美術手帖「かぐや姫の物語の衝撃」から

なんとなく借りてきた美術手帖の「かぐや姫の物語の衝撃」を読む。まあ「読む」ていうか「見る」ぐらいの内容。んでもとどめておきたいところもあったので明示化してメモっとこうかと。

それは世間の「かぐや姫の物語」の誤読に対する違和感的な御札として機能するだろうからブログにでもエントリしとけばよいのかな?とちょっと思うんだけど、、やっぱメモ程度で済ませたいのでこっちにしとく。検索機能は弱いのでソーシャルブックマークしとけばよいだろうし。


さておき、本特集でいちばんの発見だったのは「かぐや姫の物語は女性の物語として描こうとしたものでもなかったのではないか?」ということ。

このあたり歯切れ悪くなるのだけど、どうも高畑勲とプロデュース側で意向が違ってた印象が高畑の会話の端々から感じられた。


かぐや姫を描くことになった動機は、「今これをつくろう」と言って始まったのではなくて、実は以前から持っていた企画が運良く実現したんです。もちろんこれまで自分が生きてきた時間が作品には反映されていますが、50年以上前に考えたときと基本的な構想は変わっていません。例えば原作によれば、月は苦しみも悩みもない清浄なところというんですから、光はあっても色がない場所だと思ったんですね。僕はそんな場所に生きている者が地球の話をちょっとでも聞いたら、憧れて当然じゃないかと思ったんです。地球には色もあるし生き物もたくさんいるし、人間には喜怒哀楽の感情がある。そういう豊富さ、面白さが月にはない。その対比を軸にして、映画をつくることができるだろうと。


じつは原作にはほとんど関心がなかったんです。ただ東映動画に入社した頃に、映画監督の内田吐夢さんが『竹取物語』をどうアレンジすれば映画として面白くなるか、社内でアイデアを募ったんです。そのときに出した案はボツになったんですけど、それが今回の映画のもとなんですよ。


それで『竹取物語』を読んだのですが、かぐや姫がなぜ地上に来て、なぜ帰っていったのか、全然わからない。『今昔物語』に『竹取物語』の原型のような話があるんですが、僕はそっちのほうが話としてはいいと思うんです。竹から生まれた絶世の美女が次々に貴公子を翻弄して月へ去っていってしまう。美は、憧れても計り知れず、結局手に入れることができないものだ。ただそれだけの話なんです。『竹取物語』はなまじ人物の心を描くからわからない。


高畑が最初に描こうとしたもののプロットは「なぜ姫は地球へ行こうと思ったか?」だった。

これは映画としては「姫の犯した罪と罰」というキャッチコピーで最終的に強調されるようにはなってたかと思う(それも高畑の意向とプロデュース側の意向との妥協点をおもうけど後述)。「罪」とは浄土・涅槃に住む姫が色のある世界に興味関心を持ったこと、「罰」とは姫に色-煩悩を与えたこと。そして姫は色と穢れの地、穢土へ使わされた。


なので、高畑がこの映画を通して描こうとしたのは「色」の部分、人が生を受けて、人として生きる際に出てくるさまざまな色だった。それはキャラデザインの独自性、背景美術の特異性という形で結実する。そこではキャラの顔は線対称ではなく非対称で、ひとつひとつの絵はデジタル的に複製できるものではなくアナログ的な筆と鉛筆的な作業で、ふだん見落とされているような昆虫や草が細部にわたって描写された。

特に印象的な場面、姫の怒りが頂点に達して走りだすシーンは一人のアニメーター(橋本晋治)が任されてつくったものだったらしい。「水彩作画」というその手法では絵具や白墨で原画のコピーの上に一枚一枚筆で着色した絵がつくられ、あとでそれらが合成される。キャラクターの動きを決定する原画(cf.デッサン)+着物の模様の動きを表現するための模様作画、それにくわえて着物の影を表現したのが水彩作画。間違ってるかもだけど自分の印象だとshiroさんのこの手法に近いものを感じた(印象派のあれとか)。


紅茶で着彩。染み込み方が絵具とは違うので水彩ではでない表情がでて、お気に入りの「画材」です|Shiro|note https://note.mu/roshisor/n/nd7d440a1c223

紅茶が乾いたところ。この上から鉛筆で描き加える予定です。|Shiro|note https://note.mu/roshisor/n/n344dd1d7074d

move|Shiro|note https://note.mu/roshisor/n/n5be32f23ef53


デジタルではなく筆で一枚一枚処理ということだけでも時間がかかるのにそれを一人のアニメーターが担当したとのこと。これによって「影の塊が動くような特異な効果」が生まれた。



switchジブリ特集 西村義明✕川上量生対談「狂気の沙汰ですけど、『かぐや姫の物語』で姫の疾走するシーン、あれは全て水彩画。」 | 隠居系男子 http://inkyodanshi21.com/subculture/studio-ghibli/3490/

高畑はほんとは全て水彩で描きたかったのではないかと想われるし、それは狂気の沙汰だが

西村:部分的にはやっているんですよ。これも狂気の沙汰ですけど。予告編で姫が疾走するシーンがあるんですけど、あの辺りは全部水彩画で塗っています。アニメーターが描いた何百枚という絵を画用紙に印刷して、一枚一枚手作業で水彩で塗っているんです。それをやり始めた時に「この映画、絶対に完成しない」と思った。(笑)


加えていうと橋本さんは姫の疾走シーンの他に桜の木の下のシーンの捨丸との再会あたりまで、姫が自分の作った庭を壊すシーン、ラスト近くの飛翔シーンを担当されたらしい。



アニメーションを実際に作ったことないのでわからないけど、山村浩二さんとかが集まるアニメ芸術祭から伺うに、ああいう「手作り」アニメはクレイアニメーション的な手間がかかるようで、だいたいがショートムービーに収まる。それでも1年とか半年とか時間かかるのに。。(まあかぐや姫は8年がかりなんだけど)。ドミノ倒しをつくるのにも似てる。


高畑監督は奈良美智さんとの対談の中で「そういった絵は最初の鉛筆画、最初の水彩画的な魅力を損なわないように表現できたらなあとおもって表現したものだった」みたいなことを言っていた。


前々から僕がやれないかと思っていたことのひとつが、アニメーターの描いたラフスケッチの線をそのまま生かすことなんです。クイックアクションレコーダーというカメラで、描いた一連の絵を取り込んですぐに動きを確かめることができるんですが、上手なアニメーターが、ラフの段階でザッと描いたものの動きを見たとき、勢いがあって生き生きしていて、これは素晴らしいと思う。ところがそれを一本の線に整理して原動画にすると魅力が半減、いやそれ以下になったりするんです。それが残念で、最初のあのエネルギーをそのまま生かせないだろうかと考える。今回かぐや姫が疾走するところなどでそれが実現しました。


文脈的には背景に余白があること、その余白があることで却って見るものの「感じてやろう」という気持ちを喚起する、というもの。この辺りは「余白の芸術」ー「ミニマル」―枯山水―サビサビを連想する。



高畑監督の描こうとしたものはそのぐらいな感じで、やはりテーマというよりはモティーフであり、テーマ以前にモティーフをしっかりと描き、そこから立ち上がるものに期待したということではなかったかと思う。アニメーションに携わる一人の職人として。


なので、最初の「姫はなぜ地球へ来ようとしたのか?」「月の世界は光であふれてるけどそれだけだと色が見えない。光だけではなく色がみたかったから」というところぐらいがわりと明確なテーマで、あとはモティーフを描いているうちに乗っかってきたストーリーだったのではないかと思われる。

生と死 ー 無常感についてもびみょーなとこではあるけれど、高畑が担当したと言われる主題歌の歌詞から伺える。

「かぐや姫の物語」をみた|m_um_u|note https://note.mu/m_um_u/n/n30f80ab381a7


というか、フェミニズム的な「女性の自立」的な物語もテンプレであるし、恋愛もそうだったのだろう。


女性の自立的な物語は現代的な文脈で歴史厨からするとああいう時代の女性にあのような心理が顕れるのはおかしいし違和感てのはある(cf.花輪和一)。しかし、そのあたりはプロデュースサイド(西村さんと鈴木さん)から「あれは現代に生きる女の子があの時代に投げ込まれた時にどのように感じるか?という設定なんです」と説明されていた。そして、その女性の自立的な物語がプッシュされていた。


類推だけど、たぶん高畑勲が描きたかったのはリアルなあの時代な心情のほうで、特に女性の自立的なドラマとかはいらなかったのではないか?まああってもなくてもよいのだけど、たんにアニメーションとしてあの時代の様子を微細に表現できればよかったというだけで、それに昨今のラプンツェル―アナ雪的な女性の物語への需要をプロデュースサイドが感じ取って物語としてのそれを当てはめゴーサインを出したのではないかと思われる。



ともあれ、美術手帖のこの特集は「かぐや姫の物語」制作にあたっての「SHIROBAKO」的な裏話が垣間見えておもしろいのでそういうのに興味あるひとは読んでみると良いのではないかと思う。その辺については自分的にも未だ書き足りないぐらいの情報量があるので。


あと、雑草を丹念に描いた、なとこでスミザーさんの庭とか日本の野山の植物の豊穣を思い、植物図鑑手に入れて知識インストして山登りしたいなもしくは川原アソビ、とかあらためておもった。




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