不正請求の種類と見極め②
過去の整骨院シリーズ
序章:整骨院の売上構成
第1章:不正請求の種類と見極め①
※ 今回の内容の本編は2つ目の⚪からです。1つ目の⚪は2つ目をより深く理解するために知っておくと良いと思った請求の内容説明となっております。
【影響力:★★★★★ ★★★★★】
◇保険請求売上(2)ー1
皆さんが整骨院業界に対して不思議に思っていたり、俗に聞く“不正請求”という言葉。おそらく大部分が今回の話です。そこで、まずは請求する上で必要な項目と詳細、その後どの様な不正が扱われているかを書いていきます。途中で「ん?」って思う所も出てくるでしょうが、どうか⚪〜⚪の一区切りまでは我慢して下さいm(_ _)m
⚪請求する上での必要項目
・負傷の種類
整骨院で保険請求として出せる疾患は「捻挫・※挫傷・打撲・骨折・脱臼」の5つです。ただし、骨折・脱臼に関しては応急手当としての“初回のみ”以外は医師の同意が必要となります。なのでら柔整師が独自の診断の元で請求として出せる疾患は「捻挫・挫傷・打撲」の3つです。
この5つの疾患は、所謂「急性疾患」といい、整骨院で保険診療として請求を出すには、これらの診断を必要とします。ちなみにこの急性疾患、“急性期”と呼ばれる期間は“負傷日より3ヶ月”と定められており、それ以上の治療を有する場合、“長期理由”として“なぜ3ヶ月以上かかるのか”をきっちり記さないと、請求額が支払われません。
※挫傷…表面的には目立たないが、皮下組織や筋、腱などに損傷を受けた状態のこと。例:肉離れなど
・負傷日 初検日 負傷原因
ケガをした箇所の負傷日と初めて院で診察した日付を必ず記し、さらに負傷した原因の記入が原則必要とされています。しかし、負傷箇所が2箇所までの場合、請求時にレセプトに負傷原因を記入せずとも申請が通るので、3箇所以上の請求時のみ記入が必要となります。
また、レセプト提出時には負傷箇所の治療状況を“継続、治癒、中止”という判断が必要であり、先程の“長期理由”も必要ならば記入します。
・来院日数 経過
整骨院に何日に通って合計何日行ったかを記入する必要があります。また、ひと月の間で10回以上通った場合は“濃厚施術”とされ、「何故それだけの回数を必要としたのか」という“経過”の説明を添える必要があります。
・請求時に発生する料金の種類(初回)
初検料(1450円)
初めて行った際には必ずかかる費用。しばらく日が空いて違う怪我で通った場合もかかります。
相談支援料(50円)
怪我に対する説明や治療方針、アドバイスなどをするとかかる費用。
施療料(一部位あたり760円)
治療するための施術料みたいなもの。怪我の数が3部位以上ある場合、3部位目からは×0.6円の計算になります。
罨法料(一部位あたり80円)
冷やしたり温めたりする事。急性疾患で来院した場合は冷罨法、怪我の治療として何回か通うようになると温罨法となります。これも怪我の数が3部位以上ある場合、3部位目からは×0.6円の計算になります。
・請求時に発生する料金の種類(2回目以降)
罨法料
上記の説明と同じ。温罨法なので、温熱療法を施すことで請求が可能になります。
電療料(一部位あたり30円)
整骨院ではお馴染みの“電気療法”です。低周波や電気を使った施術を施すことで請求が可能になります。怪我の数が3部位以上ある場合、3部位目からは×0.6円の計算になります。
後療料(一部位あたり505円)
患部が正常になるまで施す施術。やり方の指定は特にないので、院によってやり方は様々です。これも怪我の数が3部位以上ある場合、3部位目からは×0.6円の計算になります。
これらの請求時に発生する料金の合計金額のうちの一部を負担金として患者さんは整骨院の窓口で支払いいます。
…ふぅ
聞きなれない単語や数字が並んでいて、読んでいて眠たくなったのでは?ww
この後書いていく文を読む上でキーワードとなってくる言葉を敢えてピックアップするならば
・急性疾患
・一部負担金
・負傷日、負傷原因
・長期理由、濃厚施術
・来院日数
・施療料
こんな感じですかね?
それではこれより、ズカズカと話を切り込んでいきます(`・ω・´)キリッ
⚪具体的な不正請求
では本題。
まず前提として知っていただきたいのは、整骨院を利用する目的は
急性疾患の治療
これだけです。
ですが考えてみてください。身の回りやご自身が通われてる整骨院の理由って、捻挫や打撲の治療ですか?まぁ中にはそういう方もいらっしゃるとは思いますが
慢性的な腰痛や肩こり、頭痛
正直これらで通ってる方、結構多いのでは? 残念ながら、これらは“慢性疾患”として扱われる内容ですので、保険適用外となり、整骨院でこれらを扱う場合は自由診療(保険外実費)となります。
ではこれらで通ってるのに500円前後のお金しか払ってないよ?って方々はどういう扱いになっているかというと
捻挫、打撲、挫傷のどれかとして保険請求がかけられています。
ですがこれだけでは不正とは言えません。仮に“腰がしんどい”という症状でも、“日常生活で〜の動きをした時に痛めた捻挫の影響”として問診を通して診断した場合、捻挫の扱いとして問題ないからです。
では何処で不正に関わる事が出る可能性があると言うと、
長期的・定期的に通っている場合
発生する可能性があります。具体的な数字を出すなら“3ヶ月以上”通っている場合です。
この“3ヶ月”というのは急性疾患として許容されるギリギリの期間で、それ以上は“長期治療”となり“症状が慢性化した”という認識に変わるからです。
でも実際に捻挫したとして、症状が長引く時ってありますよね?整骨院側も長期治療で請求を出す意図としては「もう少しで治るねん!あとちょっとやねん!」という場合があります。しかしその場合、急性期の時とは違い、整骨院側に支払われる請求額は“減額”されます。
ここでまた1つ疑問点。特にずっと通ってる方がいればお聞きしたいのですが、
窓口で支払う金額、ずっと変わりませんか?
“同じ箇所の怪我”で“長期的に通った場合”、“請求は減額される”
つまり“請求が減額される”というのは、必ず“一部負担金も減る”ということなんです。
でも仮に“負担金がずっと変わっていない“というのも、決してありえない訳ではありません。
ではどうすれば変わらないかというと
負傷箇所や負傷日が3ヶ月過ぎるまでに途中で切り替えられてる場合、負担金は変わりません
こうすると3ヶ月以上経つという減額が起きないので、支払う額も減ることもありません。
しかし怪我が変更されると“新しい怪我”となるため、先程の初回請求の扱いの施療料が適用され、2回目以降の電療料や後療料が掛かりません。もっといやらしい話をすれば、途中で怪我の切り替えをすることで、整骨院側も利益を損なうことはありません。むしろ1人に対する“単価”が上がります。
もし日課や定期的に保険診療で整骨院を利用する患者さんを抱えている場合、ほぼこのやり方をしています。この怪我の変更をすることを業界では「部位転がし(部位コロ)」と言います。
ただしこれだけならやり方次第では問題無いのですが、悪質なのは月末に行うレセプト用紙の作成作業の中で、部位転がしを患者さんに告げないまま勝手に行うという点にあります。
しかしまたまた疑問点。
後療料+電療料を足しても施療料の金額には及ばないので、もしも“支払い金額がずっと同じ”という方がいらっしゃる場合、これも起こりえません。
なぜなら
怪我の切り替えが行われると必ず負担金は少し上がるから
です。
では“ずっと支払い額が変わらない”という場合に整骨院側で取り組んでいるパターンは2つ。
・予め多い目の負担金を設定している
・月末のレセプト作業時に、適当なタイミングの日に後付けで部位転がしをしている
この2つです。
これならば途中で負担金が変わることなく、患者さん側は常に同じ金額で治療を受けられるという仕組みです。
この負担金に関する話までするとさらに長くなるので、次回に“負担金と来院日数”をテーマに書きます。
⚪回答書
ここで本日2つ目の本題“回答書”。
これは健康保険組合から患者さんに送られる書類のことで、主に聞かれる内容というのは
・何の怪我で通いましたか?
・何日通いましたか?
・いくらお金を払いましたか?
ざっくりこんな感じです。特に“何の怪我で通いましたか?”に関しては負傷した原因や日付まで記入することを強いられます。
…まぁ先程の“部位転がし”の話を理解して頂けてたら分かるかもですが、“怪我がしょっちゅう変わる“”頻繁に整骨院に通う“っというのが続いていると、保険者側も「コイツ、ホンマにちゃんと理解して行ってるんか?」という風に考えるのも当然ですよねw
さらにこの回答書、来た人からするとわかると思いますが…
“めんどくさい”
この一言に尽きますよね?しかも長期的に通う方なら、1度ではなく何度も来ますし、保険組合次第では1度でも利用すれば送って来るような所もあります。
これはボクが業界に携わっていた時の考えですが、回答書というのは“正しい保険診療の調査”というのが建前ですが、裏の目的として利用者に“めんどくさい”という感情を持たせる為でもあるのでは?と思っていました。
だってこんなゴチャゴチャと何回も聞かれていると、まるで“取り調べ”みたいになり、めんどくさいという気持ちと同時に“罪悪感”という意識が芽生えます。そうすると必然的に患者さんは整骨院を利用しなくなりますよね? 実際、この回答書が数多く配られ出した時、ボクがいた院の患者さん数は大打撃を受けました。
要は
整骨院に関する調査を建前に、整骨院に通う患者さんを減らしたい
これが目的だと思っています。
ではこの回答書を無視した場合どうなるかと言うと、患者さん側には何のリスクもありません。せいぜい整骨院へ通うことを注意されるぐらいでしょうか。
しかし整骨院側にしたら大問題!
その患者さんの請求が全く支払われません!
提出無視だけではなく、整骨院側から出された請求として内容が違っていても同じ結果です。だから整骨院側は患者さん側に「回答書が来たら必ず持ってきてね!」っと促すわけです。
この回答書、特にお年寄りに多いのですが「ワシは肩こりで行ってるだけや」っとそのまま書いちゃうんですよねぇ…
保険診療で整骨院を利用しているというのを本質的な所で理解してない人が多いです。
ちなみにこういった回答書の不適切な対応が増えた場合どうなるかというと、勘のいい方なら分かると思いますが
整骨院に調査が入り、最悪潰れます
先程書いたようにずっと通っている場合、間違いなく“部位転がし”は行われています。つまり自分の認識している怪我ではない可能性が大です。なので利用している整骨院に対する回答書が来た場合、必ず整骨院に持って行き相談して下さい。
…っというのは整骨院側の意見。本来ならばそういった事は想定しなければなりません。ですから仮に患者さんの元へ回答書が来た場合、“患者さん側でちゃんと把握してる情報を患者さん自身が書いた上で提出する“。この流れが出来るように整骨院側は取り組まなければなりません。
ではどうするか?というのは、この後の“見極め”で書いていきます。
⚪見極めポイント
これは僕が院長をしていた時に実際行っていた事ですが、要は“回答書の対策”を徹底していました。
別に患者さんに回答書を必ず持ってくるようにと促すわけではありません。むしろ、“患者さんが回答書を持ってこなくても済むように”というやり方をしていました。
具体的にはどうするかと言うと
・月の初めに怪我の変更や日付、負傷原因を患者さんに問診を通して必ず伝える
・診断書を作成し、自宅で保管してもらう
・領収書を毎回発行する
この3つを徹底しました。
要は整骨院を利用してもらう上で整骨院の仕組みを患者さんに全て話してました。こうすることで仮に患者さんの元へ回答書が来ても診断書や領収書がある訳ですから、それを元に書けば良いだけですからね。仮に失くしてたとしても原本はこちらにある訳ですから再発行すれば済む話です。
さらに部位の変更をした事によって発生する負担金の増額も、月初めの問診を通して伝えているので患者さん側も「月初めやから支払い額変わるねんな」っと理解して貰えます。
まぁそれでも「これであってるんかな?」って持ってきてくれる患者さんばっかりでしたけど、回答書が来ても“得体の知れない物”ではなく“来て当然のもの”と解釈してもらえてる証拠なので大成功です。
もし理解を得られない場合は帰ってもらってましたねw 「うちでは扱いきれません」って感じで。
自分だけならまだしも、抱えているスタッフや患者さんもいる訳ですし、迷惑になりうる人はNGでした。
ボクが院長していた時代から進んでいる訳ですし、当時から取り締まりが厳しかった訳ですから、今では当然こういった対策してる院が当たり前やと思いたいのですが…意外と少ないみたいですね。
これは個人的な意見ですが、整骨院はもっとそういったお金の部分をオープンにするべきだと考えています。学生さん相手ならまだしも、相手はほとんど社会人です。世の中の仕組みや事情というのは理解出来るはずです。
まぁオープンにしたところで、“本来の保険診療”の利用方法ではないので、白か黒かで言えば間違いなく黒です。
それでもこれだけは断言できますが、
決して整骨院という仕事が悪いわけではありません!
なのでもしこれを読んだ方で整骨院に通っていたり、周りに通っている方がいらっしゃる場合、
これらの知識や情報をどこまで患者さん側にきっちり伝えているか
というのを、善し悪しの見極めとして判断して頂ければなと思います。
⚪あとがき
いかがでしたか?かなり長くて専門的な知識も多かったので混乱されてる方が多いと思います。
今回、なぜ“あとがき”を加えているかというとこれだけはわかって頂きたいということがあります。
それは
キッチリしている整骨院はキッチリしている
です。
どういうことかと言うと、何でもかんでも保険診療としていた昔とは違い、“保険”と“保険外”を区別している院が少しずつ増えていているということです。つまり肩こりや腰痛で来られた患者さんに対し、保険適用外というのをちゃんと伝え、実費による自由診療を施すということです。
ですので次回も“負担金と来院日数”に絞ったテーマで書きますが、あくまで「こんなことしてる整骨院があるやなぁ」程度に考えて下さい。
全ての整骨院がこんな事している訳ではありません!
以上!!
では次回をお楽しみに(*´ω`*)
次回【負担金と来院日数】
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