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書籍『コードネーム・ヴェリティ』

エリザベス・ウェイン 吉澤康子(訳) 2017 創元推理文庫

たまらなく素晴らしい読書だった。
読んでいる間、祈り続け、戦い続け、今もまだ世界のあちこちでこのような戦いに切り刻まれていくたくさんの心と命を思った。
第二次世界大戦中を舞台にした小説であるが、決して過去のものではないことが苦しくてたまらない。

ユダヤ系イギリス人のマディ。バイク屋で育ち、バイクをメンテナンスしたり、運転したり。そこから、女性飛行士となり、民間人として作戦に関わるようになっていく。
そのマディの親友である特殊作戦執行部員の女性がナチスの捕虜になり、イギリスの情報を手記にする。それは、マディを主人公とする、彼女たちの美しく楽しい、友情の日々。

たくさんの飛行機が出てくる。メッサーシュミットぐらいはさすがに知っているけれど、私が思い描く飛行機といえば、『紅の豚』とか『風立ちぬ』とか宮崎駿氏が描くイメージで、時代がぴったりとはいかない。
それだけではない。私がまだ子どもだった頃、アメリカのワシントンDC、スミソニアンの航空博物館でアメリア・イアハートの展示を見たような記憶がある。輝かしい女性飛行士の一人。
イギリスには2回、行ったことはあるとはいえ、上空からそんなに眺めたわけではないし、もう遠い遠い記憶だ。それでも、物語に散りばめられた『ピーターパン』や『ツバメ号とアマゾン号』といった書名に胸を躍らせる。
そして、ストーンヘンジの近くのローマ時代の遺跡を見ていたときだったか、上空を空気を切り裂くような音を立てて駆け抜けていった戦闘機。
私の記憶の断片をたぐりよせながら、2人の少女たちの生活を思い描いていく。

20歳そこそこの少女たちなのだ。
賢くて美しい。大胆だが、臆病だ。一生懸命に生きようと、生きるために戦う。
彼女たちは泣くもする。泣かないではやっていられないだろう。それぐらい、ひどい目に次々にあわされる。意味がわからないようなおばかな子たちではない。
戦い続けた少女たちを応援したくて、自分の方は泣いてなどいられなかった。

まるで二人で一組のようにぴったりの親友。
敵の中にも好きと思えたり、なんとなく信頼できるような人もいる。
味方のはずの中にも大嫌いになる相手もいる。
主人公たちの柔らかなで傷つきやすいけれども負けない魂は、精一杯、生き延びようとする。
お互いに行方がわからず、連絡が取り合えなくても、それでも、丁々発止でわかりあえる、とても素敵な親友たち。

この奇跡のような物語は、今だったら、『SPY FAMILY』なんかからスパイものにはまる思春期の方におすすめできるかもしれない。
高校生か大学生なら十分に、同世代の少女たちの活躍に手に汗を握るのではないか。
私は、それ以上の世代の大人の女性たちにこそ、一番におすすめしたい。
こんなに、こんなに頑張った少女を抱きしめる思いで読みたくなるから。

この本は、第三版で購入している。手に取るまで時間がかかったが、今、読んでよかった。
あらゆる侵略を許してはいけない。侵略に屈することの意味を、当時のナチスに支配されたフランスの状況が教えてくれている。
今、世界で起きていることを改めて見直すために、この本を読めてよかった。
自由を諦めてはいけない。

わたしは自分が何を“したい”のか、わかっていなかったと思う。だから、選ばれたのだ。選ぶのではなく、選ばれることには、名誉や栄光がある。でも、自由な意志が入り込む余地はあまりない。

p.201

子どもの自由を奪う、ずるい大人が少ないことを祈りたい。そんなに大人にならないように自戒したい。
そして、窓を開けたままにしなければならない母親が、これ以上、増えませんように。



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