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千葉県立中央博物館「よみがえるチバニアン期の古生物」展でした

7月17日に。博物ふぇすなどもあってずいぶん遅れてしまいました。

「チバニアン」は「千葉にある地層の名前」だと勘違いされがちなのですが、千葉で発見されたのはあくまで「その時代区分の基準にするのにふさわしい地層」であり、「チバニアン」は77万4千年前から12万9千年前という時代の名前です。全世界的にこの時代をチバニアンと呼ぶことになったからこそビッグニュースになったのです。
チバニアンは地質年代の中でも細かい区分です。例えばティラノサウルスが生きていた年代は「顕生代」の中の「中生代」の中の「白亜紀」の中の「後期」……のさらに中の、「マーストリヒチアン」の後のほうです。
マーストリヒチアンは白亜紀の最末期の600万年間を指します。長い江戸時代をさらに年号で慶応や文久などに分けるように、「白亜紀」や「ジュラ紀」などの「紀」や「世」をさらに細かい「期」に分けるのです。
チバニアンも「第四紀」の中の「更新世」をさらに細かく分ける「期」のひとつで、この区分の基準となる地層が決まるまで名前が付いていなかったのを、千葉の地層を基準と決めると同時に名前もチバニアンと決まりました。

77万年前ということで、これだけ最近(最近です。恐竜が絶滅したのは6600万年前ですから)になると生き物は今と同じかちょっと違うといったところですが、人間の影響がまだなく、むしろ海岸線が今と違うことの影響が大きいのです。
今回の展示も千葉県立中央博物館らしく、またチバニアンなだけに千葉県内の化石中心なのですが、その分、今の日本の関東地方と大きく異なる豊かな動物相に大いに驚かされ、人間が現れる前の関東が間違いなく野生の王国であったことを実感する内容でした。

千葉県立の特別展ではいつも大きな看板が出ます。

ホールからすでに特別展が始まるのもいつもどおりです。ナウマンゾウ。
チバニアンとはゾウ科のゾウが大繁栄する時代でもあるのです。これは日本橋の浜町から発見された標本を元にした復元骨格です。

「さわってみよう!」というコーナーに3Dプリントされたナウマンゾウの骨格模型がありました。なんと太っ腹な。

大きなトウキョウホタテ。貝にも今と同じものと少し違うものがいたのです。

メルクサイというサイの幼体の復元模型と復元骨格です。ゾウだけでなくサイも日本にいたんですね。
……しかしこれ、「ニッポンサイ」として知られていたものと同じ種です。分類が再検討されてユーラシアに生息していたメルクサイと同種となったようです。3月の岐阜県博物館の展示を見返したら名前はニッポンサイでも学名は修正されていました。気が付かなかった!

特別展示室へ。まずは千葉県内のチバニアン期を代表する地層の剥ぎ取り標本が並んでいます。海の中の地形や潮流の違いによって異なる様々な堆積物が見られます。

植物の種類や姿自体は現代的ですが、そのときどきの気候によって異なった植物がみられ、今と種類が近いだけに気候を読み取ることができます。チバニアンのような新しい年代を考える上では重要です。

会場には代表的な大型動物の実物大の垂れ幕も掲示されています。

ヤベオオツノジカの断片から角と頭骨を復元したもの。ウマほどの大きさがある頭骨に大きな角が生えています。

ニホンムカシジカ。オオツノジカではなくニホンジカと同属のシカも複数種いました。

そのうちのひとつ、より古い時代のカズサジカです。ニホンジカもすでにいて、一時期はニホンムカシジカと共存していたようです。(ふじのくに地球環境史ミュージアムのシカ展を見ればよかったな……)

これは市原市で発掘されたアジアスイギュウ属の角の基部です。ゾウにサイ、シカ数種にアジアスイギュウまでいたとは、島国なのになんと豊かな世界だったのでしょう。

再びナウマンゾウが現れました。今度は千葉県内、印旛沼の標本を元にした骨格です。
しかも展示には他のゾウの姿もあります。

チバニアンの前から、それより前のアケボノゾウと入れ替わるように現れたマンモス属のゾウ、ムカシマンモスの臼歯です。
マンモスらしく細かく平行な凹凸が並んでいますが、これはイネ科の草を食べるのに適した特徴だったと思います。そんなに広い草原が当時あったのでしょうか。
骨はほとんど見つかっていないようです。

ムカシマンモスの次に現れたステゴドン科ステゴドン属のトウヨウゾウの臼歯です。
ステゴドン(屋根の歯)の名前どおり居並ぶ屋根のような形をしていますが、これはマンモスと違って木の枝葉を食べるのに適した形です。ステゴドン属のアケボノゾウとトウヨウゾウの間にマンモス属のムカシマンモスがいたのは不思議ですね。

チバニアンの後半からそれ以降に現れたナウマンゾウの下顎です。浜松で発見されたホロタイプ(種の基準となる標本)の一部です!
今のアジアゾウと似た、ほどほどに細かい凹凸のある臼歯をしています。アジアゾウと同じくイネ科も他の植物も色々と食べていたのだと思います。

こちらもナウマンゾウのホロタイプの一部、ナウマンゾウの牙です。断片的な状態だったものが補修されてこの形になっていて、CTスキャンにより拙攻で補った部分や向きが違っているのでねじれが再現されなかった部分が分かったとのことです。

ここからはチバニアンの海の姿です。陸では環境のヒントとして植物の化石がありましたが、海の地層からはサンゴやカニ、フジツボなど、小さな動物の化石が多数発見されています。

海では単細胞生物の殻のごく小さな化石も時代の基準として重要です。

しかし先のトウキョウホタテのような貝の化石が海の環境の指標として大活躍します。植物と同じく今の種類と同じかよく似ているものが揃っているので、ホタテなら砂地といったように、その地層で見付かった貝の生息環境を考えればその地層の環境が分かるのです。

トウキョウホタテの成長過程がずらり!三葉虫や今の貝ではたまに見かける展示手法ですが、化石の貝では珍しいです。

海鳥の化石は色々見付かっているようですが、驚きなのはこのマンカラです。マンカラはペンギンに似たウミスズメ科(オロロン鳥と呼ばれるウミガラスやエトピリカ、パフィンの仲間)の一員ですが、他のウミスズメ科がペンギンに似ているとはいっても飛べるのに対してマンカラは飛ぶ能力を捨て翼の力で泳いでいました。人類時代に絶滅したオオウミガラスと同じく本当にペンギンそっくりになっていたのです。

ハンドウイルカ属やセミクジラ科など今の鯨類とほぼ同じものが表れています。そういえばアキシマクジラはチバニアンよりだいぶ前の時代のものですが、今のコククジラにそっくりでした。

オデュッセウストドをはじめ鰭脚類も様々なものが発見されていますが、

オオキトドの垂れ幕が圧巻でした。大きいからオオキなのかとつい思ってしまいたくなりますがもちろん発見者の名字(大木淳一博士)です。

下顎の断片しか発見されていないのですが、推定される体長は5mを超えるようです。

第一特別展示室の最後はステラーカイギュウ。実は東日本各地で発掘されています。

第二特別展示室はチバニアンより後の千葉についてです。やはり貝が中心。

トウキョウホタテは1万数千年前、その亜種のホクリクホタテは2万5千年前まで生き残りました。このホクリクホタテはその一番新しい時期のものです。

数千年前の内湾のタイラギ。今や貴重な存在です。

特別展も常設展も千葉にこだわっているだけに、今回の特別展を見ると常設展に対する理解も進みます。

特別展では綺麗なトウキョウホタテが多かったですが、常設展では他の生き物との関わりが見えてきます。

ゾウもサイもいない今国内で最大の草食動物ニホンジカ、角の枝が均等に並んでいます。

おっと、海岸線の変化ではなく人為で拡散してしまったシカ類が。

これらのクジラも千葉県沖で記録されたものです。

マッコウクジラの新生児が登場。

幻のクジラと呼ばれたツノシマクジラも千葉県で確認されています。

去年小動物展示室で生まれたアオダイショウ。今の千葉や関東にも尊重すべき豊かさがありますね。

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