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病歴46:薬剤性肺炎1週目

入院して一週間が経った。
今日には退院しているはずだったのに。
そう思うと、少し、気持ちの切り替えが揺らぐ。
我が家の方を眺められる窓を見つけて、ちょっとばかり、ホームシックになっている。

先週月曜日から入院した。
BEP療法の4クール目として、入院の予定だった。
ブレオが使える最後の一回。これで一区切りと思って、入院の準備をした。
直前の一週間の体調はひどいものだった。
仕事の合間合間に咳き込み、夕方、自分の車に乗り込んだところで、10分も15分も咳き込んで止まらなくなるのが毎日だった。
痰は出ないが、つばと鼻水が止まらず、泡を吹き、落ち着こうと飲んだ水も吐き出し、息ができない苦しさをもがくようにして耐えた。
初めて、治療だけではなく、仕事がつらいと思った。辞めたい、休みたいという言葉が、喉元まで来ていた。
家にいる日は、体を起こしては咳込むため、家族から安静にするように言われた。救急車を勧められたりもした。
咳込んでは、血中酸素は89、心拍数は160や170。そんな状態に毎日のようになっていた。

入院一週間前の受診では、レントゲンで右肺が小さいとの指摘を受け、CT検査をした。
検査結果は急ぎのことがあれば連絡すると言われ、そのまま精算して帰宅した。特に連絡がなかったので、急ぐ必要はないぐらいの状態なんだろう、と、高をくくった。
婦人科に入院し、血液検査をし、心電図とレントゲンをしながら、呼吸器科内科にリファーされた。
移動はすべて、車椅子。看護師さんの付き添い。それぐらい、もう、しんどくて歩けない状態だった。

そして、呼吸器内科で「CTの結果を聞いていないの?」と言われたのである。
聞いてないもん!初耳だもん!!
CT検査の結果は、ところどころにすりガラス状の陰影があり、肺炎を示唆するものだったのだ。
3週間分のレントゲンの結果を並べると、だんだん右肺が小さくなっていることがわかる。線維化が始まっており、萎縮している、と。
薬剤性肺炎。
一番、疑わしいのはブレオ。間質性肺炎を起こしやすいから、一生の間に4回しか使えないというブレオ。
次に、カルボプラチンでアナフィラキシーを起こしたことがあるので、同じプラチナ製剤のシスプラチンでアレルギーを起こしている可能性もあるとのこと。
抗がん剤治療がいろいろとやりにくなったのではないか。婦人科主治医の考え込む顔が頭に浮かんだ。せっかくここまで我慢してきたのに。
いずれにせよ、肺炎を治して、体力を回復させないと、抗がん剤治療はできないため、まず、肺炎を治しましょう、ということになった。

そこから、入院主治医が婦人科から呼吸器科内科に変わるので、私の入院する病棟もどうするのか、すったもんだ。
患者である私は言われる通りにするしかないのだから、あーだこーだ言われましても。
呼吸器内科は満床だったらしく、そのまま慣れた婦人科のベッドに入院になった。かつて知ったる場所でよいのは、新規場面に不安が高い私にはとてもラッキー。見知った看護師さん達がいるほうが嬉しい。

しかし、今後の予定の見通しがまったく立たなくなり、仕事がー職場がーと頭を抱えてしまった。
しょうがないのだけど、治療はやってみないと効果がわからないし、効果が出ないと退院できない。
とりあえず、経過を見ながらリスケを図ろうと自分に言い聞かせた。

入院初日の午後からステロイドの点滴が始まった。たった1時間程度の点滴は、8時間も10時間もかかる抗がん剤の治療に比べれば、気が楽なものだ。
動くと咳込むのは変わらず、発作様の咳を起こしてからは、酸素吸入も始まった。
息ができるって楽。それから咳は格段に減った。
ただし、トイレに立つときははずすので、そうすると、咳込む。
ベッドに戻ったら、いそいそと自分でつける。
さっさと自分でつけるようになったので、看護師さんに驚かれたが、快が伴うと学習は促進されるし、行動を強化させるよね。
昔、酸素マスクを使った時、マスクの縁取りのパッキン部分が臭くて臭くて、それが嫌だった記憶が強かったのだけれど、この鼻につけるだけのチューブなら楽勝。
喉周り、顔周りに何かが触れることが苦手な感覚過敏よりも、呼吸が楽であることのほうが上回った。

更に、ひどい咳込みに対して、モルヒネを含有する内服液を用いることになった。
酸素吸入を外して動いたり、人と話したり、あるいは、入浴の後などに、咳がたまらなくなりやすい。
また、横になったときのほうが息苦しくなりやすい。体を起こしているほうが重力で肺が広がりやすく、肺を使いやすいのだそうだ。横になる時は、上半身をやや立てるようにベッドを調整することを勧められた。
モルヒネは、急速に息苦しさをやわらげ、気分の面も落ち着かせてくれるように働いてくれる。
妙に甘いような苦いような化学物質らしい味には、なかなか慣れなかったが、今のところ、1日1−3回はお世話になっている。

3日間点滴をして、レントゲンで経過の確認をした。
多少は効果は出ているが、はかばかしくないという。
それを聞いて、少しあきらめがついた。
目安として、最低2週間は入院が必要。そのつもりで動くほうがいい。焦っても仕方がない。
ウィルス性の肺炎であったら、そのウィルスを叩けばよいのだが、間質性肺炎となればそうはいかない。症状がおさまらないことにはどうにもならない。
上司に状況を伝えたところ、とにかく治療に専念するようにと心温まる言葉と共に返事が来た。泣きそうになった。
部下たちに指示を出し、顧客に連絡を取り、家族にも伝えるなかで、自分自身の気持ちの整理をした。

BEP療法が始まってから、あまりのしんどさに夏を乗り切れるのかと不安になったことがある。
冗談まじりに、夏があんまりつらかったら、主治医に相談して避暑がてら、入院させてもらうのよいかもしれないと家族と話した。
意図したわけではないのであるが、結果としてそうなっている。
たぶん、これで結果オーライなんだろうだけど。
早く治って欲しいものである。

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