思考実験: 性自認と性役割の判別

私が、自らの性自認と性役割を判別する際に考案した思考実験を載せる。18歳頃だっただろうか。

あなたがある朝目覚めたら、世界がやけに静かだった。家族も、隣人も、道行く人も、いない。
道路に動く車はない。線路に走る列車はない。家屋に灯る明かりはない。
あなたはしばらくの時間を費やして方々を訪ねるが、人間を見つけることはできない。
そうしてあなたは、理由も方法もわからないが、とにかく、自分一人を残して人類がこの地上から消え去ってしまったらしい、と結論づけた。

まあ、筋書きはなんでもいいんだ。対人関係、社会生活、コミュニケーション。そういった類のものが一切合切消滅して、安全とか食料とか健康とかはとりあえず当面は大丈夫みたいな、そういうハイパー都合のいい世界に自分の身柄がすっ飛んだ――という前提を立てる。

さて、その状況で、あなたの自分の性への評価は、どう変わるだろうか?

私が出した答えは、《最悪。人類が消え去ってしまったらしいと結論づけたその場で、自殺をする》だった。

その理由は、「医療機関がなくては、投薬や手術でこの身体を変えることができないから」だった。

自分でも驚いて、本当にそうなのか、もう誰も私を女の子だと言わないのに、女性としての在り方を求められないのに、喜ぶことをしないのか、と自問した。そして、たしかに喜ばなかった。
私は、周囲の目ではなく、身体の形に悩んでいた。

いわゆる「心の性別」という雑な言葉から「『自己が認識する身体』の性別」を取り出して考えるために有用な思考実験だと思う。

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