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千葉その2 勝浦海中公園と海の博物館ですよ

前回市川市の2ヶ所を見た日のうちに勝浦まで移動し、順に9月19日と20日に。
チーバくんの首筋である九十九里浜を通り過ぎておしりの岩礁までやってきた形です。ここから南は房総半島の中でも200万年ほど前にも海に沈んでいなかった地域です。
ちょうどお祭りの終わり際の日だったようで自分以外の観光客の姿も若干ありましたが、一応平日で過ごしやすく静かな町でした。このあたりは滅多に猛暑日にならないそうで割と涼しかったです。

勝浦海中公園は海中展望塔を中心とする施設です。
海中展望塔といったら海に塔を建てて基部近くに窓を設けることで海中の様子が見られるというものですね。
私は他にはまだ串本海中公園しか見たことがなくて、そちらは和歌山の南端なので完全に黒潮に浸されているのですが、勝浦のほうは黒潮と親潮両方の影響がある地点で野生の魚が見られます。
まだ暑い季節ということで透明度は低いもののそれは海の中が賑やかということでもあり、肉眼でなんとか見られるプランクトンから大きなウツボまで、また窓際に群がる生き物から海藻が繁茂している様子まで、期待した以上に様々な生き物を見ることができました。
また展望塔に辿り着くまでの桟橋のような道では磯の岩の間を潜り抜けるのですが、かつて深海で堆積した岩石の様子やそこに生える植物、以前行われていた特殊な漁業の痕跡と、海中展望塔に着くまでの道のりにもたくさんの見どころがあるのでした。また、岩石の姿を見た上で海中を眺めると、生き物がいないところでも上の岩とつながっていることが理解でき、海中の景色自体が一味違って見えます。
内装はいかにもレトロな観光地という要素が強めで、今回そういう趣味も出てしまっています。

海の博物館は千葉県立中央博物館の分館です。以前は他にも千葉県内の各地に分館があったようです。
飛ばしてしまった九十九里浜、勝浦に代表される外房の岩礁、この後の目的地である深い海底渓谷に面した館山などの内房、そして東京湾と千葉の多様な海、そして勝浦の自然について温かみのある内装の館内で細かく、また平易に解説しています。
海中公園で見かけた不思議なものをしっかり解説しているので、海中公園を見るならこちらも外せない内容です。(19日にはこちらは休館で、余裕のある日程だったのでこちらも20日に見ることができたんですが、19日にも海中公園の来園者はそれなりにいたんですよね……あの人達は前日か翌日に博物館を見たかな……。)

Lv100武蔵野フォッシリウム編を執筆するに当たって少しは関東の海に対する理解が深められたのではないかと思います。


勝浦海中公園

宿は勝浦駅近くですが海中公園の最寄りは鵜原駅です。

しばらく歩きます(いつものことですが皆さんはバス等ご利用くださいね)。リアス海岸らしく、起伏の激しい地形の間をトンネルで突っ切っていく道です。その上には海際らしく常緑樹の多い植生が見えます。

今年のヒガンバナは主に千葉で見ることになりました。

やがて海の博物館(この日は休館日)と……、

その向かいの海中公園に出ました。

開園の時間までしばらくあるのでゲートより手前の海岸で過ごしました。すでに周囲の岩肌は綺麗に水平に堆積した地層が見えます。交互に堆積した削れやすい面と削れにくい面の違いが凹凸になっていますね。堆積当時は深海だったようです。
こうして見えている層は地層が大きく途切れている「黒滝不整合」という箇所より上の部分に当たるものの、その黒滝不整合は引き潮のときにボートで海から崖に近付かなければ見られないようです。

砂浜の間から平たい岩の面が顔を出しています。その中にはなにやら丸いものが。コンクリに埋まったスチール缶の底にも見えますが、これは生痕化石(巣穴や足跡など肉体以外の生物の痕跡)のようです。

さて開園時間です。
波打った屋根、水色のタイル、白い柱……こういう半端に古くて当時シャープだったものに弱いです。

しかもレモンスカッシュ!
この日は時間にとても余裕があったためこうやってのんびりやっていました。堤防の道を進んでいきます。

岩を突っ切るトンネルをくぐると……、

谷間の中でハコフグ(とイシダイ)の大きな模型に出迎えられます。なんだかすごい質感。

ここからの道は桟橋のようなものになります。この上から……、

海はもちろん岩肌の地層も眺められます。

下のほうで濃淡の灰色の層が交互に重なっているのと、その上には薄い褐色の層が重なっているのが見えますね。それにしても綺麗に水平に続いているものです。おや?

四角い穴がいくつか見えます!水が出入りできる溝もありますね。
これはもちろん自然物ではなく、かつてこの辺りで盛んだったイワシの追い込み漁に使う生け簀だったものです。
その漁について詳しくは博物館のところで触れるとして、むらなく水平に堆積した地層が水平な生け簀を掘りつけるのにちょうどよかったことがよく分かりますね。
今ではこの写真でも分かるように自然の海藻が生えていますし、魚が出入りしているのも見ることができます。大きなタイドプールになってしまっているようです。

道は緑をかぶった岩の間を突っ切っていき、先の風景を期待させます。

金属の建造物、自然の地層と磯、人間のものだった生け簀がダイナミックな景観を作り上げます。

おやっ、岩の上に咲くあの花の姿は何か見覚えがあるような気がします。浅間山公園で見たムサシノキスゲによく似て見えますが、まさか?

これはハマカンゾウ、ユリ科とされていましたが他人の空似のキジカクシ目ススキノキ科、そしてムサシノキスゲ(ゼンテイカ)と同じワスレグサ属に属するムサシノキスゲの近縁種です。
それにしても雑木林の中でほどほどの明るさのところにしか生えていなかったムサシノキスゲに近いとは思えないところに生えています。実はたくさんのメンバーを含み色々な環境に生息しているグループだったのですね。
前回はコククジラ属の発掘地として昭島と市川が結び付きましたが、今度は府中と勝浦が結び付いてしまいました。

マツの姿も少なからず見られます。種を長い距離飛ばして他の樹木が苦手なところに率先して生える性質が発揮されています。

道はいよいよ青と白の世界に。

海中展望塔が見えました!

振り返れば岩礁もかなり幅広く見えて……、いやしかし地層が本当に長く続いていますね。こんなに広く堆積したのもそれがこうして綺麗に見えているのも驚きです。

橋から海を見下ろすと、何か岩の上に海藻が生えているように見えます。

展望塔に入っていきます。

なんとなく船や港のような……海の観光地ならそういう雰囲気になるのも自然でしょうか。

螺旋階段を下っていきます。周囲には観光情報や名所などの掲示が。

さかなクン先生のキャリアの初期であろう成果もいくつも。いやしかしこのデザイン、明朝体を躊躇なく使う書体選び、「お問い合わせは」の後の間……、かなりのノスタルジーです。

実は上りと下りの二重螺旋階段になっています。狭い塔の中ですれ違う羽目にならないようにという工夫ですね。巧妙な造りです。

しかもところどころにベンチがある親切設計。

この掲示の写真を見て思い出したんですが排水ポンプらしき音が響いていました。潜っていきます。

海中展望台の潜水艦のような窓が見えました!

さっそくメジナの群れが出迎えてくれます。

とはいってもこれは餌付けされて集まってきたものですね。(野生動物に餌付けしていることになる気はしますが)海中公園の皆さんも工夫していることが分かります。

海の中そのものに目を向ければ、磯と同じように平たい岩が横たわっていて、その上に海藻が茂っているのが見えます。さっきのメジナよりも小さな魚の隠れ家になりそうです。

というところに実際小さな魚の群れが。ハタンポの仲間でしょうか。複数の窓にまたがって群れが見られました。

サザエも何匹か窓に貼り付いていました。生き物達にとっては展望塔の表面も岩と変わらないのでしょうか。窓すれすれにも魚の姿が見えますし、この窓から見えない塔の表面の様子が気になってきます。窓から見えるよりたくさん生き物がいるのかも。

突然ウツボが現れ、優雅な泳ぎを見せてくれました!
咄嗟のことなのでピントもなにもないですが、そうそう泳ぎ回っていないはずなので貴重な出会いでした。
そして、点のようなものがたくさん写っていますがこれは窓に付着した藻類や浮遊しているゴミではなく、カイアシ類らしきプランクトンです。海水がにごって見えるのはプランクトンが多いからなのですね。カイアシ類だけでなくその餌となる目に見えない大きさの藻類もたくさん浮遊しているのだと思います。
海の中が見られるというときに透明度が低いのはいかにもタイミングが悪そうですが、海水中の栄養分(特に植物プランクトンにとって必要なミネラル)が多ければプランクトンが増えて透明度が下がるはずです。つまり、この透明度の低い水中もまた海の重要な姿のひとつなのです。
以前に和歌山などで見た透明度の高い海とは別の海の一面が見られました。

模型があるくらいですからそれは本物も生息してますよね。まだ小さい個体で波に揺られていました。

コウワンテグリ?こうやって窓の縁を利用する小さな生き物も多いようです。窓の向こうを通り過ぎていく生き物との出会いも、窓に沿って過ごす生き物を眺めるのもとても良い体験でした。

アキシマクジラが昭島に打ち上がる直前に関東の海に来たときも、栄養に富んだ親潮の影響を受けた海はこのような様子だったのではないでしょうか。
現生コククジラの渡りに沿って考えると、南下する途中だったならちょうどこの海中の北を通ったのかもしれません。

入り口の階に戻ると展望台になっています。

それにしても海岸は見渡す限り地層です。もちろんこの反対側にも続いています。
ここまで触れていなかったんですけれど、中央の入り江にさっきの四角い穴とは別のもう少し近代的な漁業施設らしきものがありますね。本当は道の途中からも見えます。

午前のうちに海中公園を見終えて、しばらく付近を歩き回って地層を見ていました。
砂浜の入り江を見付けたので進んでみるとこんな輪になった岩が。やはりマツが進出していますね。

岩礁にはさまれているためか砂浜に貝殻はあまりなく、付近の生き物の気配を強く感じさせるものといえばこの海藻でした。
海藻は次の海の博物館でまた登場します。

海の博物館

翌日も同じ場所に(今度はバスで)やってきました。

海の博物館といえばホールの窓から見えるツチクジラの骨格が有名なのですが、その手前に大きな骨が見えますね。

2003年に南房総市に漂着した全長17.6mという大きなオスのマッコウクジラの、4.9mある下顎です。マッコウクジラとしても特大ですね!
歯は全て抜けています。これだけ大きくなると長いだけでなく後方の筋肉が収まる部分も深くて幅広いですね。房総沖が直接太平洋でありダイナミックな世界であることが分かります。

こちらのツチクジラは1996年に和田沖で捕獲(そういえば漁獲対象だった……)された10.5mのオスです。マッコウクジラのせいで感覚がずれますけどれっきとした大型ハクジラですね。マッコウがハクジラなのに大きすぎるので。
雨ざらしで大丈夫かな?って思ってしまいますが、下顎だけ密度が高くてあとは密度が低いことや、前肢の鰭の形や体に対する大きさ、吸い込む力を発揮する舌骨の大きさ、棘突起(背筋の骨)の高さ、V字骨(尾の下の骨)がかなり後ろから始まることなど、ツチクジラの特徴がよく分かります。

このホールの本棚には文献も充実していてかなりここで過ごせてしまうのですが、展示室に進みましょう。

まずは千葉各地の海の生き物がずらりと。
右のほうに「展示解説シート」という掲示がありますが、なんと同じプリントが配布されています。展示の一区切りごとにこれがあるので、集めるとちゃんとした展示解説書になってしまいます。

すでに幅広い生き物の標本が見られます。海藻に強いようです。

その向かいには千葉沖の海底地形が。この博物館がある勝浦のかなり近くまで海底渓谷が迫っているかと思えば、東京湾の入り口の深さもかなりのものです。九十九里浜沖は逆にとても遠浅になっていますね。

各地の海の様子に進みます。まずは勝浦、カジメという海藻の海中林です。砂浜に打ち上がっていた海藻ですね。
カジメの下には実に様々な生き物がひしめいているいっぽう、カジメの茎や葉にはあまり生き物がいませんね。どうやら生きているカジメに含まれるフロロタンニンという物質が動物に避けられていて、ちぎれて落ちた断片からはフロロタンニンが抜けるので巻貝類などに食べられるようです。陸でいったら落ち葉を食べる生き物とそれを食べる生き物がたくさんいるみたいな光景でしょうか。

海藻の根のような部分は水分や養分を吸い上げる役目のない「仮根」というのですが、カジメの仮根にはたくさんの小さな生き物が住み着いているとのことです。

という展示に対応する解説。このように展示にしっかりとした解説が対応しています。内装もだいたいこんな感じ。

いっぽうこちらは内房・館山、房総半島に親潮が遮断されて黒潮の影響を強く受けています。藻類にとっての栄養分を運んでくる親潮がないので海藻の代わりにサンゴが生えていますね。まるでフィギュア棚のように小さな生き物が並んでいます。

しかしその沖にある海底渓谷・館山海底谷~東京海底谷に潜ってみると……、

こんな深海生物の世界が。

そういえばこれも「エド」アブラザメというくらいで東京湾にいるわけですね。

海の博物館ですが陸上植物が現れました。九十九里浜の南にある夷隅川の河口は砂浜よりも陸側に潟胡がある複雑な地形で、場所によって様々な植物が生えているようです。
しかし九十九里浜の砂はこの川ではなく南北に挟む岬から削られて運ばれてきたようです。

一見何もない九十九里浜に潜む小さな生き物を求めてチドリなどがやってきます。

九十九里浜に漂着する生き物は実に様々です。

千葉各地から博物館の周囲へ、陸の生き物にも目が向けられます。

トンネルの上に茂っているのはこれらの照葉樹だったようです。

化石の展示は千葉市の本館にあるのですが、ここにも少し展示されています。轍みたいなものはブンブクというウニの足跡です。海辺で見ると臨場感があります。

大半はいかにも日本の野鳥という感じですが真ん中のイソヒヨドリが異彩を放っています。

海で人形といったら人工の漂着物?と思ったら服や動物の毛皮にくっつく種、いわゆるひっつき虫の展示でした。どんな生地の服にくっつきやすいかということなんですね。

海辺の植物(左のガクアジサイ)は山の植物(右のヤマアジサイ)と比べて葉が厚い等の特徴があることを光に透かして示しています。

たくさんの標本が揃っている中、

生きたものの姿も少し。

海中展望塔では逆光でよく見えなかったサザエの2つに分かれた足が見えます。

こんなマニアックなものも。砂粒みたいに小さい貝、微小貝です。微小貝の見付けかたが展示ガイドになっていました。

おや、勝浦の海岸の模型が。海中公園もごく一部だったんですね。今何の生き物が見られるかというガイドもあります。

明治末~大正に行われていたイワシ追い込み漁の展示もしっかりあります。追い込みもせずに海岸の森の木陰で涼もうとするイワシ(主にカタクチイワシ)を閉じ込めるだけでも捕まえられたそうです。
これで捕まえたイワシは主にマグロ漁の餌として買われていったとのことで、生け簀のほうが陸の水田よりよっぽど価値があったそうです。「ゴールドラッシュのツルハシ売り」ですね。
マグロの減少に伴いイワシ漁も下火になったのだとか。

こちらはアマモ場の展示。ピラミッド型なのがちょっとレトロでシャープですね。

アマモの間に小さな生き物が潜んでいますし、

海藻ではなく陸上植物から派生したものなので仮根ではなく根が生えています。

終わり際は色々な標本のトピック展示です。これは切っていない標本と照らし合わせてどれがどの断面かなという展示……巻貝はいいけどサンゴは無理ですて!

千葉県レッドデータブックで絶滅とされていたウツセミガイの標本です。アメフラシの仲間ですが薄い貝殻があります。

勝浦の海の色々な顔を見ることができました。

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