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ピーター・グリーナウェイ回顧展

ピーター・グリーナウェイのレトロスペクティヴに行ってきた。

独特の構図と色調

グリーナウェイは私が最も敬愛する映画監督です。

初めてグリーナウェイ作品に触れたのは、「コックと泥棒、その妻と愛人」、そして「ベイビー・オブ・マコン」
今でもこの二つの映画を鑑賞した時の衝撃は忘れない。

こんな映画、みたこと無い、と思った。
全く映画らしくない、動く絵画を見るような構図、詩のように美しいセリフ、退廃的でエロティカル、かつ極めて残忍で残虐。
帰り道の電車の中でパンフレットを握りしめながら、思い出し震えていた自分をよく覚えているし、何日も何日も映画のことが頭を離れなかった。
この時買ったパンフレットは自分の一番の宝物だ。

今はもう閉鎖してしまったミニシアターなんだけど、当時「二人のピーター」というコンセプトにて、ピーター・ジャクソン監督作品と一緒に何本かまとめて上映していた。
当時既に回顧展だったわけだが、今考えると何故ピーター・ジャクソンと同じくくりにしたのか謎過ぎる……。なんとなくサブカル的な、雑な感じだったのかな。
伝説のゾンビ映画「ブレインデッド」を見たのもこの時だった。

自分にとってはあの時のガラガラの映画館のイメージが強くて、今回のレトロスペクティブの混み合いようが嘘みたいで、なんだか嬉しい。
「ミッドサマー」のアリ・アスター監督を初め、多くの映画監督やクリエイターに影響を与えたというが、そんなの当たり前だ。あれを一度でも見たら、見てしまったら。影響を受けないクリエイターなんていないだろう。

さて今回の上映作品は、「英国式庭園殺人事件」「ZOO」「数に溺れて」「プロスペローの本」の四本。
さすがにベイビーオブマコンあたりを映画館でやるのは今どきの時代的にも難しかったのだろうか。おとなしめのラインナップである。

今回はマイケル・ナイマンが劇伴をつとめたものから選ばれたようだ。あの扇情的な独特の映画音楽、なんとも言えない。見る人の情緒をめちゃくちゃ煽ってくる。さながら宮崎駿監督の映画における久石譲音楽のように、このペアリングの完璧さは揺るがないのだ。

この中では「ZOO」だけ見た事がなかった。他は見てはいたが劇場で改めて鑑賞するとやはり素晴らしいよね。英国式庭園殺人事件のお衣装とか。美しすぎる。「数に溺れて」のわちゃわちゃ感も、大きなスクリーンで見るから没入感をより得られる。ラストシーンのしょぼい花火も良い。

「ZOO」は今回が初見だが、とても良かった。
何が良かったって、無修正版だったことがめちゃくちゃ良かった。そういう作品だからだ。
この作品は、人間が、「人体」として描かれることに意味がある。人体の美しさを描くことによって「死」にここまで踏み込めた映像作品が今まであっただろうか。
そしてとにかく画角と構図がめちゃくちゃ良い。好き。
病的にこだわったのか、ナチュラルにそうなってしまうのかわからないけど、なんだかずっと、絵画がしゃべってるみたいな感覚になる。画面に見とれていると内容はあまり入ってこなくなっちゃって危険。

グリーナウェイ作品には一貫した品性がある。
下品なジョークも沢山出てくるし、目を背けたくなるような残虐なシーンや死体も必ず出てくるのだが、なぜかうまくアイロニカルにまとまってしまうところも好き。

でも人間って、本来そういうもんじゃないですか。
汚くってずるくてダメなところもいっぱいあって、でもだからこそ美しい。だからこそ魅力がある。

生きること、死ぬこと、エロスとその哲学に真っ向から踏み込んだ、人間味溢れる映画を撮る監督として。
または美しく整った美術を鑑賞するような気持ちで、グリーナウェイワールドをぜひ堪能して欲しい。

なんだか新作を撮っているという話もあるので、引き続きそちらも楽しみに待ちたい。

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