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経営者が指示命令や評価という特権を手放した会社では一体何が生まれるのか

自分が代表取締役を務める側島製罐では2020年の事業承継開始以来、組織のあり方が大きく変わってきました。古色蒼然とした老舗中小企業をみんなで立て直しをした結果、2021年に経営理念(MVV=Mission,Vision,Values)を策定、2023年に自己申告型報酬制度を導入、「社長」という役職も会社から無くすことになり、現在では従前のようなトップダウン経営から転換して、自律分散型組織のような状態になっています。

この過程で、指示命令・マネジメント・評価・給与決定など、自分が経営者として通常有している特権を全て手放すこととなり、その代わりに会社のみんなの仕事の自由度や裁量が大きくなりました。どんな活動をしているのか聞いていただけることも多いので、せっかくなので整理して書き出してみようと思います。

元々は、各自が持ち場に入って担当の作業をする以外の仕事がなかった弊社ですが、今では会社の中で自律的な色んな取り組みが生まれて10個以上のプロジェクトやサークルが運営されています。今回はその中でも、自分が関与しておらず、みんなだけで運営しているものを中心に書き出してみます。ティール組織のような会社では自律的なサークルが生まれるというのが通説的ではありますが、その一事例としてご覧いただけたら幸いです。なお、各サークルの立ち上げ規制などはなく、手を挙げた人を中心に自由に活動していて、出入りも自由な感じで、各活動の名前やロゴも、みんなが自分達で考えて決めています。


Motto(MVV運営プロジェクト)

MVVを進化させるための福利厚生制度を作るプロジェクトです。
名前は、側島製罐の自社製品”Sotto”を文字って、「もっと○○」「もっと□□」と言うように、自分たちの手でもっと仕事のやりがいや楽しさを作っていこう!という意味が込められています。当初は「MVVを進化させる」というスローガンだった気がしますが、もう少し幅が狭くなって、現在は福利厚生的なことを中心に考えて運用されています。「MVVや自分たちの信念に沿っていれば何をしても良い」という側島製罐のコミュニティ的な組織でのフラッグシップのサークルです。

缶察日誌

Mottoの中で生まれた制度で、弊社製品を使っていただいてる商品に限り、月に一品その全額を購入補助する制度です。もちろん正社員もパートも関係なく全員が対象、実際に缶製品の購入体験をして社内でレポートをシェアすればOK。お客さまの売上にも貢献して自分達の勉強にもなり普段手が出にくいちょっと高めのお菓子缶を楽しめるというという仕組み。製造業の現場では、缶の部品だけをつくっていたり、はたまた梱包済みのものしか取り扱わず中身すら見ることのない人もいて、自分たちがどんな製品を作ってて、お客様のところでどのようにお使いいただいているかという点が見えない人もたくさんいます。「高めあうために分かち合おう」というバリューに沿って、こうしてシェアしていろんな実例を見ることができるのは自分たちのやりがいが見える化されて素晴らしいと思っています。12月はクリスマスだから他社製造の缶が使われてるものでもOK、みたいなゆるい感じでやっています。缶の消費量に貢献するのも、他社製品を勉強するのも、趣旨に沿ってるので問題なし!という整理ですね、多分。僕も良く使わせてもらっていて、クッキーやお煎餅をたくさん食べてます。

物流フライデー

自社便で缶を配送する物流管理課の取り組み。お客様のところに缶製品を納品したときに、先方で見聞きした情報を毎週金曜日に社内にニュース的に還元するというもの。配送のお仕事は製造の最終工程で、業務の自由度や幅が狭くてなかなか新しい取り組みをするのが難しいところ、お客様のところに日々タッチポイントがあることに注目して、自分たちが見聞きしたフレッシュな情報を社内に還元してくれる取り組みです。製造現場や内勤のメンバーにとっては、お客様のお店の写真を見たり、どんな方がやってらっしゃるかという話を聞くことはないので、みんなの解像度が上がってとても良いと思います。名前も週刊誌とかけてて洒落てますね。


工場みらい会議

工場のリーダーたちが集まって、工場の中での課題や問題を話し合って、何をやるかを考えてくれています。5Sや安全のような話だけではなく、現場メンバーの採用、品質管理、朝礼のやり方の改善、設備導入、業務フローの見直しなど、工場全体の運営にかかることをみんなで毎週議論して、自律的に環境整備をしています。最近は工場内の休憩所とかも自分たちでリノベして自由に作ってたりしてて、工場見にいくたびに色々変わっていて面白いです。

シンデレラデー

会社の事務所をリノベしたのを機に始まったお掃除プロジェクトです。元々、事務所は輪番で掃除をすることになってましたが、出張で該当者が不在の時はおざなりになったり、負担が偏ったりという事があり。事務所改装のタイミングで、新しく仕組みを作って綺麗にしようということで、新しく会社に入ってくれた経理総務ポジションの人たちが始めてくれました。「シンデレラのように楽しい気持ちで掃除できるといいなと思い考えました」ということで、シンデレラデーという名前らしいです。自分たちの描いたイラスト入れたくじ引き式。

ピカピカチャレンジ

いわゆる5S的な活動です。「宝物を託される人になろう」というビジョンができたときに「お客様に工場を見て、そばじまに任せたいと言ってもらえるようになろう!」といって始まった取り組みです。火の玉ストレートなネーミングで捻りはないですが、リーダーが猛烈に熱く語っていて、今ではすっかり「ピカチャレ」という名前で社内で浸透してます。側島製罐では過去に何度も5S活動をしてきたようでしたが、いずれも瞬間的に片づけるだけでその後活動は続かず知らない間に立ち消え、と言うのが通例でした。ピカチャレと呼ばれるこの活動はかれこれもう2年くらい続いてます。これからもずっと続くんだろうなあと思っています。

その他


あんぜんプロジェクト(仮称)
そばじま新聞
事務所改装プロジェクト
投資決定委員会
そばじまDX
チームコーヒー
などなど

まとめ

まだまだ自律分散型組織的に走り始めたばかりなので数も少ないし進捗も駆け出しですが、元々何もこういったプロジェクトやサークルがなく、日々目の前のことを黙々と作業することだけが仕事だった老舗の中小企業でも、これだけ新しいことに各自が挑戦して楽しめているという事は、本当に嬉しいしありがたいことだなと思います。経営者としての特権のようなものを手放して、みんなに自由と責任を分散して、みんなで経営する会社を目指す、というのは言うは易し、みんなの良心を信じて託しきるのも簡単では有りません。全てがうまくいってるわけではなく、もちろん課題もまだまだ山積してますが、いまのところ各自が責任を全うして、人も組織も日々変わり続けることができていると思います。会議も朝礼もゼロだった会社が、直接的に利益を生まないような活動にこれだけ時間も労力も割いているところ、結果としてみんなも生き生き働ける環境ができて、売上や利益は増えているので、やっぱり経営は四則演算では説明ができないものだなと思っています。何が正解かわかりませんし、今こうしてやっていることは100個有り得るシナリオを1つ抽出して正当化しているだけなのかもしれませんが、良い人生から良い仕事が生まれている様は、経営者という役割を担う立場の人間としてはとても誇らしく思うところです。

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