木守りの神

朝、猫の(うた)と一緒に家中の窓を開ける。外を知らないうたが飽きることなく外を眺める姿が好きで。存分に眺めるんだよ、と思う。

前の猫の(きら)が外で食べた異物でひどく体を壊し、7年で別れた辛さと、里親さんからの約束で(うた)は外を知らない。

柿が色づく頃になると、小さなキッチンの窓から見える柿畑が本当に美しい。素朴で飾り気のない柿が、紅葉した大きな葉っぱにちっとも負けない元気さで、たわわに実っている。

うたの一番好きな窓もこの窓なので、小寒い朝もこの窓は閉めない。

小さなスフィンクスのような後ろ姿でいつまでも柿畑を見ている。

鳥が高く鳴き交わす。空にアーチをかけるように。届くんだと思う。ひとつとひとつのたましいが呼び合って。それをうたは窓際で、私はキッチンの椅子に座って珈琲を飲みながら、見ている。聴いている。

柿の収穫が始まる。そしてもうすぐ落葉。

毎年、そんな中で真ん中あたりの一本の木だけが、熟した色鮮やかな柿をみっしりと実らせたまま柿畑に残っている。

これは「木守りの柿」。

来年もたくさんなって、の思いを込めて、そう呼ぶのだという。冬に向かう鳥たちは完熟した甘い柿をついばみ、休み、そして鳴き交わす。

そこには移ろう季節の中でも守り守られた大きな約束がある気がしてならない。

「木守りの柿」は全部葉を落とし初冬が来ても、ただ温かく立っている。ただそこにあり、変わらず来るものすべてを受け入れている

「木守りの神」として。

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