高齢女性の貧困について。

 以前から高齢単身女性の貧困問題は注目を集めている。2024年1月末に貧困問題を研究する阿部・東京都立大教授は、厚生労働省の21年の国民生活基礎調査の個票をもとに独自に集計し、発表した。
 65歳以上の高齢女性のうち、一人暮らしをしている人の約4割が相対的貧困に陥っている。これに対して、同じ高齢層で単身の男性は30.0%を示し、女性と男性との間に14.1ポイントの大きな差があった。
 相対的貧困とは、その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態を指し、世帯の所得が、その国の手取り収入額の中央値の半分に満たない状態である。経済協力開発機構(OECD)や国連の持続可能な開発目標(SDGs)が採用する国際的な指標で、貧困線(21年は127万円)に満たない人の割合を示す。21年度のわが国の貧困率は15.4%で、子どもは11.5%であった。
 国立社会保障・人口問題研究所の報告によると、高齢者全体の相対的貧困率は男性15.1%、女性22.1%で、高齢単身世帯の相対的貧困率は高齢者全体の2倍ほど高い。
75歳以上では、単身の人が43.2%で、そのうち死別で一人になった人は6割以上に上り、女性では7割近くとなる。一人暮らしの高齢者の経済状態を見ると、約8割が年金を主な収入としており、全体の7割以上の人は収入のある仕事を持たない。
 高齢女性の婚姻状況別の貧困率をみると、既婚の13.5%に対し、未婚は43.1%、離別は43.6%、死別は32.0%を示した。「結婚」という状態でないと、貧困リスクが高まり、死別には遺族年金による一定の下支えがある。
 また高齢単身女性は厚生年金や共済年金を受給できず、多くが基礎年金だけで生活している。高齢単身世帯の約40%は生活保護基準以下の収入で暮らしており、貧困の深刻さが浮き彫りとなっている。
 他の先進国でも高齢単身女性の貧困問題は社会的課題で、例えば、米国では社会保障制度の違いや医療費の高騰が高齢者の貧困を深刻化させている。欧州諸国でも、女性の年金受給額が男性に比べて低い傾向にあり、このことが高齢女性の経済的不安定さに結びついている。
 OECDの報告によると、多くの国で高齢者の貧困率は上昇傾向にあり、単身で生活する女性はリスクが高い。他国でも非正規雇用や低賃金、育児や介護での長期離職などが原因で、高齢期に十分な年金を受け取れない女性が多い。

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