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正解のない美術を授業として成り立たせるには

昔、美術の授業が本当に嫌いだった。
今でこそ、「わざわざお金貯めてまで芸術大学に進学したのに? なんで?」なんて言われることが多いけど。
でも、それくらいに好きだったから、「美術が嫌いだった」なんて気持ちは、わかる人にはわかるんじゃないかなと思う。

私が受けてきた美術教育は、先生が絶対的な正解だった。
先生に、勝手に絵を変えられたり、「こうしなさい」と言われたり。
でも、私には、作りたいものがあるのに、やってみたいことがあるのに。
そういうところが本当に嫌で、美術が嫌だった。

「美術には、正解がない。」
より正確に言えば、「見る者が感じたことがそれぞれの正解になるので、唯一の正しいという価値はない」だ。
もちろん、芸術史のなかで生まれてきた絵画や造形物たちには、推察されてきた「絵の物語」「絵の時代背景」などが実際にある。
絵の中にあるものから描かれたものが何か推察する(アトリビュート)とかね。

でも、「人がどう感じて、何を思うか」「感じた結果に何が作りたいのか」において、正解はない。
一人一人の心の中にしか存在しない。
もし、君が、「気持ち悪い」と思うのならそれが正解だし、「綺麗だ」と思うならそれが正解なのだ。

私が中学校の美術教員をやるにあたって、決めていたことがある。
それが、『生徒が決めた正解を頭ごなしに否定しない』だ。
ただ、これがなかなか難しい。
当たり前のことだが、美術を授業として成り立たせるためには、評価が必要なのだ。
単元後、彼らの作品を見て、「どの程度達成しているのか」を見なければならない。

美術って、この評価が本当に難しい。
だって、生徒は心で感じて、作りたいと思ったから作っているのだ。
そこをしっかりと評価してあげたい。そう思う。

そういうとき、ある程度の枠組みを作ることは有効だなと感じる。
やりたいことをなんでも許すと、爆発したみたいな作品ができてくることと、逆に作れない子が出てくるからだ。

例えば、デッサンの授業でリンゴを描くとする。
でも、「自分が見て感じたままに描きましょう」なんて言うと、何にもかけない子がいる。
どうやら、「なにも感じないけど……」となってしまうらしい。
そういうタイプには、「見てどう思った?」とか思考のスモールステップが必要になる。

それともう一つ、「りんごを見て感じたままに描こう」と声かけをしてしまうと、その授業でミカンを描く子がでてくるのだ。
驚くべきことに中学生。すごい。自由で大変にアホなのだ。
そういうの、私はめちゃくちゃ面白くて好きだけどね。

だから、もしデッサンをするならば、
「こういうことを学んで欲しいから、デッサンをするよ」
と明確に伝えた方がいい。
「デッサンは上手に描くことが目標ではない」
「質感、テクスチャ、おかれた空気感をよく見ることが大切」
「相手が見たときに、その自分が感じたものをどこまで伝えられるか」
などなど。ポイントを伝えてあげる。
そうすると、その幅のなかで生徒自身が勝手にデッサンを学ぶようになる。
最後にお互いの作品を鑑賞させると、その幅の中で「こういうところを感じたから描いたのかなあ」なんて言葉が飛び交っていた。
中学生って面白い。

もうひとつは、「生徒自身にコンセプトを伝えさせる」のはいいなと思った。
コンセプトとは、発想とか概念とかそういう意味だけど、生徒自身に自分が作った作品について説明させると、こちらが思っても見なかった考えが返ってくることがある。

例えば、「どうしてその色を使ったのか」「なぜその形なのか」とか。
以前、配色が明度高めの色ばかりであまり絵としてパッとしないなあ、なんて思った絵があった。
それで、理由を生徒に聞いてみると、「優しいイメージを出したかったから、全て明るい色にした」と考えがあったらしい。

「表現する上で考えが相手に伝わるか」という点で見たら伝わらないけど、
「作るときに自分の中で考えて、作品に取り入れた」という点で見るなら作品としては100点の答えだなと思う。
ただ、絵面としての面白さは色彩理論なんかも密接に関わってくるので、「一般的に」と前置きした上で、「こういうのを取り入れたら伝えたいことが伝わりやすいことが多い、次は試してみてもいいかもね」とそのときは伝えた。
これが正解なのか、いまだにわからない。
ひとりひとりの持つ世界観はとても大切だけど、基本の上にある応用も大切だしなあ、とも思う。声かけは、いつも悩む。


でも、なんとなく思うのは、こどもの作品がいつ見ても面白いのは、こういう理論なんて関係ないってところなんだろうなと思った。
できるだけ、そういうところを評価するために、常に考えていけたらいいのかなって思う。いつも迷っているし、困っている。

だけど、美術は、生徒一人一人に正解があるので。
こちらががんばるしかないんだよなあ。
生徒には、一生のびのび作って欲しい。

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