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【アニラジ今昔4】「ラジオドラマ」と「アニラジ」と(後編)

■「ツインビーPARADISE」~コナミのラジオドラマシリーズ~

ラジオドラマが広がっていったのは、もちろんラジメーションだけではありません。同じ1993年には、文化放送でゲームメーカーであるコナミの提供で大塚英志さん原作の「マダラ」シリーズから「魍魎戦記MADARA 転生編」(※1)が始まり、続いてシューティングゲーム「ツインビー」を題材にした「ツインビーPARADISE」へと展開していきます。「ツインビーPARADISE」はパーソナリティの國府田マリ子さんによる親しみやすい語り口もあって人気を博し、アクセサリーでベルをつけたり、当時よく駅に置かれていた伝言板に「合言葉はBee!」と書く番組内ブーム(※2)が発生したりと人気を博し、3シリーズ・通算8クール放送された名番組となりました。

作品のラジオドラマの方は、アーケード版・ファミコン版ではまだおぼろげだった設定を固め、パイロットのライトとパステル、ミントがツインビー・ウインビー・グインビーといった意志を持つ搭乗機や仲間たちと繰り広げる日常物語として展開されていきました。悪役であるワルモン博士とザコビーのコメディリリーフ的なやり取りもウケ、ライバルの登場や世界の危機といった熱い展開もあったりと、ツボを押さえた名シリーズでした。なお、物語自体はビターエンドで終わっていたため、第4シリーズも期待されていたものの、そこで完結となってしまったのが惜しまれます。

当時の印象的な出来事として、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災と同時期に「ツインビーPARADISE2」のラジオドラマでも世界の危機として地震が扱われる予定だったのですが、番組ではスタッフが協議したうえでその展開となるラスト4話を削り、独自の最終回を放送。その決断をした理由も番組内でしっかり説明されていて、後日その4話分を別途ドラマCDとして販売するといったフォローもあったことが今でも思い出されます。

「ツインビーPARADISE2」の後番組となる「もっと!ときめきメモリアル」では、当時大流行していた恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル 〜forever with you〜」のラジオドラマを1年間にわたって展開。この後もコナミシリーズとして「究極パロディウス」「クリック&デッド」「Club db」「ソフィアの純愛」(※3)「もっと!モット!ときめきメモリアル」と放送されていき、途中でラジオドラマは終了してしまったり、スポンサーがコナミからキングレコードへ変わったりしましたが、「田村ゆかりのいたずら黒うさぎ」「上坂すみれの🖤(はーと)をつければかわいかろう」と長く続く源流となったのでした。

■文化放送での実験的な試み

文化放送では、ラジオドラマで面白い試みを行った番組もあります。1994年に土曜日25時から始まった「広井王子のマルチ天国」では、リスナーから作品のアイデアを募ってストーリーへ取り入れたラジオドラマ「火星物語」が人気を呼び、コメディからシリアスまで幅広い展開を見せた全10シリーズを制作。広井王子さんと千葉繁さん、横山智佐さんや豊口めぐみさんのアドリブたっぷりな演技が世界の幅を広げ、ファンタジーからSFまで火星にまつわる物語を壮大に展開していきました。抒情的なオカリナの旋律と「遥か遠い昔、これは人々が忘れてしまった記憶の物語……」という導入のナレーションに、心を震わせたリスナーさんも多かったのではないでしょうか。

文化放送では他にも、声優講座を開いてその卒業制作としてラジオドラマを放送していた……という記憶があるのですが、いかんせん1994~1995年頃に1・2回だけ、しかも日曜日の定時放送終了後の深夜2時から放送されていたということと、SF冒険活劇らしきストーリーだったということのみ覚えていて、ほぼほぼうろ覚えになってしまっているのが残念。出来る限り検索してみたのですが記録にも残っていない状態のため、もしこちらの番組を覚えている方がいらっしゃいましたら、お教えいただけますと幸いです。

■バリエーションも番組数も豊かだったTBSラジオ

TBSラジオの方でも、1996年放送開始の「子安・氷上のゲムドラナイト」でリスナー参加型のラジオドラマが話題に。こちらは1話1話のラストで2種類の次回予告を流し、リスナーの投票によってその後の展開が分かれるという趣向になっていました。取り上げられた原作も「THE KING OF FIGHTERS '96」「サイキックフォース」「エターナルメロディ」「悠久幻想曲」「クロックタワー」といった人気のゲーム作品で、選ばれなかった展開もドラマCDには収録されるということもあって長く続いていきました。個人的には『邪神に取り込まれたナコルルがなぜかほのぼのと次回予告をする』という「サムライスピリッツ」のラジオドラマが印象に残っています。

他にも、1995年頃のTBSラジオには平日の24時台に「ファンタジーワールド」と銘打たれた30分×2番組のアニラジ番組枠があり、多くの番組で「パラサイト・イヴ」「X CHARACTERS FILE」「卒業クロスワールド」「聖痕のジョカ」「魔法少女プリティーサミー」「スレイヤーズえくすとら」「黒髪のキャプチュード」などのラジオドラマが多く放送され、土曜日放送の「アニメExpress」「林原めぐみのTokyo Boogie Night」「TARAKO ファルコムぴ~ひゃらら」(※3)と日曜日放送の「岩男潤子のプクプクペンギンパーク」と合わせれば、ほぼ毎日ラジオドラマが放送されていたという時期もありました。「ファンタジーワールド」については、また次回に。

■ニッポン放送「アンドロイドアナMAICO2010」の挑戦

ニッポン放送では、1997年に夜ワイド番組「ゲルゲットショッキングセンター」で放送局をまるごと巻き込んだ大規模なラジオドラマプロジェクト「2010年ラジオの旅 アンドロイドアナMAICO2010」が放送されました。ラジオ業界初のアンドロイドアナウンサーと未来のニッポン放送社員たちの群像劇が1年間にわたって繰り広げられ、月曜日から木曜日まで放送ということもあって放送話数は100話以上にまで到達。開始当初はコメディタッチな作風だったのが、中盤以降シリアスな展開も織り交ぜられてドラマチックになっていきました。丹下桜さんや緒方恵美さん、置鮎龍太郎さんに山崎和佳奈さんといった声優陣に加えて、実際ニッポン放送で出演していたフジテレビアナウンサー(当時)の露木茂さん、タレントの松村邦洋さんを始めとしたパーソナリティ陣まで出演し、重厚な作品となっていったのです。

最終シリーズの別れと出会いの展開はラジオドラマにおける屈指のストーリーなので、出演陣の白熱した演技も含めて是非とも聴いていただきたい……のですが、ドラマCDが放送初期の3か月分しか発売されず未収録となったため、25年近く経った今となっては容易に聴くことができないというのが残念でなりません。アニメ版はほとんど別の展開なので。

「MAICO2010」については、当時ラジオ番組のアシスタントディレクターを務められていた小林順さん(※4)が自身のホームページ「残酷宣言」で、企画の立ち上げから最終回へ向けた展開など、当時の制作陣の空気をまとめられているので、一読してみることをオススメします。他のニッポン放送のアニラジ番組や、オールナイトニッポンシリーズなどにも言及されていて、読み物としても面白いです。


■サブカルチャー系ラジオドラマの斜陽と今

こうして様々な形で放送されていたアニラジ関連のラジオドラマですが、2000年を境に少しずつ作品が減少していき、2021年現在ではメディアミックス的な展開がほとんどなくなってしまい、定期的な専門番組も前出の「青春アドベンチャー」と、文化放送の「青山二丁目劇場」ぐらいに。ラジオドラマ好きにとっては大変残念な状況になってしまいました。

ですが、2020年秋にはコミュニティFMラジオ放送局の「ラジオフチューズ」(東京都府中市)がクラウドファンディングを募って、斎賀みつきさん伊東健人さん深見梨加さん井上和彦さんなど実力派声優陣による朗読番組「声優が読む文学の時間~たくす~」を企画・放送したり、声優の中村繪里子さんによる朗読番組「繪ほんの中には」が「ふくろうFM」(千葉県八千代市)で放送。2021年春から同じく「かわさきFM」(神奈川県川崎市中原区)で放送されている「ぐるっ人川崎」にて鬼頭明里さん岡村明美さんといったプロの声優さんを招聘して、同時に声優を目指す人たちのオーディションを行いラジオドラマ作品「Warnder World」「零れ陽にささやかな願いを」を制作していくといった様々なチャレンジも見受けられるので、これからも期待していきたいと思います。


※1 「魍魎戦記MADARA 転生編」……大塚英志氏原作の、光と闇の王子の戦いを描いた「魍魎戦記MADARA」シリーズのうち、現代日本が舞台となる完結篇。マンガ版と小説版があり、小説版は一旦中断のあと2005年に別タイトルに変更した改稿版が出版されました。

※2 今ほとんど無くなってしまいましたが、かつてほとんどの有人駅には「伝言板」と呼ばれる待ち合わせや伝言をするための掲示板があり、その掲示板に「合言葉はBee!」と書くことが流行っていました。しかし、「伝言板の空きスペースが無くなるほど書く」など、少々迷惑なことでも話題にもなったというネガティブな一面もあったのです。

※3 「ソフィアの純愛」……中世風ファンタジー世界を舞台とした恋愛シミュレーションゲーム「みつめてナイト」の番組。ヒロインのひとり・ソフィア(CV.小西寛子さん)が日本へと心の電波を送ってパーソナリティになっているという設定で、命のやりとりが存在するゲーム内容もあってか、なかなかハードな内容に。弱気かつためらいがちな性格のソフィアが、日本から届いた心の電波(ハガキ)に対して明確なことを返さないままであったり、最終回に向けて希望のある展開へ進んでいく……と思ったら、その最終回で全てをひっくり返して終わるというとても異質で挑戦的な内容でした。番組の担当ディレクターは「ツインビーPARADISE」「もっと!ときめきメモリアル」も担当したおたっきぃ佐々木さん。最初からその構成を決めていたそうで、20年越しにその事実をうかがって思わずひっくり返ってしまいました。

※4 「TARAKO ファルコムぴ~ひゃらら」……現在はゲーム「軌跡」シリーズを展開している、日本ファルコム提供のトーク&ラジオドラマ番組。トークパートは「ちびまる子ちゃん」でおなじみのTARAKOさんが務め、当時展開されていたゲームシリーズ「英雄伝説Ⅲ 白き魔女」「ぽっぷるメイル」「風の伝説ザナドゥ」がラジオドラマとして放送されていました。

※4 小林順さん……ニッポン放送のワイド番組やアニラジ番組でアシスタントディレクター(AD)を多く務められていて、現在もディレクター・プロデューサーとして多くの番組の制作に携わっている制作畑の大ベテラン。かつて文化放送で放送されていた伝説的アニラジ番組「緒方恵美の銀河にほえろ!」にニックネーム希望(ラジオネームでの投稿が禁止されていて、緒方さんからニックネームを命名されるシステム)でハガキを投稿し、仕事仲間でもある緒方さんから素性を暴露され、本人とまるわかりのニックネームをつけられるという一幕も。

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