杉本正毅

私は糖尿病臨床を専門とする内科医です。ナラティヴ・アプローチと出会い、病い体験や病いの…

杉本正毅

私は糖尿病臨床を専門とする内科医です。ナラティヴ・アプローチと出会い、病い体験や病いの意味を尊重した糖尿病診療をめざし研鑽中です。主な著書「医師と栄養士と患者のためのカーボカウンティング実践ガイド」「2型糖尿病のためのカーボカウント実践ガイド」「糖尿病でもおいしく食べる」など。

最近の記事

患者さんとの『ダイアベティス』についての対話

昨日の外来で出会った75才の女性患者さんとの会話です。 Pt「DM患者は偏見や差別を受けるそうですね」 Dr「どこかにそんな記事がありましたか?」 Pt「昨日の読売新聞にそんな記事が出ていました」 Dr「Aさんは偏見や差別を感じていないんでしょう?」 Pt「あたしもそういう経験ありますヨ」 Dr「ほゥ、どんな経験ですか?」 Pt「うちは主人がDMでインスリンを打ってるでしょ。だから、そんな主人の話を誰かにするでしょう。そうすると、贅沢病に罹ったんだね」って言われますヨ。世間

    • ”存在自体がスティグマ”をどう伝える

      日記のように今日の出来事を伝えるポストがあってもイイかなということで、今日は思いつくまま書きます。 ■ミーティングで感じた事 18:00から来春開催予定のスティグマ関連ウェビナーについてY先生とメーカー担当者とzoomミーティングをしました。いつもながらメーカー色が一切ないウェビナーを企画してくださる由、感謝に耐えませんね。 僕が想うことはスティグマの理解が医療専門職の間にまだまだ浸透していないこと。どうやって多くの医療専門職にスティグマ理解してもらうか?ということです。

      • 健康格差の現実と雑談外来

        ■健康管理は自己責任という考え方に対する疑問 近年、健康の社会的決定要因(SDH)の重要性が叫ばれている。政府が健康増進の施策を行っても、頑張れる人もいれば、頑張れない人もいる。政府はどうしても自助努力(インセンティブ)を誘導する施策を行いがちだ。でもそうした呼びかけに積極的に応える人たちはみんな自主的な健康行動に積極的な人たちばかりで、その結果、ますます健康格差は広がってしまう。 ■不健康をスティグマ化する社会 「不健康をスティグマ化する社会」の実例は沢山あるけれど、

        • 減量治療中の患者さんとの診察室での哲学的な対話

          減量治療中の女性との対話は「食欲をどう考えるか」「お腹がすいたときの間食をどう受け止めるか」といった、とても認識論的な対話が展開されることが多い。僕の場合、そうした禅問答のような対話は50才前後の女性に多いような気がする。 事例紹介 事例1:空腹時の間食に罪悪感を感じてしまう女性 昼食と夕食の間隔が長いある女性はお腹が空いても間食することにはある種の罪悪感があり、ずっと我慢していた。栄養士から臨床経過も良いのだから、そういうときには軽くスナックを摂った方が良いと勧められ、

        患者さんとの『ダイアベティス』についての対話

          血糖管理目標値をめぐる患者さんとの対話

          ■はじめに 患者さんからA1c目標値について質問されたらどう答えますか? クリニカル・イナーシャ(clinical inertia)に陥らず、患者さんとタイムリーに適切な治療強化を行っていくための対話方法について、ある事例を通して考えたいと思います。 対話の内容、患者背景は事実を損なわない程度にデフォルメしています。 ■症例 症例:60代男性、会社経営 家族歴:親族にインスリン使用者が2人おられる 診断から12年目。当初はA1c6%台であったが、4年目以降から7%台。

          血糖管理目標値をめぐる患者さんとの対話

          対話を促進する外来カルテの書き方

          ■「否定的な体験」を「肯定的な体験」に書き換えること〜 ナラティヴな診療において、患者さんの語りをどのように聴き、それを患者さんの目の前でどのように言語化して書き記すかということはとても重要です。このテーマについて、きちんと話そうとすると30分くらい、文字で説明するとかなりの長文となりそうですが、今日はなるべく短くエッセンスだけ書いてみます。 ■ポイントは ・患者さんになるべく自由に語ってもらう。 ・医師はあなたの話を、こんな風に聞きましたよということを、患者さんの目の

          対話を促進する外来カルテの書き方

          書評『病いと暮らす』2型糖尿病である人々との経験、著者 細野知子

          書評『病いと暮らす』2型糖尿病である人々との経験、著者 細野知子 このたびは細野さんからご著書を献本頂くという幸運に恵まれました。本日読了したので、本書を読んだ感想を思いつくまま書いてみたいと思います。 細野さんの病棟看護師体験から始まり、修士課程におけるご研究、その後10年近くを経た後の博士課程におけるご研究をまとめた本著は、細野さんがDM当事者と向き合い、恩師からの指導を受けながら、1歩1歩DMケアに対する考えを深めていかれた過程が丁寧に描かれていて、読み応えのある内容

          書評『病いと暮らす』2型糖尿病である人々との経験、著者 細野知子

          パネリストたちの自己紹介が素晴らしかった

          市民公開シンポジウム当日まであと6日間。 本日、市民公開シンポジウム2023のリハーサルを行いました。 パネリストたちの自己紹介が素晴らしかった 専門家パネリスト6名、当事者パネリスト3名、それに座長を引き受けていただく予定の鈴木先生が加わり、計10名がZoom画面上に集まりました。今日はすべてのパネリストにとって初対面であったにもかかわらず、それぞれがとても心のこもった自己紹介をして下さいました。 そこで、各パネリストの自己紹介をまとめてみました(不正確な聴き取りによ

          パネリストたちの自己紹介が素晴らしかった

          社会的スティグマの解決が難しい理由

          最後に「スティグマを生む社会的障壁をを取り除く方法を考える市民公開シンポジウム」を紹介しています。関心のある方は最後までお読みいただけたら幸いです。 ■スティグマとはなにか?近年、盛んに使われるようになったスティグマですが、まだ一般の人たちの認知度は低いと思います。簡単に説明すると、スティグマとは、先入観や固定観念で人が望まないような特性で個人にレッテルを貼ること。社会からの誤解、偏見、差別を指します。 スティグマの分類(1) 公的スティグマ:健常者が当事者に向けるステ

          社会的スティグマの解決が難しい理由

          Web開催:市民公開シンポジウムの予備告知

          生活習慣病を死語にする会(SSB45)が主催する第2回市民公開シンポジウムのプログラムが確定しましたのでお知らせします。開催日時については今後すべてのパネリストと日程調整を行い、年内に決定し、来年早々にはお知らせしたいと思いますので、もう少々お待ちください。 社会的スティグマのない社会をめざして〜「自己責任」という社会的圧力に抗う方法を考える〜■ 第1回市民公開シンポジウムを振り返る 私たちは糖尿病に対する社会的スティグマを減らし、当事者が差別や不利益を被ることなく、病気

          Web開催:市民公開シンポジウムの予備告知

          糖尿病外来診察室で語るスイーツの話

          日本の栄養士さんはどう教えているのだろうか?管理栄養士さんは患者さんにスイーツについてどのように指導しているのでしょうか?昔、某メーカーからの依頼で3年間くらい、関東圏、北海道、北陸、中越、関西とSMBGの効果的な指導方法をグループディスカッションしながら学ぶセミナーの講師をして回ったことがあります。休憩で必ずケーキが出るセミナーだったので、参加した栄養士さんに「ケーキについて患者さんにどんな風に指導していますか?」と尋ねると、多くの栄養士さんは「すごく頑張ったときのご褒美と

          糖尿病外来診察室で語るスイーツの話

          市民公開シンポジウムのまとめ記事

          2021年12月12日、「生活習慣病を死語にする会」が主催した最初のイベントである市民公開シンポジウムを滞りなく、開催することができました。取り急ぎ大晦日にシンポジウムのレポートをまとめましたので公開したいと思います。1型当事者、若年発症2型当事者、遺伝性糖尿病MODY当事者の発表とそれを聴いたそれぞれの分野の専門家のコメントによって糖尿病患者が抱える“生きづらさ”の体験の意味を明らかにすることができたと思います。各演者のスライドも閲覧できます。総合討論の議論も抜粋して紹介し

          市民公開シンポジウムのまとめ記事

          シンポジウムのテーマ:糖尿病患者の”生きづらさ”とは何か?

          病の悩みは人それぞれだと思うが、今回のシンポジウムでは「生きづらさ」に焦点を当てる。当事者に苦痛を与える行為をなんでもかんでも「スティグマ」と呼んで欲しくはない。スティグマの言葉の定義を曖昧なまま使用することはアドボカシー活動の妨げとなりかねないからだ。スティグマは社会に端を発した偏見や差別にまつわる体験に対して使用するのが正しい使い方ではないかと考える。 ■スティグマとは何か? 昨夜のメンバーとの話し合いの中で、多くの気づきがあったので、備忘録代わりに「杉本のスティグマ分

          シンポジウムのテーマ:糖尿病患者の”生きづらさ”とは何か?

          告知:オンライン市民公開シンポジウム   糖尿病患者の“生きづらさ”について考える 医学、社会学、文化人類学、臨床心理学、そして当事者の立場から

          シンポジウムへの参加申し込み方法は一番最後にURLを記載しています。 ■はじめに「生活習慣」という単語に「病」という漢字を付けて命名された「生活習慣病」という造語に対して、私は以前より強い違和感を感じていました。元々は生活習慣に注意することで病気の予防に繋げようという意図があったと言います。しかし、その用語はその後「乱れた生活習慣によって発症する病気」と誤って解釈されるようになりました。元来、生活習慣は個人の生き方、思考方法、価値観、嗜好などと一体不可分な関係にあります。こ

          告知:オンライン市民公開シンポジウム   糖尿病患者の“生きづらさ”について考える 医学、社会学、文化人類学、臨床心理学、そして当事者の立場から

          あらためて「病歴聴取」について考える

          ■あらためて「病歴聴取」について考えてみた。 僕もたまにインタビューというものを受けることがあるのですが、インタビューの結果、出来上がった取材記事の帰属はそれを書いた質問者にあるのかというと必ずしもそうとも言えません。もしもインタビューアーが僕の発言を深く受け止め、要約、言い換えなどを用いた循環的質問をしてくれたとしたら・・・、そこで生まれた新しい視座はまさに自身と質問者との共同著作といえるのではないでしょうか? ■病者と医療者が紡ぐストーリーも共同著作 対談での語りは大部

          あらためて「病歴聴取」について考える

          夏になると想い出す懐かしい患者さん

          ■出会いもう20年以上前のことです。僕もまだ40代、今から思えば経験不足の若造でした(僕がナラティヴ・アプローチと出会ったのはもう少しあとのことです)。その患者さんは80代のとても可愛らしい独身女性で、毎週欠かさず教会に通うクリスチャンでした。彼女は若い頃、ある米国人家族の家政婦として長年働いていました。そして、そのご家族がサンフランシスコへ帰国することが決まったとき、ご主人から「あなたにはこれからもずっと我が家で働いて欲しいから、一緒にサンフランシスコへ来て欲しい」と頼まれ

          夏になると想い出す懐かしい患者さん