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うつ病持ち設備設計が設備について熱く語るぞ:2.ものを冷やすには

どうも、沖やんです。
この章では、どうして冷やせるの?を説明します。
序章はこちら

ものを冷やす原理

ものを冷やす原理は、基本的に蒸発冷却効果を用いたものです。
蒸発冷却効果で最もわかりやすいのは、人体の汗の蒸発による冷却であり、人体から発した汗が蒸発することで体温を下げることができる。ただし体内から発する汗によって水分を失うので、それを補うために人は水を飲む必要があります。

上記のように、蒸発によって失った水を補給することを連続的に行う過程は開放サイクルと呼ばれます。これを建物に採用した場合、冷たい水を大量に必要とするため、冷たい水などを繰り返し蒸発、再利用できるように閉鎖循環方式を採用する必要があります。

冷たい水等、熱を伝える液体や気体は冷媒と呼ばれます。その冷媒が蒸発器で液体→気体に変化するときに熱エネルギーが必要になり、まわりから熱を奪うことで冷却することができます。しかし気体を回収して液体に戻さないと再利用できないので、圧縮機で気体を圧縮した後、凝縮器で液体に戻します。気体→液体に変化するときには熱を放出(発熱)するので、その熱を処理する必要があります。凝縮器の熱を冷たい空気などで冷却して、低い温度の高圧液体にすることで、再び蒸発器に移すことができます。これを閉鎖サイクルといいます。

閉鎖された冷凍サイクル ※1

冷凍サイクルは様々なところで活用される

この閉鎖された冷凍サイクルによってものを冷やすことができます。これは様々なところで活用されています。

1.   冷凍機

冷凍機といえば、家庭用の冷蔵庫を思い浮かべる人も多いですが、じつは家庭用冷蔵庫の動作原理はエアコンに近いものなので、次項で説明します。
この項目における冷凍機は、建物全体を冷やしたり、工場・研究機関の冷却プロセスで使われたりする大型の冷凍機を指します。
ここでいう冷凍機は大きく圧縮式冷凍機吸収式冷凍機の2つに分けられます。

圧縮式冷凍機圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器から構成され、次項に記載するサイクルで運転されます。圧縮機の方式から細分化され、その方式はレシプロ式、ロータリー式、スクリュー式、ターボ式の種類があり、一般的に、レシプロ式→ロータリー式→スクリュー式→ターボ式 の順で容量(能力)が大きくなります。冷媒は一般的にフロンガスが使用されますが、そのガスはオゾン層破壊や地球温暖化の影響が大きいことから、環境負荷の小さいガスに置き換えられつつあります。

圧縮式冷凍機の構成 ※1

吸収式冷凍機は蒸発した冷却剤を液体に戻すために、機械式の圧縮機の代わりに、化学的な作用を利用します。吸収式冷凍機は吸収器、再生器、凝縮器、蒸発器で構成され、その動作サイクルは下記の通りです。
吸収器:低圧空間で蒸発した水蒸気を吸収剤(臭化リチウム溶液)に吸収させる。
再生器:水が含まれ薄まった吸収剤を加熱して、水蒸気を追い出す。
凝縮器:水蒸気を冷却水で冷却して水(液体)にする。
蒸発器:水(液体)を低圧で蒸発させて、その気化熱で空調用冷水を冷やす。

吸収式冷凍機の原理 ※1

冷媒は水を使用するので、オゾン層を破壊することは無く、地球温暖化の影響は小さいです。
ただし、再生器で吸収材を加熱するために熱エネルギーを使用するために、一般的にエネルギー効率は圧縮式冷凍機より良くありませんが、建物の他の設備(ボイラー、給湯器、蒸気発生器など)からの排熱を利用することで、建物全体のエネルギー消費量を削減させることはできます。

2.   エアコン

家庭用エアコンにおいても、冷凍サイクルで動作しています。一般的には空冷式ヒートポンプと呼ばれていて、冷房時の具体的な動作サイクルは下記の通りです。
膨張弁:エアコンの冷媒を膨張させて低温・低圧液体になる。
蒸発器:冷媒が気体になることで、周囲の空気が冷やされて室内を冷却する。
圧縮機:冷媒を圧縮することで、高温・高圧にする。
凝縮器:冷媒が液体になることで、熱を屋外に放出させる。
冷蔵庫においてもこのサイクルで冷却しているので、冷蔵庫とエアコンは似た者同士といえるでしょう。
エアコンの暖房サイクルは、(冷房時の)蒸発器が凝縮器となり、凝縮器が蒸発器となる変更点こそありますが、冷房の逆サイクルで暖房できるようになります。

空冷式ヒートポンプの原理 ※1

エアコンなどのヒートポンプがエコと言われるのは、その運転効率の良さからで、一般的に成績係数(COP)は3〜5、つまり消費する電力の3〜5倍の効率(能力)で運転できるからです。というのも、屋外と室内の熱を移動させることがヒートポンプの原理で、電気はほぼ全て、冷媒を循環させるための圧縮機で使用されるためです。(ボイラーやファンヒーターは燃料を燃焼させて直接的に熱エネルギーを得る)

ただし寒冷地で暖房運転させると、屋外の少ない熱を室内に移動させようとするため、より多くのエネルギーを必要とします。さらに屋外の蒸発器コイルが氷点下になるために、外気中の水蒸気が凍ってコイルに付着することで、蒸発器コイルの熱伝達が悪くなります。蒸発器コイルに付着した氷を取り除くために除霜運転を行いますが、この時は冷房の運転サイクルと同じことをするために暖房運転は止まってしまいます。そのために運転効率(成績係数)は下がってしまいます。

3.   ヒートポンプ温水器・給湯器

この冷凍サイクルでは、凝縮器で放熱するため、そこに水を流してあげると水を加熱することができます。これを温水や給湯に活用したものがヒートポンプ温水器・給湯器です。CO2(二酸化炭素)を冷媒としたヒートポンプ給湯器はエコキュートと呼ばれます。

エアコンの暖房運転と同様の動作原理(大気の熱を暖房の運転サイクルで集めて給湯を作る)で、前項と同様にエコで高効率(成績係数は3〜5程度)です。ただし運転効率は外気温度、給水温度、設定給湯温度(65〜90℃)の影響を受けます。さらに瞬時に作れる給湯量は少なく、貯湯槽(貯湯タンク)が必須であるため、貯湯槽からの熱損失、残湯量から、給湯の使用量が少ないと実際の運転効率が下がることがあります。

ヒートポンプ式給湯器の構成 ※1

ということで、ものを冷やす原理から、その原理を活用した製品まで説明しました。
現代において、ものを冷やすには液体の蒸発と、冷凍サイクルというのが欠かせません。
ちなみに、-269℃で液体になる液体ヘリウムの製造については、圧縮機と凝縮器を複数組み合わせたシステムを用いるので、冷凍サイクルを応用したものといえます。

建物の規模に応じて、最適な冷凍機・エアコン・給湯器を選定するのも設備設計の仕事です。

※1 図説 建築設備(学芸出版社)より引用

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