見出し画像

Web開催:市民公開シンポジウムの予備告知

生活習慣病を死語にする会(SSB45)が主催する第2回市民公開シンポジウムのプログラムが確定しましたのでお知らせします。開催日時については今後すべてのパネリストと日程調整を行い、年内に決定し、来年早々にはお知らせしたいと思いますので、もう少々お待ちください。

社会的スティグマのない社会をめざして

〜「自己責任」という社会的圧力に抗う方法を考える〜

■ 第1回市民公開シンポジウムを振り返る

私たちは糖尿病に対する社会的スティグマを減らし、当事者が差別や不利益を被ることなく、病気と向き合い、主体的に暮らしていくことができる社会の構築を目指し、2020年「生活習慣病を死語にする会(SSB45)」を発足しました。2021年12月には第1回の市民公開シンポジウムをWeb開催しました。

 第1回シンポジウムでは糖尿病患者の“生きづらさ”に焦点を当てました。第1部は医学、文化人類学、社会学、臨床心理学の専門家による講演、第2部は当事者の立場からとして、1型糖尿病、ヤング2型糖尿病、単一遺伝子異常による家族性若年糖尿病(MODY)当事者にそれぞれご発表いただきました。

SSB45の単独自主開催ではありましたが、114名の方にご参加いただき、多くの参加者がパネリストの発表を傾聴するだけでなく、実にたくさんの多様な意見をチャットで投稿し、会の進行を盛り上げて下さいました。また専門家からも「糖尿病当事者がどのような苦しみを感じているのかという話が衝撃的だった」「お互いが意見を聴き合う大切さを感じるシンポジウムだった」等のコメントをいただき、素晴らしい学びの場を実現することができました。(前回のシンポジウム報告のURL:https://ssb45.com/2021/12/31/市民公開シンポジウム報告/)。

■第2回シンポジウム企画において目指すもの

第1回シンポジウムのパネリストである文化人類学者・磯野真穂さんは予防医学に基づくリスク管理社会がもたらす負の側面について、警鐘を鳴らしています。私たちは今、日常生活の中のさまざまな事柄が予防医学によってリスク管理される社会に生きています。予防医学に基づくリスク管理社会は“健康”という反対しがたい道徳を掲げながら、これまでになく強力な形で私たちの生活に入り込んでいます(磯野真穂著『他者と生きる:リスク・病い・死をめぐる人類学』p6より抜粋して引用)。こうした予防医学上のリスク管理が行きすぎると、肥満や糖尿病といった予防医学上のリスクをもった人たちに対して、自己責任論をかざした非難の声が上がることがあります。当事者は本人が望まないにもかかわらず、ステレオタイプな偏見に伴う社会的スティグマを負わされることになります。

第1回シンポジウムの討論の中で、私たちは生活習慣病という呼称を死語にすることはできたとしても、こうしたリスク管理社会の有り様を変えることは容易ではないことに気づきました。そこで第2回シンポジウムでは「生活習慣病」をめぐる議論の中でしばしば登場する「自己責任」がもたらす影響について考えてみたいと考えました。「自己責任」という言葉には声を上げる人を黙らせ、孤立させ、社会を分断する力があります(荒井裕樹著『まとまらない言葉を生きる』p188〜198から抜粋して引用)。荒井裕樹さんは「自己責任」という言葉が人々の「他人の痛み」への想像力を削いで、私たちひとり一人を支える社会的基盤を侵食していると危惧しています。生活習慣病という呼称の問題点や糖尿病や肥満に対する偏見の問題を考えるとき、「自己責任」という社会的圧力に抗うために、私たちはどうしたら良いか議論することがひとつの突破口になるかもしれないと考えました。そのため今回のテーマを「社会的スティグマのない社会をめざして〜「自己責任」という社会的圧力に抗う方法を考える」といたしました。

また今回のシンポジウムでは糖尿病だけでなく、対象を肥満や障害者(身体障害、精神障害、知的障害などを含む)にも拡げて、偏見や差別について考えてみたいと思います。偏見や差別と闘ってきた人々の言語表現活動や歴史を知ることで、私たちはスティグマをもっと深く理解し、「自己責任」という社会の力に抗う方法を見つけることができれば・・・と願っています。

■糖尿病をめぐる否定的ステレオタイプと社会的スティグマの現状

前回のシンポジウムにおいて、社会が生活習慣病と呼ばれる病いに対して、遺伝的素因を軽視し、あまりにも個人に責任を求め過ぎることの問題点やその結果、当事者の生きづらさや1型と2型糖尿病当事者の対立を生み出していることが指摘されました。重要なことは糖尿病や肥満に対する否定的ステレオタイプは「人が食事や体重を管理し、糖尿病を予防することは自分の努力や意志の力でコントロール可能である」という誤解が社会全般に広く普及することで偏見が形成されているという点です。したがって、こうした社会の誤解を解いていくことも重要であると考えます。日本糖尿病学会は医療従事者の言葉や態度、考え方を変革することをめざして、さまざまな情報発信をしていますが、まだその意義は十分には理解されていません。

■パネリスト紹介

第1部は社会心理学の専門家として大江朋子さん(帝京大学文学部心理学科)に加わっていただき、社会心理学の観点からスティグマのない社会の実現に向けたご提言をいただこうと考えました。また米国における肥満関連スティグマに関するフィールドワークをされていた碇 陽子さん(明治大学政治経済学部)をお招きして、文化人類学の観点からこの問題を論じていただこうと思います。さらに肥満診療の最前線の医師の立場から齋木厚人さん(東邦大学医療センター佐倉病院)にも加わっていただき、社会に向けたメッセージをお願いしました。そして最後に、これまで偏見、差別と闘う障害者や病気と生きる人たちの自己表現活動(障害者運動と文学)をテーマに研究・執筆をしてこられた荒井裕樹さん(二松学舎大学文学部)をお招きして、偏見、差別と闘った障害者研究から得られたお話を伺いたいと思います。

第2部の当事者パートでは1型および2型糖尿病当事者、そして病いの専門家の立場からNPO法人患者スピーカーバンク前理事長 香川由美さんにご発表いただきます。1型糖尿病の当事者でもある香川由美さんは病気や障害を通して得た経験や気づきを伝える「患者スピーカー」の育成や講演会の企画・運営などを行うNPO法人患者スピーカーバンクの活動に10年に亘って参加する傍ら、東京⼤学⼤学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野特任研究員としてもご活躍です。

前回のシンポジウムにおいて「この会の運動は名称変更というゴールテープを切るための活動ではなく,スティグマの解消に向けたスタートラインを引くための活動だということを強く感じ,自分にできることを身近なところから一つ一つ積み重ねていきたい」という声が挙がりました。今回も専門家の英知と当事者の語りによって、スティグマのない社会の実現に向けて共に議論する良き学びの場にできればと考えています。

生活習慣病を死語にする会代表 杉本正毅


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?