見出し画像

【俳句】鳥たち帰る

鳥帰る
雁帰る
鶴帰る

秋に南下した渡り鳥が
春になって北へ帰るという言葉。

陸地から飛び立つ群れを
じっさいに目にしなければ、
帰ったことに気づけません。
いつもの水辺にいつもの鳥が
いなくなったことを知った時にはもう
旅立つ姿は、頭上の空にないのです。

人生100年時代と言われ、
どれくらいたったでしょう。
でも、実は。
したいことなんて、それほどないのです。
ごはんを炊いて
お風呂をつくって
すこし、笑って
うんと怒って(あらあら)
ストレッチもしておきますか。

マルグリット・デュラスが
彼女の著書で言いました。
永遠とは、終わりが来ないことではない。
ある人の一生のなかで、ずっと消えることなく残る
記憶、体験、現象なのだと。
そんな日々にいろどられた人生なら。
三十年しか生きられなかった
中世の人々は、それでも
ぞんぶんに生きたと言えるでしょう。

ただただ、永く生きられる予感が
体内に放たれて、それならば。
晩年とは、いつから。
折り返し地点とは、どのあたり。
日々は羽毛ほどのかるさです。
別れだとか
再会
それに、ふたたびの別れ。
あざやかなはずの出来事まで
消し飛ばされなければよいのですが。


     引鶴や髪のけはひの残る指    梨鱗




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?