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さよなら冬 2024

どこまでもつづく雪野原に立つと
頭の中ではグネグネと言葉をいじり始めます。
あ、詩っぽいの出てきそう?
なにもない景色に、ヒトの頭は耐えられないようです。

「どうしてそこに書かれた物を、信じられるんだい?
聖典も。哲学も。恋文だって。
所詮は、空白に耐えられないヤツらの言い訳なんだぜ」

そんなこと、分かっていますけど。
利巧なふりで〝いっさいが虚しい〟の主張に
なびいてみます。

かじかむまで雪野に立っていた昔。
なにか生まれる予感は空振りです。
なにかを生みだそうとするなら
まずは信じてみることで
分かったふりの先回りは禁物ですよ。
詩に敗北か。
詩の敗北か。
なんてね。

最近知り合いになった人がいます。
前髪をいつも眉までたらして
おもしろい人です。
その髪の下はどんなふうなのか。

「あなたのおでこ、見せてくれません?」

……そんなことは訊けないのです。

もうずいぶん雪の野原に行っていないのですが
その前髪は、雪のふんわり積もった野原でしょうか。
やっぱり何もないことに耐えられません。
かわりにぼくのおでこを見せました。

「こんなに広いんだけど、どう思います?」

……そんなことより、文字の一つでも
信じてみたらいいのに。
今年の冬はこんな感じでした。


    今年また冬薔薇とどく日をむかへ     梨鱗

    はしやぐ声なかに泣く声冬木の芽

    雪が降るガラスを踏んだ音連れて

    おもいきり犬の引く方春隣



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