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義妹の事

ファミリーツリーというのは中々馬鹿に出来ない。父母弟妹祖父祖母位はなじみがあるが、伯父伯母叔父叔母従兄弟はとこ位になってくると段々自分の中の把握度が一杯いっぱいになってくる。そして血縁者が連れ合いを得る事によってその複雑度は一気に増す。

私の弟は無口で配偶者を得るのは困難かと姉ながら思っていたが、ご縁あってお嫁さんが来た。まあ少々時は遡るのだが、この娘さんに東京駅で初めて会った時まだ息子は小学校の低学年だった。モデルの佐藤康恵さんを思わせる色白長身のこの娘は、ゆるくウエーブの掛かったロングヘアとシフォンのスカートがとてもよく似合っていて、私と息子はその綺麗さというか白さに度肝を抜かれてしまった。ま、まぶしい。以下便宜上、お嫁さんの事を仮名であるが康恵さんと呼ぶ。

駅で会った康恵さんは早速息子に駆け寄りひざまずき「うわあ、可愛いね」と笑顔を向けた。普段ぺらぺら喋る息子だがその時「むぐっ」と言った位でもじもじしていたことが印象深い。
その後康恵さんと会ったのは彼らの結婚式の時だった。私はもう少し会いたい気がしていたのだが、時折すったもんだしている話を遠巻きに聞くだけで
終わっていた。

弟との結婚後も私は康恵さんと会うということは余り無かった。お茶とかしたいなと思っても無かった。母から康恵さんが妊娠したことを聞いた。私よりひとまわり若い康恵さん、赤ちゃんが出来て良かったなと思った。まあ私達としては弟に子供が出来た事実の方がまるで僥倖であった。

それからも康恵さんは私とは中々会う機会が無かった。密かに大きなお腹の康恵さんを見たいなと思っても見かけなかった。弟と康恵さんは私達の実家とは別居していることもあって余り行き来がなかったのだ。正直言って康恵さんと殆ど話したことがない。私の中で康恵さんは謎の女になっていった。

その頃から母が私に愚痴るようになってきた。父を亡くした後、弟と商売を営む実家に早く康恵さんを入れたいが、康恵さんが二の足を踏んでいるというのだ。成る程家業は決して今受けの商売では無い。
今時の娘さんの康恵さんが実家の商売にどっぷりというのは想像し難い。私達は口をつぐみ暫く成り行きを見守っていた。

しばらくして男の子が誕生した。弟と康恵さんの赤ちゃんだ。しかし私達はその赤ちゃんとも中々会えなかった。いよいよ私は康恵さんへの疑惑が芽生え始めていた。

ただでさえ小姑。可憐な康恵さんに対して、何をしても私が悪くなりそうで、ここから彼女とのすれ違いが始まったのかもしれない。