び出してくるのは想定内だ」と、手札の中に打ち消し(相手が使ったカードをなかった事にするカード)を用意しているかもしれません。黒は「じゃあ他の手を使うまでだ」と、追放除去(相手のカードをゲームから除外するカード)を繰り出すかもしれません。「自然に生き、野生の掟を厳守するあまり、オツムがちょっと足りない」のが緑でもあります。


結びに

画像は私のメインデッキ(の一部)。このEDH赤単ラスリスデッキもあとで記事として紹介したい。

 最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。そして、本当にお疲れ様です。

 前述の通り、マジックは最古のTCGであり、30年以上の歴史を有します。ゆえに、これまでに登場したカードは膨大であり、きっとあなたのお気に入りになるものが見つかるはずです。もちろん、それがマジックのカードでなくとも、カードゲーマーの端くれとして私は肯定致します。

 ゲームとしてプレイするだけがTCGの楽しみではありません。カードに付随するストーリーを堪能する、コレクションする、友達と交換する、同好の士と語らう、etc。そういった多様性もまた、TCGの魅力の一つです。それらを行なう上で、是非ともフレイバーテキストにも注目してみてください。

 今後も、四葉静流をどうかご贔屓に。


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