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病歴52:頭上のチンアナゴ

鏡を見る。
これまでで最も重たく膨れ上がった体と顔のぞっとする姿の自分の頭上。
はげた頭の上に3−4本。白髪が1cmを超えている。
つんと立った白髪の先が少しだけ曲がっていて、まるでチンアナゴのように見えた。
頭上に、真っ白なチンアナゴが4匹。

病歴として書くほどのことではないような気もして迷ったが、自分の身体の変化を少し、書き残しておこうと思う。

例によって、抗がん剤投与から一ヶ月は、効果が継続するので身体は不調である。
ところが、更に2−4週間が経過すると、血豆のような黒緑色になった爪の下から健康な色の爪が伸びてきたり、体毛も徐々に生えてくる。
今回も、一応、頭部は全体的に生えてきたようである。頭頂部がなかなか生えてこなくて、心配したが。
家族から、白髪は前より増えていると言われた。それならそれでカラーを楽しめばいいし、グレーにするのもありである。
まだまだ、ほわほわと数ミリだけしか生えていないので、当分はケア帽子が手放せないだろう。

肺炎の治療の主剤はステロイドだ。
退院してすぐの週、自分の駆り立てられるような過活動ぶりに、昨年の5月上旬頃を思い出した。
ステロイドでも、妙に元気になるし。
処方された抗うつ薬も強いものであったし。
ミロガバリンも、似たようなものであるし。
となると、過食の衝動もさることなることながら、イライラが強く、冷静でいることが難しかった。
じっとしていることがつらいような、あれもこれもしなければならないような、しんどさがあった。
些細なことで家族とぶつかり、これはおかしいと自分でも思い、その後の緩和ケア医との診察で、抗うつ薬の処方はやめてもらった。

もちろん、退院してすぐに猫が家出したことも、私のメンタルに大打撃だったこともある。
夜中、ぶくぶくに太ったはげたおばさんが、寝間着のような薄着のサンダル姿で、住宅街をふらふらと歩き回って猫を探す姿は、誰かに見られていたら十分に不審者だったと思う。
不審者を通り越して、ホラーだったかもしれない。
たしか、酸素ボンベを持たずに一周していたから、倒れなくてよかった。
でも、酸素ボンベをむき出しで抱えていたら、それそれでホラーっぷりに磨きがかかっていたな…。
ツルツルの頭部に、よく見たら、チンアナゴのような白髪が光る、その頃のこと。

ここまで、まさか太ることがあるとは思わなかった。
帰宅してからも体重の増加が止まらず、持っている服がひとつも入らないことがつらくても、食べてしまっていた。
食事量も増えたのであるが、やっぱり、夜間の完食が増えたのが、よくなかった。
空腹を感じずとも、詰め込むように食べてしまう。
甘いものよりも、歯ごたえのあるものをバリバリと食べたくなる。
ポテトチップスよりも、おせんべいが止まらなかった。

この年齢になっても、むくみと肥満でぱんぱんに膨れた顔と身体をパートナーに見せることがつらい。
申し訳ないような気までしてくる。
自分が嫌で嫌でたまらなくなる。
抗うつ薬を以前も使っていたマイルドなものに変えたこともあって、今の私はどちらかというと抑うつに傾いている。
自責感がつきまとい、家族に対しては口癖のように、ごめんね、ごめんねと繰り返している。
積極的になにかをするわけではないが、希死念慮もないわけではない。
意欲はそれでも保たれていると思うが、集中力が続かず、思考が瞬間瞬間で寸断されている気がする。
何をしようとしていたかわからなくなり、ものをどこに置いたかがわからなくなり、作業はひどく時間がかかる。
うっかりしていると、そういう時は低酸素になっていたりもする。
いろんな意味で私の認知機能はいつもよりも下がっていると思って、やることを制限する必要がありそうだ。

あれもこれもしておきたい、しなければならないのに、ひとつも片付かなくて、やっぱりイライラしているかも。
たとえば、家にいると本を読むことが難しい。
読みたい本はあるのだが、家族も、家族が好きなテレビもうるさすぎて、私には過ごしづらい。
胃痛がしてきたのは、過食からの逆流性食道炎ではないかと考えてみたが、いささかストレスもあるような気がする。
家族が嫌いなわけではないのだが。
一ヶ月も離れていると、家の生活に戻るのも、なんだかしんどくて困った。

幸い、ステロイドは順調に減量しており、体重の増加も止めることができた。
体重を増やすスピードよりはゆっくりであるが、少しずつでも減らせるように留意したい。

ほんとに、しんどい。

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