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55年前、確かに未来はあった…ウルトラセブンが残した、未来への宿題とは?

「55年前、未来があった」
昨年、放送55周年を迎えた「ウルトラセブン」。
未だ根強い人気を誇り、当時観ていた世代からその後の再放送やDVDで観た世代など時代を超えて新たなファンを獲得しながら語り継がれる、日本のSF史に残る名作中の名作です。
なぜセブンは戦うのか? なぜ宇宙人は地球を狙うのか? その時人類はどうするのか?
毎回子供番組とは思えない程に重厚なストーリーで構成され、今の若者が観ても十分に楽しめる作品となっています。
その中で私が「ヤバっ!」と制作陣に恐怖さえ感じるのは当時はまだ未発達であったSF要素や設定です。
勧善懲悪という訳では無いヒーローの葛藤、敵の背景描写、ウルトラ警備隊が使うアイテムなど、55年後の未来では当たり前となっている事を先取りしている所が本当に激ヤバなのです。
今回はそのお中でもテーマ性の強い1本を紹介します。

第26話「超兵器R1号」

ヒーローと言えば地球や人類を苦しめる悪者をやっつける、勧善懲悪を想像する方も多いはず。
しかし、セブンは少し違います。
全51話あるなかでもそれが顕著に描かれているのは第26話「超兵器R1号」と第42話「ノンマルトの使者」ではないでしょうか。
両作とも知る人ぞ知る名作ですが、どちらも「ヒーローの葛藤と矛盾」をうまく突いた特撮史上に残る傑作です。
特に「超兵器R1号」については今現在、現実で起きている国防や安全保障に関する様々な議論にも通じる、深い物語となっています。
物語の核となるのは度重なる異星人の侵略から地球を守る為に超兵器を必要とする人類と、それに懐疑的なセブンの葛藤。
地球が超兵器を持てば、侵略者は更に強力な兵器を作って攻めてくる。
そしたら我々ももっと強力な兵器を作ればいい……。
ダンはそれを「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」と言いました。

ヒーローの葛藤を矛盾

ストーリーをざっと紹介すると、度重なる異星人からの侵略に備え、人類は惑星を1つ破壊出来る程の威力を持つ超兵器「R1号」を開発します。
そして完成した兵器の実験場として生物のいないとされる惑星「ギエロン星」が選ばれ、実施されます。
実験は成功したものの実はギエロン星には生物がおり、その1匹がR1号の放射能の影響で突然変異、「ギエロン星獣」となって地球に飛来する……。
ダンは実験を止められなかった後悔を胸にウルトラセブンに変身、ギエロン星獣を倒します……。
最近知ったのですがセブンはこの1件について、今も後悔の念を持ち続けており、例えば怪獣兵器として利用する為に誰かがギエロン星獣を復活させた際は他のウルトラマンに任せず、必ず自分で対処しているそうです。
それが実験を止められずギエロン星を破壊させ、そこで平和に暮らしていた生物をギエロン星獣という怪獣に変え、更には過ちを冒した人類に味方して命を奪ってしまった。
その十字架を一生背負う、セブンなりの償いなのかもしれません。

YouTubeに予告があるのでそちらも観てもらえたら作品の雰囲気も伝わると思うので是非。

制作の背景

2021年に刊行された「ダンとアンヌとウルトラセブン 森次晃嗣とひし美ゆり子 2人が語る見どころガイド」では主演の森次晃嗣さんが「世界の核軍拡競争を真っ向から批判した名作」と言っています。
先の大戦で広島・長崎の原爆投下から20年程しか経っていない当時は制作陣に戦争を経験した方も多くいたはず。
葛藤するダンや超兵器の開発を支持するフルハシ隊員の表情からリアルな感情を見る事が出来ます。
それらは今とは違う、戦後という過酷な時代を生きた彼らだから出来る演技なのかもしれません。
こういった事は昭和特撮ではある事で、例えば第1作目の「ゴジラ」ではゴジラの襲撃で焼け野原となった東京の街、患者で溢れた野戦病院など人々の絶望がリアルに描かれています。
そこには監督・本多猪四郎の戦争体験が色濃く反映されていると言います。
戦争経験者が描く特撮作品は、今のクリエイターでは出せないリアリティーがあり、その恐ろしさを肌で感じる事が出来るのも特徴ではないでしょうか。

まとめ

今回改めて「超兵器R1号」を観ましたが、そこで思ったのは今の若者達がこの作品を観たら何を感じるのか?という事です。
冒頭にも書きましたが、世界の何処かでは今も戦争や紛争が起きていて、日本も国防や安全保障に関する様々な議論が行われています。
考え方は人それぞれだと思いますが、それを考え、出た答えを未来に繋いでいく。
それが56年前、未来を生きる我々にウルトラセブンが出した「宿題」なのかもしれません。

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