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持ち込まないリアル ~「異世界薬局」考証裏話(4)医師法の話~

まだまだ続く14話ネタ。
いやけっこう有るんですよこの回は。
今回も骨折治療の話にしようかなと思いましたが、それより先に「原作に準拠させたらまずいと判断して、かなり強く変更を求めた」点についてお話しようと思います。

原作を読んでいると判ると思いますが、薬谷というキャラクター、異世界にいってもなぜか日本の医師法を気にします。
コミック第14話についても、原作では医師法を理由に治療をためらいます。
ネームの段階でも、医師法を理由に治療をためらうと言うストーリーになっていました。

が。

臨床現場にいる人間が全力で突っ込むポイントなんですよ、ここ。
理由は簡単。「薬谷、おまえもう医師法違反してるだろ!!!」だからです。

ではここで、医師法を見てみましょうか。

医師法第17条
医師でなければ、医業をなしてはならない。

これだけだと良く判りませんね。
じゃあ「医業」って何なのか、厚労省の解釈を見てみましょう。

医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している
(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/02/s0203-2g.html)

なお、2018年の時点でも「診断すること、検査の項目を決めること、検査の実施を決めること、検査結果から治療の必要性を判断すること、処方を決めること、投薬中の薬剤を病態にあわせて選び使わせること」はすべて医行為に分類されてます。
それらを「反復継続する意思を持って」行うことはできません。
……つまり、日本の医師法に拘るなら薬谷がやってきたことは全部アウト
13話までに公開されたエピソードにあるような、感染症の診断をしたり、投与する薬を決定したり、といったこと全てが『医師の判断の下に行うべき行為』になりますし、継続的に診療する=反復継続する意思を持って行う事になりますから、医師免許を持ってない人は日本じゃやれないことばかりです。

と言う状況で、怪我人を前にして手を出さない理由として医師法を出しちゃった。……そりゃあ、一部の人はげんなりしますね。
思いっきりはっきり言うと、これ、「対応困難な症例が目の前に来たので、怖くて逃げだすために、今さら法律の事を持ち出した」としか見えないんです。

ことここに及んでためらう理由に医師法を出す?
おまえ今まで何してたか胸に手を当てて考えてみろ?
とっくに違反してんだから今さら気にすることか?

にしかなりません。
実際にオフラインで入った突っ込みは

うっわ、こいつスゲー不誠実。これまで好きなこと好きなだけやってたのに逃げ打ってるし
いまさら何言ってんだこいつ、もう駄目だ読んでられない。キツい。

と、かなりのマイナス評価。薬谷と言うキャラクターの誠実性が疑われてしまう原因になってました。
……何も言わずにブラウザバックして、二度と読まなくなった方もいるでしょうね。

というわけで、この部分についてはあまりにもネガティブなインパクトが強いと判断、差し替えを強くお勧めした次第です。
じゃあどうするか……ということで高野さんが練り直してくださったネームでは、「経験不足を自覚しためらう」というストーリーに変わりました。

キャラクターの性質を保ってお話を続けるためには、持ち込まないほうが良いリアルがあるよと言うお話でした。

※1
実は手技を身につけるシーンについても「医師免許持ってない人には教えたりしないよなあ、笑顔で『治療してみたかったら免許とってきてね』と言うだけだよなあ……」というリアルがあるんですが、そこは突っ込んだらお話が崩壊するので、全力でスルーしました

※2
現代日本を舞台にしてるわけじゃないんだから、日本の法律なんて気にする必要はそもそも皆無なんですけどね。リアルワールドだって各国で法律違うので、日本から出た時点で気にする必要ありません(滞在国の法律に従いましょう)。

※3
「日本じゃないところにいるのに、日本の法律を気にする」事に関しては、誠実性云々を抜きにしてもキャラクター設定とぶつかっちゃう事項なんですよね。
ファンタジーかそうじゃないか以前に、リアルワールドで海外経験があれば、海外で日本と同じ基準が通用しないなんて常識レベルで知っていることです(知っていないと、強制送還になるレベルの間違いを犯すリスクもあります)。
このレベルで常識が身についてないキャラクターとなると、よっぽどドメスティックな人間関係と経験しかもってなさそうってことになるし、海外旅行経験も無いレベルの田舎の人でもないと無理だろう、薬谷の設定とズレるよなあ……と、私自身はこの程度にのんびり考えてました。

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