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山法師  〜神田川慕情3

 夜の8時ともなると、さすがに夏の陽もとっぷりと暮れて、川辺に涼風がたつ。所々にいまが盛り山法師の花が、街灯に照らされて浮き上がっている。大汗をかいたトレーニング後の肌に夜風を心地よく感じながら、スタジオで補充してきた冷たい水素水のボトルを片手にぶら下げ、ときどき口に含みながらゆらゆらと歩く。
 人影もまばらな川辺の道に、後ろからガラガラとキャリーを引く音がして、見るからに海外から帰ってきた風情の若い女性が追い越していった。すれ違いざま一瞬身を固くして戸惑う自分がいる。
 わが国の水際対策はズボズボだ。海外で発生した変異株が、またたくまに各地で感染を生んでいる。人がウイルスを伝搬する。とっさに、人が人を疑ったり、怖いと思う気持ちが生まれてしまう。困った世の中になってしまったものだ。
 新型コロナウイルスが流行しはじめたとき、仕事の関係で医師が書いた本などを読みあさった。栃木県那須烏山市の七合診療所長でウイルス学がご専門の本間真二郎先生の『感染を恐れない暮らし方』に共感して、原稿をお願いしたりもした。
 先生は「新型コロナウイルスは、健康な人(とくに自然に沿った生活をしている人)は、あまり恐れる必要がないということです」としたうえで、「新型コロナウイルスが恐怖なのではありません。人の恐怖心が恐怖なのです。」と力説されておられた。人は未知のものに恐怖の感情を抱く。そう思って少しは勉強もした。いま、改めて「安全・安心な暮らしを守ることが最優先!」をスローガンに力説してきた政治家が怖い。
 コロナの嵐はやがて収まるだろう。その時、社会は、人の心は、すさんでいはしまいかと、それが怖い。

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